第5話 彼女の感謝。そして、失敗
急いで、されど音は出さず。その事を徹底しながら彼女の腕を引きながら走るアルトは必死に考えていた。今の彼には好奇心のままではいられず、青い顔になっている。
小屋の中で出会った美少女の話が本当ならば、今のアルト達は例の大人に見つかれば殺されてしまう状態であり、先に救助に来たはずの所へと行かなければならない。
「あ、あの。これはどこに向かってるのでしょうか?」
「無論小屋から遠くですよ、救助に来てくれている人の方角はまだ分からないのですか?」
「す、少し……止まってくださいませんか?……はァ…」
「……ここまで来れたら少しは大丈夫でしょう。ここで調べてください。」
本当ならもう少し走らないといけないが、調べるのに止まらないと行けない事。何よりも彼女の息が持たなそうな為、ここで休憩することにした。
「……はァ……ここで調べるのは良いのですが、私にも状況を教えて下さい。」
「そう思うのなら先に調べてください。知りたいならしながらで教えますので。」
ジトリ、とコチラを見てくる彼女だが、合理的だと判断したのか、胸に手を当て、唱え始めた。
「……きて、バンちゃん。」
『キュー!』
いきなり声が聞こえたかと思えば彼女の隣に神秘的な動物が現れた。
「お願いバンちゃん。助けに来てくれた人を探してくれる?」
『キュ?キュー!』
「ありがとう。それじゃあお願いね。」
『キュー』
彼女と話していた動物?は話し終わったのかその場で消えた。
「……ふぅ。これで待てば救助に来てくれた人がどこにいるのか分かります。それでは、説明してください。」
「………それは構わないけど……今のは?」
「……貴方は、
そう言われるアルトだが、9歳の頃からクズの家の使用人なのだ。町にある物ぐらいしか知らないアルトが首をかしげれば彼女は説明し始める。
「魂結人というのは自分と契約している精霊の事を指します。そして契約してくれた彼等が力をかしてくれると様々なことが出来るようになります。それこそ人間では出来ない事だったりも。私の魂結人にはそのような力は無いのですが。」
「……それは、誰でも出来る事なのか?」
「…それは難しいです。契約を結ぶ前に
つまり、石を使えば精霊?を呼び出せて、その精霊に好かれることが出来れば契約ができる。契約出来たら魂結人から力を貸してもられるという事か。
少し曖昧だが、理解出来た事を彼女に伝える。
「ありがとう。曖昧だけど理解したよ。」
「それは良かったです。……では、今の状況について教えてください。」
「…………ああ、わかった。」
なんでこんなに賢そうなのに今の状況が分かって居ないのだろう?と思いながらも説明する。
彼女の言葉が本当ならば誘拐した人達は彼女を別の国に攫おうとしていた事。
小屋から逃げた為、見つかってしまえば彼女は再び捕まり、自分は殺されてしまう事。
彼等から逃げる為にできるだけ小屋から離れている事を 全て話した。
「以上が、今に至るまでの経緯です。……なにか質問などは?」
「……」
質問は無いかと彼女に確認するが、あまりの事に絶句している。そのまま待機する事数分。戻ってきた彼女はアルトに感謝を伝える。
「私を助けて下さり、ありがとうございます。貴方が居なければ私の明日は無かっでしょう。」
「先程も言ったようにお礼は不要です。その時の私の意識は正常じゃ無かったので。」
実際、あの時アルトが森の奥深くに入ったのも謎の冒険者テンションがあったお陰である。仮に彼女を見つけた時にその状態じゃ無かったらきっと、今頃彼女を見捨てて来た道を戻っていたから。そう考え不要だと言ったが彼女は首をふる。
「そうでは無かったとしても、貴方はきっと私を助けてくれたと思います。それに、私は今のあなたに感謝しているのです。感謝だけでも受け取って貰えませんか?」
「分かりました。それじゃあ感謝は受け取りますので、お礼などもこの状況を切り抜けるまでは受け取らせて頂きます。」
その条件でひとまずは納得した彼女は満足そうに頷いた。
「その…今更ではありますが、貴方のお名前は?お礼の際に間違えないようにしたいのです。」
「そういえば名乗っていませんでしたね。私は使用人として働いてる━━危ない!」
「え?」
彼女を守る為に押し倒して掴もうとしてた手を避けさせる。その際に森で拾った石をその方向に向かって投げるが、暗闇から現れた男によって防がれる。
男に木剣を向けながら彼女を起こし、体制を整えながら思考を回す。
(やばいやばいヤバいヤバい!彼女と話しすぎたせいで接近にきずけなかった!)
今までクズに散々木剣で殴られ、クズの弟に魔法をぶつけられてきたが、それよりもヤバい事を肌で感じる。その事に恐れながらも抵抗として我流で木剣を構える。
そして、もうひとつの可能性。この人が救助に来た人だと祈るが、
「あ、あの人です!あの男が、私をここまで攫ったのです!」
無情にも近い言葉が彼女から伝えられたのだった。
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