第2話 アルトと言う使用人

「死ね!アルト!」

「がっ!」


 今日も物でひとを叩く大きな音が鳴り響いた。

 

場所はある子爵家の庭。子爵家の名前なんで忘れた。覚えるきにもならなかった。原因は今自分に木剣で攻撃してきたこのクズのせい。名前も覚えたくないが、確かロキと言う名前だったと思う。一応自分も木剣を持っていたが、模擬戦開始早々、木剣は飛ばされて、足払いで転ばされたあと、タコ殴り状態だった。


「お前は、本当に、弱いな!アルト!」

「…………………………………………」


 何度も木剣で殴ってくるが痛みを声に出さず、耐え続ける。ここで声を出してしまえば調子にのり、いつもの倍叩かれる。この子爵家に来てから3日でその事を理解した。最近は叩かれすぎたせいか、皮膚が青くなると同時にだんだん硬くなって今では痛みを感じなくなった気がする。


「はぁ、はぁ、はぁ、ここまでにしやるよ。感謝しろよ。」

「………………………………」

「返事が無いな!」

「がふっ!?」


 しまった、ぼーっとし過ぎたせいで一発多めに叩かれてしまった。


「ちなみに、今の場面では『ありがとうございました。いつもお世話になっております。』と言わないと叩かれるぞ!……誰に言ってるんだろ。」


 最近、1人でいることが多いからか1人事が多くなってきた気がする。別に困るほどでも無いけど。


 庭に散らばっている沢山の木剣を両手に持ち、倉庫へ向かおうとした直後、小さめの土の石が右足ぶつけられ、倒れてしまう。飛んできた方にいたのはクズのロキの弟だった。名前は知らん。そいつはニヤニヤしながら倒れた自分に向かって氷や火の玉、雷をぶつけていく。皮膚が焼かれて、声にならない声を出している自分を見て満足したのか傷がついた体を魔法で直して去っていった。あれ程痛かった皮膚も痣が残るぐらいに戻っている。


「いつも思うけど何かいばいいのに。」


 契約上、自分はグスのロキの所有物となっているらしく、自分が傷つけたのを隠すため最後に回復魔法をかけて行くらしい。あのクズだったら『さすがだな!今度からは俺の目の前で魔法をアルトにぶつけるんだぞ!』とか言いそうなのに。意味わからん。

ギズは治っても痛みは治らない。傷んだ体をこれ以上痛めないようにしながら少しづつ片付けを進めるのだった。






「今日の残飯は………ベーコン。腹壊しそ……」


 月が見え始めた時に庭の片付けが終わり、食堂に行けば、来る時間が遅すぎたせいで残飯しか残ってなかった。ここに来て10日の時に間に合うよう。急いだが、クズとその弟のせいで間に合う事はほとんど亡くなった。ちなみにフライパンなどの食器類は使えない。使えば、イチャモンつけられて木剣の量が多くなるから。


「………仕方ない。腹壊すとしても食うしか、?」


 ゴミ箱の後ろをふと見たら料理が乗ったお皿が隠すように置いてあった。見つけてしまえば抗えず、夜食はそれに決まった。



~~~~~



「……寝ないと。」


 12時になれば自由時間になるが、寝なければ明日の仕事に響く。そう思ったアルトは子爵家を自分の家に帰るためである。基本的には住み込みの仕事は部屋を用意させてもらえるのだが自分にはそんな場所はない。正確的には部屋はあったがクズに追い出された。部屋で休んでいた時はクズやいきなりやってきては殴る蹴る挙句の果てには物を盗まれたりとやりたい放題やられたので辞めた。流石に心が壊れてしまうとその時は思った。今となっては選択は正しいと思える、あの部屋何も無くて床で寝てたから。そんな事思い出しながら歩いてやってきたのは魔獣の森。


「確かここら辺に………あった。」


 木の上に隠して置いたカバンから袋を取り出し太い枝に敷いて簡易布団を作る。他の場所は近くに街があり基本的に人が通るのでそこには入れない。それで苦情が子爵家に伝われば明日の我が身は無いだろう。とは言っても此処も魔獣の森と言う名前なだけあって魔獣やモンスター、狼もおるため、見つかり襲われれば死ぬからどっちもどっちだろう。


「……さてと、木剣はどこやったっけ…あった。」


 父親の形見である少し大きい木剣を手にして地面に降りる。そして、木剣を構え、素振りをする。師匠なんてのは居ないので自分が考えた振り方で降っていく。剣筋が変われば修正してを繰り返し直していく。ここまでがウォーミングアップ。


「これぐらいかな。それじゃあ……………ハッ!」


 素早く木剣を振り落とし、切り上げ、斜め切り、横なぎ、突き、垂直切り。これをステップを織り交ぜながら繰り返す。これをやらないと眠れないのだ。

 それが終われば最後の工程へ。


 木剣を近くの木に立てかけ、小さな丸太を上に投げて、落ちてきたところを━━


「いい加減に加減を覚えろクズ野郎!」


 横っ腹に殴り飛ばす。これをやらないと寝れないのだ。虚しくなるだけだが。


「…………寝るか。」


 そうして、使用人 アルトの1日が終わるのだった。










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「今日はここまでにしてやるよ!いつもよりも多く鳴くもんだから調子にのっちまったぜー!」

「………………」

「返事しろや!」

「ガハッ!」


 次の日、いつものようにクズに好き勝手に殴られていたのだが、昨日食べたベーコンで腹を壊してしまったらしく、いつもは出さない声が出てしまいめっちゃ木剣で殴られた。


 クズが屋敷に戻ったのを確認して、重い足を引きずってると左足に土の石がぶつけられ転んでしまう。

 飛んできた方向を見れば、ニヤニヤしているクズの弟が。その手に風邪薬を持ってるのを見て、理解した。


(あの料理の中に風邪薬いれたな?あの野郎)



 それ以来、アルトは作られた料理には警戒して触らず、ゴミ箱の残飯を漁ったのだった。


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