第16話 攻略対象の豹変(転入生)

生徒会長の侯爵家に来てから怪我が良くなりリハビリも進み、ようやく足と腕が治った。ここまでに数ヶ月かかったし、とっくに剣術大会は終わってて優勝はやはり王子だったとヘクター君と生徒会長が教えてくれた。


「明日からまた学園に通えるのね」

と復活した足をバタつかせていたら生徒会長とヘクター君がお茶を持ってきた。


「元気そうだね、もちろん男爵家には話は通してある。当分はうちから通うといい。まだルイス君は諦めていないようだし家に戻るのも危険だろうしね」

と愛想良く言う。デブだったら絶対追い出していただろう。私は早々に会長を追い出して今後のことをヘクター君に話した。


「ミキャエラ様…不安でしょうけど」

と明日の心配をしてくれる。


「ありがとうヘクター君。私は大丈夫よ。……あのね、私がもしまた元の体型に戻ったら…どう思う?」


「元に戻られるのですか?僕は別にいいですけど、また不当な扱いを受けるかもしれませんよ?」


「あ、元に戻ると言うより中間をキープみたいな感じかしら少し今よりふっくら程度を目指すつもりよ」

中間をキープすればもしかしたら普通の扱いをされるかもしれないと私は療養中に考えていた。以前の私はもの凄い太り周りを不快にしていた。そして怪我で激痩せしてからはまた違う反応になった。


ならば中間位置の体型になればやっと普通になれるのでは?と感じた。本当は痩せて綺麗をキープしたいところだが…それは。


「大丈夫!学園を卒業してヘクター君のお店を取り戻してヘクター君と結婚したらまたこの体型に戻ろうと思うの!それまで待っててくれる?」

と手を握ると驚いて少し赤くなり


「え?よくわかりませんが痩せたり太ったりするって事ですか?今ミキャエラ様が痩せているのが好きならそれでいいのでは?」


「…痩せてるとなんらかの力で人々が私に魅了されるならふっくらしてた方が皆もまともになるかもしれないわ」


「そ、そういうことですか…。わかりました。卒業したらお店を取り戻してけけけ結婚しましょう!」

とヘクター君は赤くなる。


「あ…その…今更だけど本当に私でいい?アニタお婆ちゃんに言われたからって無理に私でなくともいいのよ?…それに私また太るし」

するとヘクター君は頰をプクーとさせて


「もう!何なんですか!そんなに僕が信用ならないのですか?太っていようがいまいが僕は…そ、その…ミキャエラ様の味方ですよ!決して今痩せてるからって魅了されてて結婚しようとか思いませんし、そりゃお祖母ちゃんの遺言も守りたいとは思いますけど…無理にとは言いません。


僕自身もミキャエラ様のことを好きじゃないと結婚しましょうなどとは言いませんよ…。ミキャエラ様と一緒に宝石店を経営していきたいと思いました」

ヘクター君はジッと私を緑の瞳で見つめた。

なんだか胸がソワソワした。


「ミキャエラ様…手をこちらに…」

と言うのでヘクター君の方へと伸ばすと…騎士の誓いのように手の甲にヘクター君がキスをした!


「わっ!?」

と驚くとヘクター君は


「ごめんなさい…指輪をまだ買ってあげられないから…そ、その代わりに誓います。僕の心は変わりませんと」

そう言うとヘクター君はそそくさと立ち上がり仕事があるのでと言い部屋を出て行く。

私はちょっとポカーンとしてそれから数秒して赤くなった。


「何よ。やればできるじゃない!」

と呟いたのだった。


それから朝になり私は制服を着て生徒会長とヘクター君と一緒に馬車に乗り込んだ。

侯爵家の馬車は広い。

私とヘクター君は隣に座り生徒会長は真向かいに座って何か私の方をチラチラと見ていた。ヘクター君は少しムッとして時々


「会長!見過ぎです!!」

と注意していた。その度にハッとなり顔を背ける会長だがやはり景色を見るフリをしてこっちを見る。


「お、おほん、…困ったことがあったら直ぐ私に言うんだよ?この生徒会長ジェイラス・ドウェイン・ゴドウィン・チェスターにね!」

と胸を張る。別に会長に守ってもらわなくてもいいんだけどね。


「はぁ…まぁ何か本当に困ったら言います」

と返しておいた。

するとそれだけで会長がふにゃりと嬉しそうに何度もうなづきドヤァとヘクター君を見た。嫌そうな顔をしてヘクター君は


「会長…僕の婚約者に手を出さないでくださいね!」

と釘を刺した。

今度は私がヘニャリと笑った。


そうこうしてると学園に到着して馬車から降りる。

ザワッとこちらを注目する生徒たち。


「あれは会長と…従者と…それにあの美少女は一体誰だ!?」

「可愛い!!見たこともないこともだ!」

「是非お近づきになりたい!」

と男子生徒は頰を染めてそんなことを言っていた。

あいつら…私がデブだった時はゴミを見る目で見ていたのに!!ゆ、許せん!掌返しやがって!


「ふふ、では行こうか!」

と生徒会長がなんか腕を突き出している。

私はしらけてヘクター君に寄り添い思い切り腕を取った。少し驚いてこちらを見たヘクター君はにこりと笑い、そのまま私達は歩き出した。


ヘクター君は私の教室の前まで送ってくれた。クラスが違うから何となく寂しい。


「ではミキャエラ様…またお昼にお邪魔します。…心配ですが頑張ってくださいね!」

と言われてキュンとした。


「うん!頑張るわ!何言われても負けないから!」

とガッツポーズでヘクター君の背中を見送る。

深呼吸をして教室に入ると皆やはりこっちを見て誰だあの美少女は?と言う顔をしていた。


私が自分の席に座った時は一層ざわつかれた。


「あ、あの席って!!」

「まさかそんな!!?」

「男爵家令嬢のあのデブだった……!?」

「でもずっと学園に来なかったし怪我して」

「ええ!?凄い変わりよう!!」

と口々にそんなことをヒソヒソ言われていた。

まぁ予想はしていたけどね。

女の子達も

「どうやって痩せたのかしら?」

「あんなに太っていたのに!?」

「きっと薬を使ったんだわ!」

普通に痩せたわ。


その時ガラリと攻略対象の転入生のサムエル・ロイド・クリーヴランド辺境伯令息が入ってきた。


相変わらず少し日焼けしたサーファーみたいな色黒の肌に青い髪が特徴のイケメンだ。

サムエル君は私を見て一瞬固まった。


そして


「君…転入生かな?」

と言い出した。

はぁ!?

こいつ…もしや前の私の事なんか何にも覚えてない可能性出てきた!!それか視界にも入ってないのかも!!

あ、頭が痛くなるくらいの天然さ!変わらない。


「俺も数ヶ月前転入してきたんだ。わからないことあったら聞いてよ」

と本気で私を転入生仲間として見ている!!


「………」

私はもう無視を決め込み窓の外を見ることにしたらガタガタと机を寄せてきた!!


「教科書持ってる?持ってないなら見せるね」

と出してくる。私は自分の教科書を出した。


「あ、持ってたのかあ!」

と言う。当たり前だっつの!!

そしてそれを見ていた向こうの席の今までサムエル君に机をつけられていた女生徒が悔しそうにこちらを睨んでいる!!


「君名前は俺はサムエルだよ!よろしくー」

と懐っこく笑うイケメン。


「私はミキャエラ・ナディーン・タウンゼント男爵令嬢です。よろしく」

と覚えてないこの天然馬鹿に言うと


「ミキャエラちゃんか!とても可愛いね!!名前も姿も!」

この天然たらしが!


結局先生が来るまでニコニコと私を別人のようにベタ褒めしてくる。ほんとやめて欲しい。

ようやく昼になりヘクター君が迎えにきた。私が立ち上がるとガシっとサムエル君に掴まれて


「お昼一緒に食べよーよ!」

と呑気に言われて断った。


「ごめんなさい。私は婚約者と一緒に食べることにしてるの」

と言うとサムエル君は驚いて


「こ、婚約者がいるの??」

と言う。


「初めまして!婚約者のヘクター・イライアス・スカンランです!よろしくお願いします!」

といつの間にかヘクター君がランチボックスを持ち横に着ていた。

一瞬火花が散った。サムエル君はムッとして


「俺もお昼一緒したいなー」

と言い出した。しかしヘクター君は


「ごめんなさい…辺境伯令息様。お昼はいつも二人で食べることにしてますから!!では!行きましょう!ミキャエラ様!」

と手を掴みズンズン教室を出て行くがサムエル君は付いてきた!


「げっ!ついてくるよ!?」


「しつこい方ですね!走りましょうか!」

と走るがやはりサムエル君は付いてくる!!

とりあえず角を曲がり身を隠せる柱の影に隠れてやり過ごした。はぁはぁと息を殺しつつも隠れていると


「んんー?こっちじゃなかったかな??」

とうろついて踵を返してホッとした。


「……全く…困ったものですね」

とヘクター君も眉を下げた。


走り回ったのでランチボックスの中がやばくなってしまった。そうするとどこからか生徒会長が顔を出した!!どこにいたんだ貴様!


「ふふふ、こんなこともあろうかと新しいランチボックスを用意しておいたよ!ぐちゃぐちゃになったものを食べさせるわけにはいかないからね!困ったことがあったら呼んでくれと言ったろう??」

と新しいランチボックスを渡す際どさくさに手を握られウインクまでされた。

怖っ。


結局なんか怖くて私達は食堂へ行き普通にランチを注文して食べることにしたのだった。

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