第15話 モブキャラの好感度
早速生徒会長が早馬でうちに連絡を入れてくれたようで私は安心して療養することにした。
しかし…痩せたからゲームの強制力が今更戻るなんてね。
もはや生徒会長も態度を改め犬みたいに尻尾降って媚びてくる様子だ。完全に今やこちらの味方で学園ではルイス君が私の様子を事細かに聞いてきたと言っていた。
「義兄は何と?」
「義妹を返してほしいと…。酷いことをしてごめんと伝えてほしいと謝罪の手紙を貰ったが彼のいない所で捨てておいたから安心してくれ」
と会長は眼鏡をクイと上げて微笑む。
あのルイス君が反省するとも思えない。私を家に戻すためについた必死な嘘だろう…。
「今日はリハビリに庭を散歩するのだろう?手伝おう!」
とあれほど潔癖性で人に触られるのも嫌な会長なのに私には手を差し出す。
しかしそこへ、学園から戻り使用人服に着替えたヘクター君が
「ミキャエラ様のお世話は僕がいたしましょう!ジェイラス様はどうぞお部屋でゆっくりなさって下さい」
と横から現れ私の背を支える。
「……汚らわしい平民だな?ミキャエラさんに触るなど!」
「僕は彼女の婚約者ですよ?ジェイラス様しっかりなさってください!また呑まれてますよ!!」
とヘクター君が言うとハッとして会長は頭を叩いた。
「う…うむ!すまん。どうもミキャエラさんの前にいると例の魅了のような効果が出てきて自分を抑えられない…。しばらく頭を冷やそう。ではヘクター君頼んだ…」
と会長はチラチラと少し悔しそうにこちらを見て自室に戻っていく。
ふーっと息を吐くヘクター君。
「なんかごめんね。私が痩せたばかりに。変な効果が?あって…」
「原因はわからないけど会長は見えない何かの力に呑まれようとしてるのかな?と思うことがあります。時々恍惚にミキャエラ様を見ていますし。ルイス様みたいになるのも時間の問題かと」
「でもヘクター君が注意してくれたらなんとか理性は保ってるみたいに見えるわ。不思議ね」
やはりヘクター君がモブキャラだからかしら?それにしてもヒロインに転生しといてなんだけど痩せたらGホイホイみたいにこっちに来る攻略対象たちやばいな。
また太ったら奴らの興味も下がるのかもしれないが太ったら太ったでまた嫌な気分にさせられるのがなぁ。
それにとにかく怪我を治して公爵令嬢様を問い詰めたい!
でも元々悪役令嬢の彼女に
「あんたが犯人ね!こっちは全部まるっとお見通しなのよ!」
とか言えないわー。
そもそも浮気する王子が悪いんだし。
悩んでいるとヘクター君が杖を持ってきた。
「部屋の中で考えていても始まりませんよ。少し外の空気を吸いにいきましょう?」
と手伝う。
ヘクター君は特に秀でた風でもない普通しか取り柄のない人だ。モブキャラだから仕方ないが一応優しいし頑張り屋だ。
顔のパーツも至って普通しか説明がつかない。そこまで顔が整っているわけでも不細工なわけでもなくやはり普通だった。どこにでもある茶髪と濃い緑色の瞳だし。
ジーと見ていると
「な、なんですか?人の顔をジロジロと…」
「ごめん…別に何でもないのよ!」
と笑うと
「…やはり他の人から見たら今のミキャエラ様と僕は釣り合わないのかな?」
「どう言うこと?」
「使用人達に僕とミキャエラ様が婚約者同士だって言うと笑われたりするんです。ミキャエラ様でなく僕のことです。以前は逆に同情されたりしました。ミキャエラ様が太っていた時です」
「何!?」
と思わず素が出る。ヘクター君も私のことで色々周りから言われてたのか。
「元々太っていた時からミキャエラ様は目がくりくりしていて可愛らしかったですから痩せたら皆が振り返る可愛さになるんだろうと何となくは思っていました。実際なりましたけど。もちろん太っていた時もコロコロしてて可愛らしかったですよ」
とヘクター君は素直だ。
「……ヘクター君は形にこだわりが無いんだね」
「そうですね。お祖母ちゃんからいつも大切なのは人の心で醜い心と綺麗な心を見抜く人間になりなさいって言われてきたから…。僕はただお祖母ちゃんの言葉を信じようって思ってるだけでそんな大した人間でもありません。特に秀でた才能もないでしょう?」
これもまた強制力か設定なのかヘクター君は普通のことを言う。
ヒロインにアドバイスはすれど本編に支障のない程度に距離を置かれる。だからヘクター君は私を恋愛対象として意識はしていないと思う。
私はモヤりとした。
決められた台本のような気がする。少なくとも転生は…私に取ってセカンドライフも同じ。これをゲーム通りに攻略対象としか絶対恋出来ないと決めつけていいのかしら?
「アドリブ」
「え?」
聞き慣れない言葉にヘクター君はキョトンとする。
もし私にヒロインとしての力が少しでもあるのなら……
私は杖を投げてよろけた。
慌ててヘクター君が私を支える為接近する。
ヘクター君が腰を支え私は彼の腕を掴み何とか転けずに済んだ。
「危ないですよ!ミキャエラ様!杖を放ったりして!」
と少し怒るヘクター君に
「うふふ、ごめんね、邪魔だったのよ。私達婚約者でしょう?貴方が私を支えてくれたらいいわ」
と言うとヘクター君はボンと真っ赤になった。
「手を繋いでもいいかしら?」
そう言うと赤くなりながらもふんふんとうなづいてくれた。それからヘクター君は大変ギクシャクしながら庭を歩いた。
*
そして夕飯になるとまた会長が部屋にやってきてヘクター君と何故かバチバチ火花を散らしている。
「ジェイラス様!ミキャエラ様にお食事を運ぶのは僕の仕事のうちに含まれますので!」
と注意するが強制力のおかげで会長は
「いやあ…君たまには休憩したほうがいい。給金はちゃんとやるから!私もミキャエラさんの事が心配なんだよ!」
と皿を取り合っている。
私は先日ヘクター君が叔母さんがわざわざお見舞い用に作ってくれた可愛いネズミキャラを会長の方へ投げつけると…
会長は料理皿から手を離しささっと身を屈めた。
「き、君は何を…。それは平民の薄汚れた手で作ったネズミだね?どんな菌が付いてるかわからないんだぞ?それを側に置くのはやめた方がいいぞ?そ、そうだ!今度特注で私が王都1のぬいぐるみ職人にオーダーして作ってもらうから待っていたまえ!!」
ははは!
と彼は笑いネズミ人形を避けながら部屋を出て行った。
ヘクター君は人形を拾いポンポンとはたくと
「酷いなあ。いくら潔癖性でも叔母さんの手を薄汚れてるなんて」
「そうだね。知っている?ヘクター君。菌は人間の体内にだっているんだよ?会長知らないんじゃない?自分がまさか嫌いな菌と共存してるなんて知ったら…」
「あはは、それは失礼だけどおかしいですね!」
と笑い人形を返してくれる。
その際に彼の手を握るとまた赤くなった。
「ふふふ」
「もう!僕で遊ばないでください!」
と怒られるが…私は気付いた。
「……人形かあ…これ…さあ…毛糸と綿があれば…私にも編みぐるみが作れるかも…」
私は前世オタクだが編みぐるみ…毛糸と綿を使い可愛いキャラを編んだ経験があった。正直小学校の時は手芸クラブだったし。小学校からアニメや漫画クラブとか無かったし。
「編みぐるみ?とは??」
キョトンとして聞いてくるヘクター君に作り方を説明した。
「へえ…毛糸で手袋やマフラーは作るところお祖母の見てたことあったけど流石に毛糸で人形はあまり見ないなぁ。人形の髪の毛に使われてるのは見たことあったけど全体なんて中々無いですね」
「もし余ってたら叔母さんに貰えるかな?ヘクター君達が学園に行ってる間作ってみるよ」
と言うとヘクター君は
「わかりました!明日早速叔母さんの家に寄って材料貰ってきますね!!」
とヘクター君は謎の使命感を示した。
その時ぐうとお腹が鳴り私は口を開けた。
「ブーブー!お腹減ったブー!」
と言うと笑われて口に香ばしい鳥の蒸し焼きが一口サイズにカットされたものが優しく入れられた。
「モグモグ!美味しいブー!」
「あはは!何ですかブーって!」
とヘクター君はニコニコしながら次を切り分けてフォークでまた口に入れてくれる。
もしアドリブが効くなら私はモブキャラであるヘクター君の好感度を上げてみたい。
「よし!頑張るブー!!」
とガッツポーズをするのをまたキョトンとして見るヘクター君だった。
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