第12話 弱るデブイン!
なんだか何もかもどうでも良くなってきた私。思えば転生してからいい事が一つもない。ヒロインだというのに攻略対象からは冷たくされ…いや、冷たいどころじゃあない。
家族にも?愛されない。ていうか元々孤児だから本当の家族でもない。
最近のノベルやコミックスでは悪役令嬢とかがヒロインの立場で本来のヒロインが蔑ろにされるというかヒロインがもはや悪役展開の作品が多く出回っている。
流行りだから仕方がない。
でも私はどうだろう?いくらヒロインと言えどもデブになっていた。
婚約者は普通の顔のモブキャラ。平民。
盗賊にも呆れられあげく頑張って剣を習ったら足や腕を折られてこの有様だ。
生徒会長は犯人が高位貴族だからと目を潰れと釘を刺された。
もう怒る気にもなれず食欲が沸かなくなった。
ばあやさんが食事を運んできたり着替えをしてくれた。お年なのに申し訳ないが全ての力が抜けて行くように感じた。
『お嬢様元気をお出しになって!』
とばあやさんにメモを渡される。
ごめん…今は無理だよ。
ヘクター君もたまにお見舞いに来てくれたが虚な目でベッドに座ってるだけである。
たまに嫌味を言いにルイス君が部屋を訪ねるがもはや奴に眼中がなかった。
ぎゃあぎゃあ喚くうるさい何かだと思うことにした。
それからそんな生活が続いた時医者からそろそろリハビリを進められた。
「少しお痩せになられたかな?」
主治医のおじいちゃん医師がそう言った。
「え?」
「あまり栄養を取られていないのでしょうな?」
と言われる。でもまだデブだと思う。
痩せたなんて嘘だ。
医者から松葉杖を渡された。しかしベッドから立ち上がる事ができないように感じた。
「こんな世界に転生したくなかった…」
気付いたら一人そう呟いて涙が溢れた。前世はプレイしてイケメン達を攻略して楽しんだのにあれはゲームだからできたことで私自身転生しても何も変わらないと言うことか。
そう考えると私この世界で孤独なんだなぁ。
それから数日経ち、
『お嬢様…少しはお食べになってくださいまし』
とばあやさんが泣きそうになっている。
お腹はもう減っているのかさえわからない。体力も衰えてきた。
ヘクター君もお見舞いに来た。僅かな花束を買っている。そんなの買わなくていいのよ。ヘクター君。
「ミキャエラ様!!しっかりなさって!!貴方が元気を出してくれないと治るものも治りません!ああ!こんなにお痩せになって!!」
いや。ちょっとしか痩せてないよ…。
喋るのも面倒くさくなってきた。私死ぬのかな?
そこでルイス君がイライラしながら入ってきた。
「おい、ミキャエラ!男爵家の食べ物が口に合わないのかっ!?食え!」
と無理矢理口にスプーンをねじ込まれた。
「グエ!ゲホホ!」
「ちょっと!ルイス様!なんて事をするんですか!!ミキャエラ様大丈夫ですか!?」
「どけ!平民め!うちで死なれちゃ悪い噂が立つ!」
「あ、あなた方は!!……も、もう我慢なりません!!ミキャエラ様は僕の叔母のうちで一緒に生活させます!!この家にいたら本当に死んでしまいます!!」
キッと今まであまり怒らなかったヘクター君が本気120%くらいでルイス様にくってかかる。
「ふん!ならそうしろ!うちで死なないならどうでもいい。お父様達には俺から言っておく!じゃあな!愚昧!」
と私はついにルイス君に愛想を尽かされたようだ。
弱る身体を支えてヘクター君は私をおぶった!
「ヘクター君!!重いでしょ??」
「大丈夫ですよ!今のミキャエラ様は以前よりお軽いですよ!しっかり掴まって!」
と歩き出した。
私はふぐふぐとヘクター君の背中で泣いた。
クスクスと使用人達が笑っていた。
街までヘクター君は一度も休憩しなかった。馬車も使わせてくれなかったので本当に彼だけの力である。私は寝巻きにコートを着ているだけなので乗り合い馬車にも乗りにくいし。
「ヘクター君…ごめんね。迷惑ばっかりかけて」
「そんなことありませんよ。あの人達が異常なんです。まともな人間ではありませんよ!……叔母さんの家は騒がしいけど…何とか置いてもらえるようにします!僕の部屋を開けてでも!」
「えっ!?そんな、悪いよ…これ以上迷惑かけられないよ。私なら物置にでもぶちこんどいて」
「何言ってるんですか?そんなことするはずありません!」
とヘクター君は言う。
そうこうしてるうちにヘクター君の叔母さんの家に到着する。
家に入るとヘクター君の叔母さんのナディーン・ヤードリーさんが玄関で私を抱きしめてくれる。茶髪に緑目の私ほどではないけど少しふくよかな肝っ玉お母さんという感じだが私のことを心配してくれた。
「前にあった時より元気が無くなってるし栄養も悪くなって肌艶も失われてるね…。このままじゃ死んじまうよ…」
と頰を触られる。
「おねーちゃん!安心しなよ!飯たくさん食べたら戻るよ!!」
と3番目の叔母さんの息子リンジー君がポンポンとたぬきみたいに腹を叩いた。
小学校4年生くらいの年だ。
ゴチンとヘクター君が怒った!!?
怖い顔をして
「リンジー…ダメだよ?」
と言うと
「ひっ!!」
とリンジー君は怯えてナディーン叔母さんの後ろに隠れた。
リンジー君の上に双子の兄二人ジェシーとパートとすぐ下に大人しい妹オードリーが一人とまだ本当に小さい3歳くらいの男の子ギャリーがいる。ギャリーは言葉を覚え始め走り回って元気だ。双子の兄二人は私とヘクター君より一つ下くらいで減らず口が多いし同じことを二人で言う時もある。双子同調だ。
オードリーちゃんは小学校2年生くらいだな。
叔母さんの旦那さんは旅商人で各地を歩いて渡り歩いている為あまり家に帰ってこないが帰ってきた時は子供達と大騒ぎして子供みたいに遊びまわるらしい。
「ミキャエラおねーちゃんはヘクターおじちゃんのお嫁さんになるんでしょ?じゃあ一緒に寝なよ」
「えっ!?」
「何言ってるんだリンジー!!お預かりしてるし怪我をされてるんだからね!!」
とヘクター君は注意した。結局はナディーン叔母さんのお部屋を借りた。叔母さんはオードリーちゃんの部屋に移って申し訳なかった。
「いいんだよ、そんなこと気にしないで!!それより!ナディーン特製のスープやサラダから食べて元気になるんだよ!!」
と豪快に笑い、子供たちも私が一人にならないよういつも本やら野花やら果物やおもちゃを持ち寄りわいわいと賑やかに騒いだ。
まるで保育園だなあ。大きい子もいるけど。
でも、こんなの男爵家では味わえなかった。いつも使用人は陰口をされ家族達も冷たい。私はじんわり泣いた。
「!?おねーちゃん悲しいの?」
「怪我が痛いんだよ」
と誤魔化すとギャリー君が
「おくすりのむんでしょ?ギャリーおくすりのんだらあついのなくなったの」
と言う。
「それは風邪の時だよ。ギャリー」
とヘクター君が優しく言う。
「さあ!皆どいて!ナディーンの特製のスープだよ!!」
と早速栄養たっぷりのスープを出された。
まだ食欲はなかったが頑張って飲み始めるとものすごく暖かくて美味しかった!
そう言えばいつも冷めたスープ飲んでたな…。
こんなに温かいの飲んだの久々?
それから私は静かに賑やかにこの家で過ごすことになった。ヘクター君は学園と夕方になると仕事をしに出かけた。朝もパン屋で少し手伝いに行くから少し顔を見せて話してくれた。
「まだ少し痩せたけど顔色もだいぶ良くなりましたね!」
と言われた。
そう言えば確かに少しまた痩せた!
なんか痩せたって言われたら嬉しくなった!
あの男爵家にいた頃はもう死んじまおうかと塞ぎ込んでいたけどこの家の温かい雰囲気で私の心が回復してきたのかも!
「あ、ありがとうヘクター君!!これからパン屋?気を付けてね」
と笑うとヘクター君もにこりとして少し頰が赤くなっていた。
「行ってきますね!ミキャエラ様!」
と手を振りヘクター君は出かけていく。
その後で朝食を持ってきた叔母さんが
「もうそろそろリハビリしてみるといいかもね。骨がくっついた頃だろ」
と言う。
私は松葉杖を使い片足で何とか歩こうと頑張る。
「ふぐっ!!いだっっ!!」
バタンと倒れることもあるが最初は補助してもらったりしたが何日か経つと一人で起き上がれるようになる。
このリハビリでまた少し痩せてきた。
ある日オードリーちゃんが私にリボンをくれた。
「おねーちゃんにあげる。オシャレしたらおねーちゃん凄く綺麗になると思うよ?ヘクターおじさん喜ぶよ」
と言われる。
私がオシャレ…。
オタクの私が?
前世思い出してもオシャレに金を使うよりオタクグッズに金を落とす方が幸せだった私が?
「オードリーちゃんの方が似合うと思うよ?」
と言ってあげると
「ううん、おねえちゃん。ちょっと痩せたし可愛くなったよ!!ほら!!」
と鏡を見たら、なるほど…リハビリ効果か本来のゲームヒロインに近いくらいには痩せてきている。ヒロインは元々可愛いしな。
しかも叔母さんの特製のスープ!あれがなんか良かったのか凄く健康的な痩せ方した!!
一人になると考えた。
「痩せた私を見て攻略対象達はどうするんだろうか?もし掌返して来たら許せない。それに私をこんな目に合わせた貴族の犯人も…!」
復讐してやりたい!と一瞬黒い感情が出てくるがあんな奴らと関わったりするのも嫌だな…。
もうこのうちに来て3ヶ月経つがルイス君達家族は一度だって見舞いに来なかった!!
許せないがもうほんとここの家にいた方がはるかにいいので気にしない。
しかしリハビリも進んできたし…どの道私は平民落ちするんだからもう学校に行かなくていいよね。退学手続きして街で働いてお金を貯めてこの家とヘクター君に恩返しした方がマシだ!
私はそう考えて一度話をしに男爵家に行かなければと思った。
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