第11話 療養するデブイン!

私の左足と右腕の骨折は全治4.5ヶ月である。


首からはだらりと三角布で右腕を吊られて足は痛々しいギプスつき。この世界にギプスあるのか!流石乙女ゲーム。ややこしいツッコミは無視するように医療器具や衛生観念は整っているわけか。


背景は中世モチーフでもそういう所は現代に通じるわけね?


という事で最低ひと月は骨固定されるまでベッドの上で療養する事が強制された動けないデブです!


ていうか普通に痛いんだけど?


一体誰が私にあんな奴ら使ってまで剣術大会を阻止しようとボコってきたのか!!?

ゆ、許さないっっ!

いくらデブでも乙女に遠慮なくボコった雑魚共にも腹が立つが!!


ヘクター君に優勝するからって頑張ってきた私の努力が水の泡だ!大会はひと月後…。骨固定はされるけどまだちゃんと歩ける状態には回復されない。松葉杖で戦う?無理か。


使用人は私が動けないデブになってから嫌そうに体を拭いたりしてくれてる。

すまんね。普段なら自分でやるんだけど右腕も折れているから、トイレに行くのにも補助がいる生活になった。


それでも時折ヘクター君がリンゴを持ってお見舞いに来てくれた!


「お加減は如何ですか?痛いですよね?」

眉を下げ心配するヘクター君。君だけだよ!心配してくれるのは!!


するとバンとノックも無しにルイス君が入ってきた。


「よお!ブタ!支度しろ!これから生徒会長ジェイラス・ドウェイン・ゴドウィン・チェスター侯爵令息様が事情聴取に来られる!寝巻きでは不敬だ!」

と言ってきた。なにい!?事情聴取にあの潔癖症イケメンが!?嫌な予感しかしない!


「ちょっと待って下さい!ミキャエラ様は怪我人ですよ?足と腕が骨折して動くのも辛いのに着替えろと!?侯爵家の御令息だからってあんまりです!」


「黙れ平民が!!俺たち貴族は高位貴族様と会うには正装が基本なのだ!お前の意見など知ったことか!」


「そ、そんな!!」


「いいの…ヘクター君。お見舞い有難う。後でリンゴいただくわ。お義兄さま、ばあやさんをよろしくお願いします」

と言う。ばあやさんはこの家から古くから勤めている方だ。他の女の使用人にも嫌われてるから私の着替えは最近ではいつもばあやさんが手伝ってくれる。何も言わないけど。


「ミキャエラ様…あの!ルイス様!事情聴取に僕も付き添っていいですか?ミキャエラ様の婚約者として僕にも聞く権利はあるはずです!ここで帰れません!」

とヘクター君が主張すると


「ふん!勝手にしろ!平民め!」

と同席を許された。


二人が部屋から出て行きばあやさんが代わりに着替えを持ってきた。


「………」

ぺこりと頭を下げて無言。やはりデブとは口も聞きたくないか。


しかし…。ばあやさんはサラサラとペンを手に取り紙にメモを書いた。


『ミキャエラお嬢様…お許し下さいね。外には別の使用人が聞き耳を立てており今まで口を聞くと厳罰されるかクビにされるかの二択なのでございます。お怪我をなさり大変でしょう?

なるべく痛くないように着替えさせます。全くルイス様はご無理ばかり…。ばあやは心配でございます!』

と書かれていた。驚いてばあやさんを見るとしっ!と口元に指があった。外の見張りを警戒しているのか。


成る程そこまでするとは。

私も頭を下げて受け入れた。それからは筆談するようになった。


こうして何とか私はドレスのままベッドに座った。何という無駄な着替えだ。

ふざけんな生徒会長もルイス君も!

お前らには人としての優しさはないのか!?


まぁあったら優しくされてるよね。


その後生徒会長ジェイラスとルイス君とヘクター君が入ってくる。


メガネを吊り上げジェイラス会長が


「空気が悪いな…」

というからルイス君がさっと窓を開けた。


「申し訳ありません会長!」


「いやいいんだ。ところで例の件で君はそんな怪我を負ったわけだが犯人に心当たりはあるかい?」

まさか犯人探ししてくれるの?


「いえ、ありません。訳もわからず取り囲まれて私が剣術大会に出場できなくするとある方から言われたそうで私はこの有様です」


「そうか…。ある方か。位の高い者なのだろうな。男子生徒が従うくらいだ。君は女の立場で剣術大会に出場すると言うことを気に食わない貴族は多いだろうしな。女相手に本気を出せないとかな」

いや待て。女相手に本気でボコって骨折までしてんだよ!こっちは!!何言っとるか!!


「大会には先生方や大勢の観客の手前があるからな。女相手に本気になる奴はいない」

とルイス君が付け足した。

ヘクター君は


「生徒会長!ミキャエラ様をこんな目に合わせた犯人を真剣に探すつもりはないのですか?上位貴族だったらお咎めなしですか!?不公平です!!」

とヘクター君は悔しそうだが


「貴族とはそう言うものだろう??では君はもし犯人が王族や公爵の地位の人間だったら簡単に咎められるとでも言うのか?君みたいな平民、それにミキャエラさんも…ただの虚言癖と自作自演と捉えられても我々にはどうにもできない!」

と言う。王族と公爵!?

そんな上の人らが…


「あっ……そ、そうか…剣術大会で王族が優勝すれば名誉になる…」

ヘクター君が思いついたように言う。


「そうだ。易々と平民や女に優勝を掻っ攫われて見ろ。王族ともなれば恥でしかない!彼等は常に人の上に立つ存在なのだから!」


「そんなのただの揉み消しとチキンレースと同じだわ!!会長!大会に不正があっても貴方は罰しないんですね!?高位貴族の仕業だとしても!」


「どう捉えようと自由。私が言いたいのはこの件に関しては余計な事をしない事、剣術大会に出ない事!それだけだ!」


「そ、そんな…」

事情聴取ではなく口止めだ。


「ミキャエラ…会長の言う通り大人しくしていろ。まぁその怪我では動けまい」


「君も黙っていたまえ…下手な事をしたら君自身も危うくなるだろう」

と会長はヘクター君に金貨を一枚渡した。

手が震えていた。


酷い!

会長とルイス君が部屋から出て行くとヘクター君は


「何なんですか!?あの人達!信じられない!!」


「結局…大会に出場して目立つなってことだよ。ごめんねヘクター君。優勝できたら大金が手に入ったのに」

すると眉を下げてヘクター君は私の太い手を取った。


「いいんですよ。ミキャエラ様。やはりコツコツお金を稼ぐのが一番ですから」

おおう!欲に塗れないヘクター君清らかだね!きっといいお嬢さんが君のことわかってくれますように!


ヘクター君が帰るとまたドレスをいちいち脱いで寝巻きに着替えさせられた。

流石に私は食欲を無くした。

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