第10話 盗賊頭とデブイン!

目が覚めると私は汚らしい小屋に縄でグルグル巻きにされてボンレスハムみたいに寝転がされていた。


「は?何これ?」

ん?待てよ?そこで思い出した。

そういえば乙女ゲームイベントでヒロインが拐われて攻略対象が助けに来るっていうのがあった気がする!!


……でも…私のことを助けに来るヒーローいるんだろうか??


今までの扱いで攻略対象と進展した事は一切無い!!そもそも帰り道の爆睡中に襲われて…家には連絡行ってるだろうけどあの家族たち…助けに来るだろうか?何せ私なんてどうでも良いというような人達た。


痩せて可愛かったら危ないところを助けてもらい一気に親密度が上がるものを!!くっ!!


一応ゴロゴロと意味なく転がって見たが本当に無意味でやめた。それに床汚いし!


その時ドヤドヤと音がして小屋の扉からむさい男達が入ってくる!盗賊達だ!!

私はとりあえず動かずに寝たフリをした。


そうしたら誰かに思い切り腹を蹴られて起こされた!


「いだ!!?ごほっ!!」

と呻くと髪を掴まれて綺麗な顔で少し悪そうな盗賊の頭が顔を覗かせた。

そういえばこいつも結構敵にしてはイケメンで人気あった。

最近では敵キャラもイケメンが多いのである!

ヒロインはこいつに犯されそうになった所を攻略対象に救われる筈だ!!


……救われ無さそうだけど!!


「ノイン様!!この女が馬車に乗ってヨダレ垂らして寝ていやした!!」

と盗賊の一人が言う。


ノインは片方だけ前髪が長い黒髪のイケメンで瞳は赤い。


「ふん!貴族の娘ってのはよく肥えたブタだな!きっと毎日たらふく美味しいものを食ってるのに違いねぇ!!


……おい!こいつの家に脅しをかけたか!?金の交渉はどうなった?」

と仲間の一人に言うと


「今は御者の男を伴い、そいつの家へ行っている筈です!時期に戻ってくるでしょう!」


「その間暇だな!」

とノインは私を乱暴に放り投げた。


あ!今から犯される展開!?

しかし盗賊達はテーブルに食事を並べてなんかゲラゲラ笑っている。


良い匂いがしてゴクリと唾を飲み込むとノインが気付いた。


「なんだぁ?こいつ?流石ブタだな!?お腹が減ってやがるのか?」

と笑う。

そしてべちゃりと食べ物を床に落として嘲笑った。


「おら、食いな?腹減ってんだろ?ブタ!」

とノインが容赦なく酷いことを言ってくる。流石盗賊の頭ね。普通に酷い!

食べ物を粗末にすんな!


「それにしても飯が不味くなりますね!こんなブタが居ると!」

て攫ってきたくせに盗賊の一人が言い、ノインは


「そうだな!誰かこいつを馬小屋に移しとけ!」

て言われ盗賊の二人が私を持ち上げた。


「うっ!重い!!このブタ!」

「腕が筋肉痛になりそうだ!!」

と必死で馬小屋に運ばれた!!

じゃあ運ぶのやめなよ?筋肉痛になりたくないでしょ?

そして生の人参を2~3本放り投げられて放置された!!


ええっ!?

蹴られたお腹が痛くて食べるどころじゃないというか、流石の私も僅かなプライドで生人参は食えなかった。


馬たちがブルブルいっていた。

どの道助けは来ないから私はここで殺されるのかもしれないな。

それともお金にする為に奴隷商に売られたりするのかな?


そんな事を考えて藁に芋虫みたいに這ってなんとか潜り込んだ。少し寒かったしね。


さっきまでのヘクター君の叔母さん家の夕飯や賑やかで温かくて楽しい時が嘘みたいだった。


うちの家族も冷たいし嫌われてるけど本当に追い出しはされなかったけど…疎ましいとは思われていたし結婚しなかったら奴隷にという話もあったし…。


「私…ヒロイン転生したのに…この世界では要らないキャラなんだなぁ…」

と呟いて涙が滲んで眠る。


「はあ!?男爵家はあのデブに価値は無いから煮るなり焼くなり殺すなり売るなり好きにしろって言ってきたのか!?」

とノインは手下の男に怒鳴った。


「は、はい…一応交渉してみたらなんの興味もないし、あの娘は元孤児で養女という立場で…あの見た目に屋敷の者はうんざりと言ったような感じでして!」

ノインはため息をつく。


「なんだそりゃあ…。可哀想な娘だな。だが俺たちもあんなの飼う気はない。売りに出しても売れないかもな。むしろ粗末品だから不利益だ。こりゃ戻した方がいいな」


「…ですね」

そんなわけでノインは馬小屋で寝ている私をそっと手下と運びお詫びに人参を袋に詰めて男爵邸の前にポイっと寝かせて置いたらしい。


朝…私は自分の部屋で寝ていてびびった!!


「ええ!?夢!?」

と起き上がると


「夢じゃねぇよ!!お前盗賊に同情されてうちの門の前に返されてたぞ。汚ねぇ人参の袋と共にな!」

とルイス君がいつの間にかいて説明した。


「あーあ、残念だなぁ…。やっとお前が居なくなってくれるとお父様とお母様と喜んでいたんだがなぁ…まさか返されるとは!なんてデブだよ!」

とルイス君は嫌そうに言うと出て行った。


「……なんてことなの…盗賊にも嫌われた!!」

なんとなくショックであった。誰一人助けに来てくれなかったヒロインで同情して盗賊に返されるという私って一体!?

家族も戻ってきて残念よとかそりゃないわ。普通泣きながら「よく戻った!」と言われ抱きしめてほしい。


もちろんヘクター君は昨日盗賊にさらわれた事は知らなくて学園で会った時普通に


「昨日は無事帰れました?うち、五月蝿かったでしょう?」

と聞いてきた。


「う、うん無事で帰ったよ…なんとかね」


「?」

ある意味全く無事だった。

一回攫われたけど同情と厄介払いされて返されたデブ…それが私だ。言えるわけなかった…。


それからも私は何事もなかったように剣の稽古を頑張った。相変わらずルイス君に睨まれながらもなんとか型を覚えたり打ち合いを練習してそれなりに剣が使えるデブになった!!


練習後も体力をつける為バクバク食った!

体重なんてもう気にしない。そして大会が近くなった頃だった…。私は男の数人の先輩たちに囲まれていた。


「告白でしょうか?」


「いや…違うわ!!お前みたいなゴリラデブに告白するやつなんていねーよ!!」

と突っ込まれてしまった。


「じゃあ、何の用が?」

と一人の先輩に聞くと


「お前にあの剣術大会に出てもらうわけにはいかねーんだよ…ある方からのご命令でね!……お前には悪いが!」

といきなり後頭部を殴られて地面に倒れた!!


「うう!い、いだあっ…」

殺す気!?

と思うと今度は皆が棒を持ちこちらにやってくる!!ひ!?


そして遠慮なく私は文字通り先輩達にボコボコにされてしまった!!

かなり後で痛くて動けないところにルイス君が通りかかった。


最初は無視して気付かないフリをして通り過ぎたがいらつきながらこっちにきた。


「てめえ、何ボロボロになって倒れてんだ!?男爵家に変な噂が立つだろ!!?」

と立たせようと無理矢理引っ張ったら左足と右腕に激痛が走った!


「ぎゃあああ!!!!いだだだだだだ!!お義兄さま!優しくして!!」


「お前なんかに優しくしたくねぇ!」

とやってるとそこにヘクター君もやってきた。


「な!どうしたんですか!?ミキャエラ様!?その怪我!!」

ルイス君はビクリとして


「違うぞ!?俺がやったんしゃないぞ!?通りかかったら義妹が倒れてただけだ!」


「だけってなんですかっ!?こんなに怪我をしてるのに!!立てないんですか?手を貸しましょう」

とヘクター君は私の腕を取り首を回して立ち上がらせようとしたけど私の体重が重くて


「う、うーん…くうううう!!」

と頑張ってる。こりゃ無理だなと思ってると反対側からルイス君がいやいや腕をとった。


「おい、婚約者きばれよ!せーの!!」

と私を二人がかりで何とか立たせた。

が、足が痛くて歩けないのでほぼ、ズルズルと引きづられて医務室に運ばれた。


医務室でまた女生徒といけない事をしていたデイモン先生も流石にボロボロの私に驚いて足をとりあえず診た。


「うん!左足と右腕折れているね!全治4カ月かそこらだろう!!松葉杖がいるね!」

とあっさり言われた。

こうして私の剣術大会優勝の道も閉ざされてしまったのだった。






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