第9話 お婆ちゃんとデブイン!

デブゴリラとかゴリラデブとか言う噂が学園中に広まり私を見たらクスクス笑ったりする声が増えた。


そんな中婚約者となった平民のヘクター・イライアス・スカンラン君はそんな事気にせずに剣ダコのできた私の手を見て


「ごめんなさい…痛いでしょう?僕の為にこんな訓練まで!僕が剣を取るべきなのに生憎先生に教わるお金も持ち合わせていないんだ…。学園が終わったら酒場で手伝いをして休日も朝早くからパン屋を手伝いに出かけて少しでもお金を貯めようとしてるからミキャエラ様をデートに誘えなくてごめんなさい」

と謝られた。


「ていうかデートなんて考えててくれたの?

お金もないのにこんなデブを無理して誘わなくていいよ。私が優勝したら賞金を蓄えておけば卒業したら店も何とか買い戻せるじゃない」


「う、うん…でもそれでもミキャエラ様に無理をさせて僕情けなくて…。お祖母ちゃんが生きていたらきっとちゃんとしなさいって言われる…」

と涙ぐむ。


「そう言えば…ヘクター君はご両親と住んでないの?一人でいるの?」


「いや…今は親戚の叔母さんの家でお世話になっているよ。あんな両親とは住めないからね!二人ともどこかへ逃げちゃったし。


卒業まで叔母さんが置いてくれるっていうからご迷惑だけど厄介になってるよ。お祖母ちゃんと住んでいた家はボロボロだけど売りに出してるんだ。そこも売れたら少しくらいはお金になるかと思うけどボロイから買い手が中々つかなくてね」


「そうなんだ…。叔母さんは良い人なの?もしヘクター君をいじめてたりして嫌な気持ちになってない?」

と心配になって言うと


「ミキャエラ様はお優しいですね!大丈夫ですよ!叔母さんは良くしてくれます!叔母さんの子供達5人もいて大変賑やかですよ!」


「ごっ!5人も?凄い!」

大家族ってか!?


「そうだ!お祖母ちゃんのお墓に行きたいって前に言ってましたよね!?

今度良かったらどうですか?


お祖母ちゃんもミキャエラ様が来てくれたら喜ぶかもしれません!」

と言うので


「そうだね!アニタお婆ちゃんには私も少しの間だけどお喋りしたからね。ちゃんとお墓参り行かなきゃね!」


「帰りは叔母の家に寄って下さい。お茶くらいお出しします!平民のお茶で口に合わないかもしれませんが」

と言うから


「そんなことないよ!私だって平民と似たようなもんだよ!高位貴族ならともかく!そんなこと心配しなくていいよ!


それに何でも食べるデブだからね!」

と笑った。

そう、皆から蔑ろにされる元孤児のデブだからね。この世界のヒロインだけどなんの因果なのかデブだからね?


最近は剣の稽古で力をつける為夕食はガッツリバクバク食べている。残すと料理人の人に申しわけもないしね!


それにしても家か。前世ならご家族に挨拶…結納のシーンが浮かぶけど…平民に嫁ぐ貴族の娘なんて見たこともない。ここが乙女ゲームの世界だからこういうのも簡単に許されるのかもしれないなぁ。そこんとこユルイよなぁ。


ていうかまぁ私なんてヘクター君からしたら仮婚約みたいなもんだろう。いくらアニタお婆ちゃんの遺言とは言え、大抵の人は大金が手に入ったら変わる。


ヘクター君も例外ではないだろうしこの普通に見える男の子も男爵家の娘だからとりあえず結婚して持参金目当てで近付いたのかもしれない。うちの家そんなに金があるわけでもないし、嫁に出されても嫌われてる私には雀の涙くらいか無しかも。


難しい顔で黙り込んでいたらヘクター君が


「どうしたんです?や、やっぱり叔母さんの家に来るのは遠慮があります?平民ですし」


「ううん…そうじゃないわよ。行くよありがとう!」

ヘクター君に裏の顔があっても別にいいか…。利用されたとしても人助けには変わりない。

お金に困ってる人を助けたいなんて前世では中々思わなかった。


でも人間いつ死ぬかわからないんだよね。私も死んだからこうしてここにいるというか転生してるし。姿は最悪だけど…。


アニタお婆ちゃんと会った頃…。


ヘトヘトになり疲れて暗くなった最終の乗り合い馬車に何とか乗り込んだ。人は少なかったけどデブがはぁはぁ言いながら乗り込んできたので皆疲れた上に少し避け始めた。


空いてる席にポツンと座っていたら後から乗り込んできた杖をついたお婆ちゃんがいた。

皆疲れているのか手を貸さない。日本じゃ譲り合いの席があるのに。


「お婆ちゃん大丈夫?ほら、手を貸すよ?」

と言い手を差し伸べた。


「おや…お嬢さんありがとうよ!」

お婆ちゃんはにっこり笑う優しそうな人だった。


「あんた…こんな時間まで…学園の生徒だろう?その制服。うちの孫もそこへ通ってるんだ。あんたと同じ平民だけどね」

と言ったから私は


「ごめんお婆ちゃん私一応男爵家の養女になったんだ。本当の両親は前孤児だったから知らない。こんな時間まで残ってたのは学園のトイレ掃除をしてたからだよ」

と経緯を説明するとアニタお婆ちゃんは


「なんてこった。お嬢ちゃんは悪くないよ。自信をお持ち?大変だけど頑張りなぁ!生きてりゃ何とかなるもんさぁ!!」

と私がこの世界で初めて気の緩んだ時だったのかも。


それからも帰りならお婆ちゃんと話してるとなんだか安心した。混んでた時隣の男の人が嫌そうな顔をしてきたけど気にしない。


だがお婆ちゃんは私の為に


「こりゃ!若者よ!あんた!なんて顔してんだい!お嬢ちゃんに失礼だろう!?」

と怒ってくれたものだ。



約束の日の朝、待ち合わせ時間にはまだあるので私はお墓に備える花を買いに出かける事にした。

花屋のお兄さんは私を見るなり


「お嬢さん…何かお探しですかね?そこ…狭いから花の名前を言ってくださったら見繕いますよ?」

と言う。成る程…私が通ると花が潰れるからね?


「じゃあそこの白いお花を数本頼みます」

と白い花束を作ってもらう。

花屋はガザガサと花を包み渡してくれた。

私は代金を払ってお店を出た。チラリと後ろを振り返るとお兄さんが私のいた所に水をまいていた!


「ミキャエラ様!こっちです!!」

ヘクター君は普通の白シャツにベストを羽織りどこにでもいるモブと化していた。


ヘクター君に案内され墓地へとやってきた。

お婆ちゃんのお墓は小さいけけどちゃんと手を組んで祈った。


『お婆ちゃん!安らかに天国へ行って笑って見守っててね!私のお祖母ちゃんじゃないけどさ!


デブでもなんとか頑張ってやってみるね!』

サラリと風が吹いた。


ヘクター君がその様子を横目で見ていたらしい。


「さぁ、叔母さんの家に行きましょう!ご馳走を作って待ってます!ミキャエラ様のこと歓迎すると腕によりをかけて作ってます!平民の味だけど」


「もう!平民平民うるさいよ?いいから行こう!」


「はいっ!!」

それから私はヘクターくんの叔母さんの家で子供達や叔母さんが作った沢山の料理を食べて子供と遊び帰り道はウトウトしたので家から馬車が迎えにきた。


「今日はありがとうございました!!」


「うん、ヘクター君、お礼を言うのは私の方だよ。ありがとうね」


「いえ!こちらこそ!疲れたでしょう?ゆっくりお休み下さいね!」


「うん、また学園でね…」

と手を振り私は見えなくなると少しだけ眠るつもりがガーガーいびきを立てて眠ってしまった。


そして目が覚めたとき…私は見知らぬ小屋にグルグル巻きにされて寝転がらされていた!!?

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