第6話 転入生とデブイン!

1ヶ月のトイレ掃除やら歩きでの帰宅という過酷な生活環境で私はダイエットより食べて筋肉が少しついた。前世では運動不足な方だったからちょうど良かったのかもしれないと前向きに考え始めた。


給料は一切出なかったし、トイレ掃除中は生徒達から失笑されていた。私には相変わらず友達もいなかったので一人で黙々と掃除してた。


帰りの乗り合い馬車でも働き疲れの平民達をサラリーマンの疲れたおじさん顔と重ねることが出来た。

そこで毎日乗っているお婆さんと話をした。

お婆さんはデブには優しかった。他の人はデブは暑苦しいから一定の距離を取られたけど。このお婆さんはこんな私に優しくしてくれた。


お婆さんはとある宝石商人の息子夫婦を持って街で暮らしているらしかった。


元々はお婆さんが若い頃亡くなったお爺さんと経営していたのを子供に譲り隠居生活をしていたが息子夫婦が浪費家である時ギャンブルに手を出して借金をしてしまった為に王都までこうして出稼ぎに来て小さな露店を開き少しでもお金を稼いでいるというわけだ。


お婆さんはアニタ・ジョアンナ・スカンランと言う。私とアニタお婆さんは歳の離れた友達みたいになっていた。お婆さんは腰痛で痛そうだったので座りやすいよう家からこっそり持って鞄に入れてたクッションを腰に当ててあげたら嬉しそうな顔をしていた。


でも罰が終わり乗り合い馬車に乗ることも少なくなったから少し寂しかった。


それから私は最後の攻略対象に期待する事にした。

入学から1ヶ月した頃に転入生の最後の攻略対象が現れるのだ。丁度掃除罰も終わったしそろそろだろう。


予想通り攻略対象の転入生はやってきた。

天然系イケメンのサムエル・ロイド・クリーヴランド辺境伯令息である!


髪は青く肌は少し色黒のイケメンである!


しかも席はヒロインである私の隣!!

今日は少しめかし込んできたし…今はまだぽっちゃりだけど仲良くなって進展するのだ!

何より掃除で体力もついてすこーし?だけ痩せたようなそうでないような気もする。

期待を込めてこちらを歩いてくるジェイラス君を待った。


隣に来るサムエル君は無言で私の隣に座ったがガタガタと机を移動して向こうの席の女の子に教科書を見せてくれと言って向こうの席の女の子は目がハートになっていた。


違う!!こっちだよ!!窓際のヒロインに気付いて!?そんなとこまで天然でなくていいから!!


しかしこっち向けと念波を飛ばしてみても一向に気付かなくて隣のちょっと可愛い子とのんびりほんわかおしゃべりを始めているではないか!!


それ!そこ私のポジションだよ!!

私は咳払いをしたりチラチラと目線を送ったりアピールしてみたけど全くと言って気付いてもらえないどころか半ば私のことをこいつは空気と思っているのかまるで見えない壁のようなものを次第に感じるようになった。


前世でも経験してきたことだから何となくわかった。私と他人の間には見えない壁があってそこから先は踏み込んではいけない場所だと刻み込まれているのだ。


ああ、サムエル君もまさにその通りで少し経つと私以外のクラスメイト達とほとんど仲良く打ち解けていた!!

私はクラスに一人いるデブの空気で誰も話しかけられず前世と同じくらい孤独であった。


ある時にサムエル君の机にぶつかって教科書などが床に落ちた!!

急いで拾ってあげるとサムエル君は


「…………?」

と変な顔をした。まさに『こんなデブいたっけ?』みたいなキョトン顔だが


「それ俺の返して」

と言う。いや、別に奪ったわけじゃないんだけど!?

しかしその一言でクラスの皆が一斉に私をギロリと見た!


「デブ~!それサムエル君のだろ!返せよ!!」


「いや、落としたから拾ってあげただけで…」


「何言ってんだよ!どさくさに紛れて盗む気だったんだろ?このデブ~!!」


「ち、違うよ!!」

と否定はしたがもちろん誰一人信じられなくてついには向こうの席のサムエル君と親しい女生徒が怖い顔をして


「盗もうとするなんて最低ね!さっさと返しなよ!」

と押されて私は教科書を奪われてすっ転んだ!パンツが丸見えになり教室中爆笑され恥ずかしくなり逃げた。

逃げる隙にチラリと見たサムエル君も笑っており女の子にお礼を言って教科書を受け取り何故か女の子の手を自然に握って微笑んでいた!!


だからそのポジションわーたーしー!!!


屋上へ行き一人シクシクと泣いた。

惨めだ!!なんて惨めなんだろうか!

最後の攻略対象だから何か起こるかもと期待した私がバカであった!

そんな展開はかけらも訪れなかった!


やっぱりかよ!!

もうこれ終わった!終了でーす!私は攻略対象の目に何も止まりませんでしたーー!

これだけ無視されるのも私がデブだからだ。


ドドっと疲れを感じた。

しかもほとんど皆から嫌われて虚しくなった。

ダイエットも辞めてこうなったら食って忘れるしかないなと思い始めた。


そうすると今まで我慢していた異常な食欲を感じ私は食いまくる生活に入った。


もちろんルイス君には嫌な顔をされたけどもう関係なかった。前世でもストレスから食欲に走る女の子はテレビで見た。

私もたぶんそうなんだろう。


「何がヒロインよ!何にも始まらないなんてヒロインじゃないんだから!!」

とバクバクと豚かゴリラみたいに貪り食うことにした。おかげで前より重くなったような。歩くとズシッと来る。


そんな日々が続いた。

私は前世と同じく孤独だった。

家でも学園でも居場所が無くなりつつあった。


そんな時だった。

茶髪の普通の顔の男子生徒に呼び出された。


誰だろうか?

また注意かな?


「僕は…ヘクター・イライアス・スカンラン…。アニタお祖母ちゃんの孫だよ…」

と言ったのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る