2

 何回目の邂逅か?


 ついに今日!


 私はあの男と向き合った。


 都会にいるならば何の変哲もない人として空間の一背景に過ぎない風貌である。昼間見せてもらった写真の中にこいつはいたかと思い起こしてみるが、恐らくいない。


「お前は、どうして俺の夢に出てくる」


 私の問いかけにあの男は揺れるのみで何も発しない。


「誰なんだ」


 別の疑問をぶつけても、何も話さない。


 私は前に踏み出そうと足に力を込めてみるものの、思った通りに入らなかった。どうやら、ここは奴の夢らしい。視線をあの男からずらして周りを見ると、ビルが林立する都会の中で、影絵のような人々が歩いていた。一様に顔がない。車が走っているべきなのだろうが、奴は興味がないのだろう。


 奴は突然走り出した。車道のど真ん中を必死に逃げている。

 当然、俺は追いかけた。何もわかっていない、初めて向き合ったというのにあの男から言葉の重みを感じなかった。


 俺も奴も表ずらだけの都会を兎と犬のごとく追い掛け回した。


 普段ならば奴に手が届く寸前に事切れる。だが今日は特異な日、あの男の服をつかんだ。そしたら奴の口からようやく声が絞り出されたのを聞いた。


「何故だ」


 間違いなくあの男はそういった。





 *





 布団から起き上がった時、雑なタバコや酒の臭いはせず、ほのかな香水の香りが周りに漂っている。ちらりと横を見れば、彼女が心配そうにこちらを見ていた。


「すごい汗だよ」


「走ったからかな、今日はいつもと違って追いついた。そんで、あの男に何故だって言われた」


 雑巾を絞るように朧げになり行く記憶を再び思い起こす。特徴的なところしか覚えてないのに十分顔も覚えているから不思議な夢だ。


「あの男って、なんで夢にいるかわかった?」


 首を振って答える。私もあの男も、きっと何も知らない。何故夢が繋がっているような感覚がするのか、神のいたずらか、生き別れの双子が夢で会う話を聞いたことがある気もする。


 あの男の顔に似る写真はやはりなかった。テレビとかでも見たことがない顔だった。得たことといえば、奴は都会に住んでいる。街並みは……何処も一緒に思えて自信が無いがたった一つの大都会だろう。


 何はともあれ、あの男の詮索はそこまでとなる。


「今日は観光と温泉だったな、さぁ、支度しよう」


 彼女の満面の笑みがまぶしくて羨ましい。

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