夢見の副作用

黒心

1

 ある見知らぬ男を追う必要があって、兎にも角にも問いたださないと死んでしまうような感覚だった。砂利道とも礫の道とも言えない感触が足裏に伝わってくるものの、夢の中なのに不思議と明瞭なのだ。

 そこは私と男の二人だけの桃源郷、遮るものは何もない。もう少しで手の届くその時、朝が割り込んだ。


 夜中に飲んだ酒とタバコの匂いが部屋に蔓延している。最悪だ、今日は人が来るのに。ブレる頭を押さえてこびりついた窓をこじ開ける。冷たい風がびゅうっと、熱った体に沿って吹き込む。


「昼、昼なのか?」


 正面に座る太陽は黙って応えた。

 約束の時間は……十五分ほど過ぎている。急いで玄関を開けると色白に仄かな赤が浮かぶ彼女が睨んできた。


「おそい、おっそい!」


 かんかんである。深く陳謝し冷えた部屋に通す。空に浮かぶ太陽に感謝して窓を閉めた。

 女神が男の汗だらけベットに座り、上着を投げ捨て汚いだの臭いだの悪態を吐いては机の上のかんかんを消しカスのように傍へ落として本題の紙を置いた。


「はい、頼まれたもの。誰なの?この人たち」


 写真付きの紙が数枚。


「悩みの種かもしれない人たち。仕事が忙しくて調べられなかったから助かるよ。また今度水族館か遊楽に行こう」


「微妙だね。今度じゃなくて明日」


 わざとらしく膨れた頬をみせてサッと旅行雑誌を机に置く。ペラペラと数頁捲ると二泊三日の旅になるようだ。成程と顔をあげると彼女はクローゼットを容赦なく丸裸にしていた。


「ないね、買いに行くよほら。このマシなのに着替えて」


 私はすっかり、夢に出てきたあの男の事など忘れ去った。夜になれば再びうなされてしまうのだ、別に束の間の幸せをワイングラスで傾けるが如く楽しんでも、変わらないものがある。


 その日の夜、キレイになった部屋で再び二人で汚したその夜。あの男はこちらを向いていた。

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