第43話
妊娠発覚からもうすぐ半年、ようやくアイリスの眠りつわりも落ち着いてきたので魔物肉の話をしてみた。
「え……魔物の肉……?」
アイリスの顔はちょっと引きつっていた。
「ああいや、嫌ならいいんだけど」
「魔族って魔物の肉食べるの?」
「普通に食べるよ、何なら普通のシカやイノシシより健康にいいって言われてるし」
「ノアは抵抗感なかったの?」
ちょっと心配そうにこちらを見てそう聞くので、初めて魔物肉を食べた時のことを記憶からほり返す。
そもそも孤児院にいた時は肉と言えば御馳走で年に数えるほどしか食べられなかったごちそうだったのが、魔王領に移ってから魔物の肉とはいえ毎日肉が食えることに喜んでいた記憶しかない。
「多少の抵抗はあったけど肉はごちそうだし美味しかったから気にしてなかったかな」
「そういうものなのね」
「私はそうだったってだけだからアイリスが嫌なら出さないよ」
アイリスは少し悩んでから「私はちょっと遠慮しておくわ」と答えるので無理はさせないことにした。
「いきなり食べ慣れてないもの食べると体もびっくりするもんね」
健康にいいものは食べて欲しいが無理して食べさせるものでもないし、とにかく本人が穏やかな気持ちで子供を産んでくれるのが一番だ。
他の人たちにもちゃんとそこは言い含めておくべきだろう、アイリスや子どもの命は私たちのみならず国どうしの問題になりかねないところでもある。
「それにしても、お腹膨らみだしてきたね」
「少しづつ大きくなってきてる感じはあるわね」
お腹に触らせてもらうがここに命があるというのが不思議な気分だ。
私の手のひらにぽんと小さな衝撃がきた。
「今のは……」
「胎動よ、赤ちゃんが私のお腹を蹴ったみたい」
わずかに感じた衝撃が私の子どもによるものなのだと思うとひどく感慨深い感じがする。
子どもが生まれるまではまだだいぶ時間もある。
(時間をかけていいからしっかり大きくなって元気に生まれておいで)
心の中で子供にそう声をかける。
「もっと大きくなったら名前も考えておかなくちゃね」
「うん、どんな名前が良いかな」
「余裕があればアンヘルにも聞いてみましょうか」
魔王領での暮らしに慣れた私たちの養子もきっといい案を出してくれるだろう。
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