第31話

帝国皇太子嫡男誕生パーティーは豪華な祝砲から始まった。

パーティー会場に入場する皇太子夫妻は思ったよりも良好な関係のようで穏やかな空気だ。

皇太子妃の腕の中ですやすやと眠る愛らしい赤ん坊は純粋に可愛いと思うし、両親と手をつなぐ皇太子夫妻の長女も可愛らしい。

自分もアイリスとの子に恵まれてみたい気持ちが沸き上がる。

「赤ちゃんって本当に可愛いわね」

アイリスの目が素直な喜びに満ちていて、やっぱり私たちの子が欲しいと思う。

この世界のために養子を迎え入れるのもやぶさかじゃないが、この腕に愛する人の子を抱くことが出来たらそれは幸福なことだろう。

皇太子一家へ祝福の式辞が始まると、ほどなくしてアイリスの順番が来る。

伴侶として私も同行するとやはり空気がざわついた。

周りの魔法騎士が皇太子一家に魔法壁を張ったのが分かる。あれくらい軽く押せば壊せるが、無害であると証明するためにも触れない方がよさそうだ。

「ミリアム皇太子殿下、ダリア皇太子妃殿下。王国はご令息の誕生を心よりお喜び申し上げますわ」

皇太子妃の腕の中にいた赤ん坊が目を覚ますと私と目が合った。

うん、赤ん坊ってかわいいな。そんな気持ちで微笑めば、赤ん坊もにこおっと笑う。

(策略にまみれた大人より何も考えずに生きる子供のほうがずっといいな)

しばらくすると赤ん坊の視線はすぐに別の方へ向いた。まあ子供だしな。

周りを見渡すがアンヘル皇子らしき姿は皇太子夫妻のところにない。出席していないのか、別のところにいるのか、どっちだろうな。

アイリスが長い式辞を読み終え皇太子に誕生祝いの目録を手渡すと、私たちの出番は終わりだ。

ふとパーティー会場、皇帝一家の席の一番隅の席に座る少年の後ろに補佐官がいるのが見えた。

「アイリス、あれがアンヘル皇子みたいだね」

緩いカールのかかった金髪に星の散った青い瞳で、欠点という欠点のないその様は絵に描いたような美少年だ。

ぼんやり周囲を見渡すアンヘル皇子には5歳の少年には不釣り合いな達観が滲んでおり、それが妙に絵になってしまうのが恐ろしい。

「パーティー中に話すのは無理そうね」

「ううん、大丈夫。ちょっと髪の毛を借りるよ」

自分の毛とアイリスの毛を依り代によく似た身代わり人形を作って隅に立たせておく。

身代わり人形は精巧だしあいさつ程度は問題なく応えてくれるので話す時間は作れる。

そして、偽装魔法を自分たちにかける。そうだな、パーティーのお茶とお菓子を出しに来たメイドにでも見えるようにしてみようか。あとはお茶をお菓子を手に持って、と。

「声はノアなのに見た目だけ別人って変な感じ」

「偽装魔法ってそういうものだよ」

アイリスの手には軽くつまめる焼き菓子、私の手にはお茶とジュース。服装も帝国のメイドそのものだ。

皇帝一家の席へ向かい「お茶の代わりをお持ちしました」と耳打ちをする。

アンヘル皇子はしばらく驚いたように私を見た後、一瞬目が赤く光った。

(あれはギフト・真贋の目か……)

選ばれた者だけが先天的に与えられる特別な魔法を持っている、と言うのは予想外だった。

しかもよく見たら瞳の中に散っている星が全て違う色をしておりその一つ一つに違うギフトが宿っている。

一人の人間が複数のギフトを持つなど聞いたことが……いや、ありえなくはない。

(複数ギフト持ちってことはか)

帝国が要らない子扱いしているがこれは思わぬ宝かもしれない。

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