第29話
帝国の王宮に入るにあたり私はアイリスの左隣を歩いた。
これは私が伴侶であることを見せつけると同時に、今回はあくまで王配として赴いたことを見せるためである。夫婦で並んで歩くとき妻は夫の左側に立つのに倣った形なので誰が見てもわかってくれるだろう。
国賓歓迎のための飾りつけを施された広間に通されると大きな椅子にドスンと座る威圧的な老人がいる。
(あれがこの国の皇帝か……)
歳の割に筋骨隆々で鋭い目つきには威圧感があり、ふさふさに生えたひげは口元を読ませない。
玉座から動かず指1つで国を動かす皇帝と言うよりも、修羅場を掻い潜った老将軍と言う風情である。
そのとき、私に向かって火と雷の槍が数本飛んできたので反射で結界を張る。おい今ので死んだらどうするんだよ。
「……私の妻に手荒い歓迎ですわね、皇帝殿下」
「王国の女王が魔王を伴侶に迎えたのが事実だとはな、魔族のごとき風貌の人間の男ならばまだ理解できたというものよ」
おおっと、いきなり舌戦が始まっちゃったな?!
元々王国は帝国から勝手に分離独立して生まれたから未だに仲悪いのだろう。500年は前のことを未だに引きずって舌戦を繰り広げるのもどうかと思うが。
「魔族であろうと人であろうと愛するものと結ばれたいと思うのは世の常ですわ」
「王族たるものが私情に流されるとはな。魔族の魔法で産んだ子が魔族であれば王国の乱れは必定」
「魔族であれ人であれ私の子であらずとも賢く善良な者であれば統治者の資格はありますもの」
「人間の国を魔族に支配させる気か?」
目だけが笑っていないアイリスとしかめっ面の皇帝が言葉をぶつけ合うさまは乱暴者の殴り合いの様相を呈しており、誰一人として口を挟ませる余裕がない。
皇帝側の配下も私たちもどうすんだこれという気持ちで見つめるばかりである。
「王たるものが私情に駆られて世を乱すは愚の骨頂、オーウェンを選べば安泰であったものを」
「歴史上私心無く国に奉仕できた王など居りませんわ。それにオーウェン殿下が愛していらっしゃるのは私ではなく王国の玉座ですもの」
うーん、まあそれはそうなんだよな。
オーウェンの過去の言動を思い出す限りだと、アイリスへの好意も多少はあるんだろうけど基本的に王配になりたいという欲のほうが強い気がする。
「なれば貴君を真に愛する者に玉座を譲るのか」
「ええ、誰よりも賢く善良で愛を知る者こそ王国の玉座が相応しいと考えますわ」
「……ならば我が一族の子でもいいわけだ」
皇帝の一言で回りがざわついた。
アイリスはさっき実子相続にこだわらない、と言ってしまった。
まあこれは万が一魔法による子作りに失敗しても遠い親戚筋から引っ張るつもりだろうと思ってスルーしたけど、皇帝は言葉通りに受け取った訳だ。
(これは墓穴掘っちゃったな)
私としてはアイリスの死後に帝国が王国併合に動いても魔族領に差し障りはない、しかしこれから推し進める魔族と王国の融和政策を考えるとこの流れはよくない。
「我々の一族にアンヘルという子が居る。年のころは5つ、皇太子の血を引き賢く美しい子だ。
……どうだ王女アイリス、アンヘルを養子に迎え入れてみないか」
おいおいおいこの爺さん自分の孫を人身御供にしやがったぞ。
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