第28話

王城から帝都の入り口まで飛んでいると、帝国の兵士が威嚇するように弓を向けたりしているのが分かる。

「飛行魔法で行くことは報告してたよね?」

「魔王への警戒じゃないかしら」

「あー……まあしょうがないかあ」

王国の要人が乗っていることは舳先の旗でわかるから本当に射ることはないだろうが初めて見る遺物に対する威嚇はやむなし、なのかな?

しばらく飛んでいると「帝国の南門が見えてきたわね」とアイリスが声をかける。

「じゃあこの辺りで一度船を下ろそうか」

南門のすぐ近くに船を下ろすため、合図として地面に丸を書きこむ。

丸の中に入らないように声をかけてから船をゆっくり地面に降ろすと、アイリスが周囲を見渡して一番金持ちそうな若い男に声をかけた。

「帝国騎士団のかたですね?王国から参りましたアイリスとその伴侶ノアが参りましたことを恙なくお伝えてくださいまし」

「は、はい!」

若い騎士が猛ダッシュしたのを確認すると、私は馬車を引っ張り出した。

私が連れてきた馬はちょっと生気を吸われてたようなので餌と水を買い与え、その間に船に積んであった荷物を積みなおす。

「手綱は補佐官に、警備は騎士団長殿に。私とアイリスは馬車の中のいいるから頼むよ」

準備を整えて帝都の中へ入るとそこは華やかで整備された街並みが並んでいる。

その大きな街並みの突き当りにドドンと豪奢な王宮が立っていて、あれが帝国の王宮なのだろうとすぐに分かった。

魔王城周辺の手当たり次第に拡大したことによる混沌とした雰囲気や、王都の歴史ある小道が複雑に連なった迷路のような景色とは全然違う。

「全然違う街並みだね」

「王国が独立するまでは大陸一帯を支配した大国だもの、それだけお金があるという事なんでしょうね」

「確か初代国王が魔族と人間の境界を守る立場でありながら帝国が土地の人を守らない事に不満を漏らして独立したんだっけ」

この辺りのことは孤児院にいた時にうっすら聞いた覚えがある。

そんな話をしながら王宮の入り口にたどり着くと、門前に見覚えのある人物がいる。

額に勇者の紋章を宿した筋骨隆々の逞しい肉体の少年……あれは……。

「ここで会ったが100年目!魔王ノア!今日こそ貴様を倒し、アイリス様の婿に!」

勇者オーウェン。そういえば彼は帝国の皇子だった、そら居るわな。何なら飛んで火にいる夏の虫、ってやつだわ。

アイリスは「婿入りするのまだ諦めていなかったのね」と冷静な一言。うん、私もそう思う。

とりあえず馬車から降りると聖剣をぶん回してきたので、魔槍の柄で相手の腹を狙って打ち返す。





「今回は魔王ノアではなくアイリスの伴侶として帝国に来た、それゆえ争いは望まぬ。

あとアイリスとの婚姻はもう既に成った故あきらめろ」


そう告げると奥歯が砕けん勢いで噛み締めながら私をにらんでくるのだった。

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