第27話

「帝国のパーティーで着用するドレスが仕上がりました」

そんな報告が来たのは帝国の皇太子嫡男誕生パーティーの前日のことだった。

新婚旅行から戻って以降ずっと楽しみにしていた一着だ。

「是非見せてくれ!」

仕事をほっぽり出して城の裁縫室に駆け込むと、そこには美しいシーブルーのドレスが飾られていた。

エンパイアラインのすとんとしたシルエットながら精緻に施されたビーズや刺しゅうが美しく、肩や鎖骨周りをシンプルに見せることで耳元のピアスと表情に視線が行くようになっていく。

ピアスもアイリスがお気に入りだと言っていたものに合わせて小さめの石で作ったクラシカルなデザインになっている。

「ご要望通り地味に仕上げましたがよろしいんですか?」

「今回は魔王ノアではなくアイリスの伴侶として出向く訳だからな、少し地味なくらいでちょうどいい」

王城の職人と張り合って派手にせずアイリスに寄り添うデザインをしつこく求めただけの甲斐はある。

(そもそも魔界の服装って豪華絢爛を良しとするから貧乏人育ちには落ち着かないんだよな……まあ言わないけど)

許可を得て肌触りや縫製の具合を確認してみるが特に問題なさそうだ。これなら安心して赴ける。

「よくここまで仕上げてくれた、約束通り成功報酬を出そう」

成功報酬として先々々代の魔王妃のウォークインクローゼットのカギを手渡すと「本当にあの伝説の職人の服を全部貰っていいんですか?」と聞いてくる。

私はよく知らないが先々々代の魔王妃と言う人には専属の縫製職人がおり、その技術を学ぶためにクローゼットのカギが欲しいと言ったのは彼女たちのほうである。

「確認したら服の大きさが違いすぎて私じゃ着られないし、鍵1つでこれからも私の期待に応えてくれるなら安い買い物だ」

「ありがとうございます!」

「ドレスはトランクに詰めて置いてくれ、精魂籠ったいいドレスを汚すのはもったいないしな」


****


翌朝、飛行魔法でアイリスを迎えに行くといつもの面々が待ち構えていた。

「今日もアイリスの付き添いは騎士団長と執事のおじいさんね」

「本当はもっと付き添いがいるんだけど飛行魔法が苦手な人多くてね、今回は最低限にしたわ」

空飛ぶ木造船に荷物を積む間にアイリスや補佐官から最近の状況を軽く聞き取っておく。

魔王城から送り込まれた人員もようやく王城に慣れ、王城の人々もおっかなびっくり慣れようと努力してるようだ。ちなみに勇者と組んだ宰相は普通に仕事を続けてるらしいがまだ恐怖心がぬぐえないらしい。

アイリスも融和政策を考案して色々考えているようだ。

「荷物積み終わりました!」

その一言が響くのを確認した後、アイリスから王国の旗を受け取って船の舳先に取り付ける。




「じゃあ、行くよ」

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