第24話

アイリスに連れられて飛び込んだ海は青く透き通り、色とりどりの魚たちが自由気ままに暮らしている。

私は海のなかに結界を張ってドームを作ってアイリスを連れ込む。

「結界ってこんなことできるのね」

「まあ試しでやっただけなんで結界自体の強度はそんなにないけどね、だから30分ぐらいしか持たないと思う」

「それでも十分よ」

360度が海に包まれた世にも珍しい空間で私たちはしばし海の魚を眺めて過ごした。

ぼちぼち結界が壊れそうだなというタイミングで砂浜に戻ると、ふわっと気持ちのいい風が吹いてきた。

「海っていいね」

「でしょ?」

大きな葉っぱを敷いて砂浜の木陰に腰を下ろすと太陽も海も輝いている。

隣にいるアイリスも負けないくらい輝いているように見えた。

「いい?」

「うん」

そっと顔を寄せ合うと、アイリスの紫の瞳が私の視界いっぱいにひろがる。

海の青もいいけどこの紫もいいな~なんて考えながらちょっとづつ、ちょっとづつ、顔を寄せていく。

ちゅっ、と可愛らしい音を立てて口を吸うと塩の味がする。

「……ノアってホントに可愛いわね」

「えっ」

「わたし、もっと大胆なことしてくれるかと思った」

「さすがに屋外ではちょっと……恥ずかしいし、それに暑いし」

色々と言い訳してみるが「従者の目なんて気にしなくてもいいのに」とアイリスは言う。

今思ったけどアイリスと私で恥ずかしさへの感覚が違いすぎる気がする、なんでだろうね?

「ところで日焼けとかは大丈夫なの?こんだけ日差し強いとアイリス真っ黒になっちゃわない?」

「そこは大丈夫、専用の魔法薬のお陰でどれだけ日にあたってもヒリヒリしないのよ。

まあこの薬飲むとひりひりしない分日焼けもしないからノアみたいに茶色い肌になれないんだけど」

王国にはそんな薬があるのかと興味深くアイリスの白魚の肌を見つめる。

心なしかその肌に真珠のような光沢まであるような気がするのは気のせいだろうか。

「……私の妻、美しすぎでは?」

「それは私のセリフよ」

「絶対私のセリフだよ」

「いやいや絶対私の「お嬢様、アイスティーをお持ちしました

話がヒートアップしかかったところでアイリスの執事さんが冷たい紅茶とタオルを持ってきてくれる。

うーん、執事さんってすごい。うちの補佐官なら面白がってしばらく放置するもん。

「ありがとう爺や」

「ノア様もどうぞ」

頷きつつ紅茶を受け取ると、よく冷えたアイスティーのすっきりした風味が心地よい。

微かに果実の風味もするのがよりこの浜辺によく似合う。

「もうしばらくして日が沈むころになってもきれいなのよ」

アイリスがそんなことを言いながらアイスティーを手に笑うので、やっぱりうちの妻美しすぎでは?とつぶやいた。

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