第22話
新婚旅行一日目。
張り切って魔王城を出て飛行魔法で港町にひとっ飛びすると、地域の人々はおっかなびっくり私を迎え入れた。
(……思ったよりはビビられてないかな)
これぐらいなら気にするほどでもない。
同行者として連れてきた毒見係(といいいつつ最近は食全般何でも係になりつつある)ニーソスは人間の街に興味津々なようで、隠しきれないしっぽの揺れに可愛げがあっていい。補佐官?あいつはいつも通りである。
港町の領主の家で落ち合う約束になっていたので話をしに行くとめちゃくちゃに焦りながらも「お話は伺っております」という一言とともに海の見えるベランダへと連れていかれる。
地域の特産だという塩気のあるクッキーを食べながらこの領地の話を聞いていると「ノア!」と声が響いた。
結婚指輪の飛行魔法を使いこなせるようになったアイリスは警護についていた騎士団長と執事のおじいさんを両手に引き連れ、ベランダの手すりに華麗に着地してきたのである。
「アイリス、ずいぶん使いこなせるようになったね」
騎士団長と執事のおじいさんは飛行魔法にまだ慣れていないようで、よろけて落ちてしまわないように触手で胴体を捕まえてから補佐官とニーソスの介助のもとゆっくりとベランダに降りていく。
そしてアイリスに手を伸ばしてお転婆な愛しい人をベランダの手すりから降ろすと「練習してたの」と笑う。
「私じゃなかったら騎士団長さんも執事さんも落ちてたかもしれないよ」
「ノアなら二人を助けてくれるでしょ」
うーん、この信頼。
面はゆさで口角が下がるのを「にやけヅラ」と指摘してきた補佐官に「うるさいな」と突っ込み返した。
****
領主を案内人とした港町の観光を済ませると、王家所有の船で島を目指す。
船長によれば風もちょうどいいので予定より早く着くかもしれないという。
「では、出港後はお目汚しにならねえよう奥の方に引っ込ませていただきます」
「お願いするわね」
そんな奇妙なやり取りに首を傾げつつ船の甲板に椅子を置いて海を眺めて過ごす。
「王国の海はきれいだね」
「魔王領の海は違うの?」
「もっと荒々しいかな、3日に一度しか船を走らせられない渦潮の海とか冬になると波に乗って氷が飛んでくる凍り海とかそういうとこばっかりだから……」
魔王領の海について話していると同じ海だというのにこんなに違うということに驚くばかりだ。
アイリスは子どもの時から避暑でよく王国領の海を訪ねていたのは聞いていたけれど、こうして実際に来てみるとまた違うものがある。
「この海に連れて来るの、ずっと夢だったの」
そんな話をしていると遠くに小さな島が見えてきた。
「あそこが今回の目的地のヌーディス島よ」
船が島に近づくとバリバリッという紙を破くような音がしてきた。
(なんだろ、結界というより呪いっぽい音だな?)
まあ王家所有ということだし不審者除けだろうと悠長に考えていた、その時だった。
パンッ!
突然私とアイリスの着ていた衣類のボタンや縫い目がはじけ飛んで行ったのだ。
「アイリス?!」
一糸まとわぬアイリスが「なに?」と気にせずに微笑んでいる。
「ここなんか変な呪いかかってない?!間違えて呪いの地に踏み込んでない?!」
「ヌーディス島は衣類を着た者を拒む島で、秘かに何かを持ち込むことのできないという性質から王家所有のリゾート地になってるのよ」
「なんだそれはーーーーーーーー!!!!!!!!!」
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