第12話

結婚式の日はよく晴れたいい日であった。

魔王城の庭の最も目立つ場所に二柱の神が並立して立っており、そこへ繋がる赤薔薇の絨毯に私がじっと待っていた。

この挙式は補佐官たちによって魔王領と王国各地に中継されており、私たちの婚姻が世界に目撃されるように手配していた。

「アイリス王女と魔王ノアの入場です」

司会の声を合図に私たちは腕を組んで赤薔薇の絨毯を歩き始める。

アイリスは朝まで覆われた艶やかな純白のウエディングドレスドレスを、私は魔族伝統の黒い巻きスカート(こちらでは男物になる)とジャケットだ。

空からは祝福の花びらが撒かれ私たちに降り注ぐ。

それを歓迎してるのかしてないのかなんとも言い難い表情の者もいれば、魔族と人間の婚姻という(おそらく)史上初の出来事を面白がる者、あからさまに拒否感を滲ませる者もいる。

純粋に私たちとの関係を祝ってくれるのはアイリスを幼少期から見守っていて私のことを知っている騎士団長や、まだ私の下に来て日が浅いのであんまり分かってないニーソスぐらいだ。

二柱の神の石像の前で足を止めると、司会進行を務めるノスフェラトゥス侯爵が一枚の紙を私たちに差し出す。

「婚姻契約書にサインを入れると魔神に誓いが届き、歓迎の花が降り注ぎます。よろしいですね?」

「これが魔族の伝統的な挙式なの?」

「うん」

人間と魔族の挙式について調べたとき、この婚姻契約書は良い風習だと思えたので取り入れることにした。

アイリスが婚姻契約書の中身一瞥すると「読み上げてもいいかしら」とノスフェラトゥス侯爵に確認してから契約書を読み上げる。


「婚姻契約書

アイリスとノアは本日、魔神クラウディアと人の神・ティターンの名のもとに夫婦の契りを交わすことを固く誓います。

健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、相手を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓います」


その誓いの言葉にお互い目を合わせてうんと頷いてから、自らの名前を契約書に刻む。

すると契約書が光を放ち、オレンジの甘酸っぱい香りを漂わせた白い花が空から降り注ぐ。

アイリスの髪に白い花が2つ3つ落ちてきて私たちを甘酸っぱい香りで包んでくれる。

「これにてふたりは神々に認められた夫婦となりました」

ノスフェラトゥス侯爵は実に満足げにそう告げると私たちは満足して微笑みあった。

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