第8話

アイリスを妻として迎え入れるための準備を急ピッチで行いながら、ふと私は脳裏に不安がよぎる。

結婚式の準備はこれでいいのか、結婚しても私に敵対勢力からアイリスを守り抜けるのか、せっかくの挙式前に喧嘩してしまったらどうしよう、私に忠誠を誓ってくれた者たちとアイリスはうまくやっていけるのだろうか。

いろんな不安がグルグルと脳内を駆け巡って落ち着かずそわそわと城の中を行ったり来たりしては襲撃者を追い払い、新生活の不安で夜中に泣き出しては襲撃者に八つ当たって殺しかける始末。

「典型的なマリッジブルーですな」

「まりっじぶるー」

呆れ気味にそう笑ったブラム・ノスフェラトゥス侯爵であった。

先日私に忠誠を誓ったばかりの吸血鬼の首領は私の何十倍も長生きしているだけあり、そうした機微には明るいようで生娘の血を注いだグラスを手に私をなだめるように言葉を紡いだ。

「結婚に伴う生活の変化で不安になるのは人も吸血鬼も同じ、婚前に湧き上がる不安や心配から落ち着かなくなることを人の子はそう呼ぶそうですぞ」

「よくあることなのか?」

「先々代の魔王妃となった我が7番目の妹も同じように不安で攻撃的になっている時期がございました」

そう言われると少し気持ちが和らいだ。

「ところで、人の血の安定供給システムの構築について素案が出来たと伺いましたが」

「人間の庶民から一定量の血を買う代わりに一定額を支払うシステムを考えている、あくまで素案だからノスフェラトゥス侯爵を中心に吸血鬼側の意見をまとめておいてくれると嬉しい。

人間側の承諾も必要だから正式にやれるのはだいぶ先だろうが……」

「ふむ、これは一考の価値はありますな。家に持ち帰り皆の者と話し合いましょう」

ノスフェラトゥス侯爵は興味深く書類を眺めてから従者に書類を預ける。

これで吸血鬼族は私の側についてくれるだろう。

「話は戻しますが挙式は誰を招くのですかな?」

「魔族側の貴族は反魔王系勢力も含めて一通り呼ぶことになるだろうな。人間側はわからん、アイリスに来てもらえそうなのがいたら呼んでいいとは言ってあるが、呼んでも出席を嫌がられそうだし最悪結婚式に血の雨が降りかねんしな。

一応挙式の様子はどこからでも見られるように準備はさせてる」

その答えにノスフェラトゥス侯爵は満足げに笑って「一波乱ありそうでたのしみですなあ」と言い放つ。

なんでこう魔族は血の気の多いやつばかりなんだろうな……。

マリッジブルーを加速させながらため息を漏らして「結婚式に波乱はいらんよ」とつぶやいた。

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