第7話
「結婚式って何やればいいと思う?」
もともと孤児で結婚式と縁遠かった私はアイリスを妻として迎えに行くにあたり、本気で悩んでいた。
補佐官は表情一つ変えずに「そうですねえ」とつぶやきながら口を開いた。
「魔族の結婚式のやり方に倣うのであれば、アイリス王女をさらおうとするものが現れるので攫い手をぶちのめして取り返すという流れがあるので攫い手ですかね。あとは愛を証明する血の器ですとか「あらゆる儀式に暴力がセットになるの何なの?」
思わずマジの突っ込みが出た。
だから魔族って人間に嫌われるんだろうな……と思わず遠い目になったがそれは置いといて。
「アイリスのドレスは白でいいよね?」
「魔族のウエディングドレスは黒ですが」
「それは私が着る、白と黒のウエディングドレスで二柱の神に愛を誓う……」
純白の美しい花嫁となったアイリスと黒衣の花嫁となった私が二柱の神に愛を誓う口づけをするなど、想像しただけで神々しい。
彼女のご両親が草葉の陰で大号泣間違いなしの光景が繰り広げられるはずだ。
『ノア、ずっと一緒に暮らしましょうね』
ウエディングドレスの白いベールを外せばあの紫水晶の瞳と艶やかな赤い唇が私に触れて……ヤバいぞ、想像しただけで死ぬ。
「というかドレスなんですね」
「もちろん男服も着るぞ、アラクネの一門には両方作るように依頼してある。私もアイリスのドレスとスーツ両方見たいしな」
私のその一言で補佐官のアルカイックスマイルが崩れた。
おい、そんなにおかしいこと言ったか?好きな人なら可愛いもかっこいいも両方見たいだろうが。
「……魔王ノアの思し召しのままに」
こいつがコメントに困ったときの常套句を口にしたので「そんなに変なこと言った?」と首をかしげるしかないのだった。
****
さて、結婚式に必要そうなものは一から揃えているが相変わらず暗殺者は来ている。
今日も昼食に毒物を混入してきたやつがいた。
魔王の紋章に目覚めてから私はあらゆる毒物・状態異常が無効化されており、毒物で死ぬことはないので今日は飯がまずいなーぐらいで気にせずにいたけどこの調子でアイリスを狙われるとこっちの立場が危うくなる。
「ちょっと料理人・配膳係・毒見係を謁見の間に呼んできてくれるか」
補佐官にそう告げると10分もたたずに全員が謁見の間に並ぶ。
全員面倒そうに見えるのは舐められてるからだろうな、と察しが付く。
「全員起立、倒れたものは全員王城から出て行ってもらう」
これから発動させる魔術・誠意の雷は相手の自分に向ける忠誠心を図るものだ。
毒物を混ぜた者は誠意なしとして感電し、混ぜなかった者は無事で立っていると言う訳だ。
そのとき数人が結界を張っているのが見えたので、悪いがその結界を無効化させる術も同時に発動させて貰おう。
誠意の雷が全員の上に降り注ぐと半分以上が倒れていた。
(思ったより多いな)
そんな時、一人だけふらふらで怯えている少年がいた。
この感じだと毒物混入は知ってたけど直接は関わってない、といったとこかな。
気絶した奴を全員触手で城外に放り出してから子供のほうを見た。
「お前やせっぽちだな、名前は?」
「じ、人狼族のニーソスと申します。今年の頭から毒見係のスキュラ様に呼ばれて来ておりました」
犬の耳やマズルを持っているが見た目は人間の浮浪児に近く、がりがりでそばかす顔もあっていかにも不健康に見える。
人狼族は狼に近ければ近いほど正統派の血が濃いとされているはずだからこの調子だといじめられていたのかもしれない。私もいじめられていたし親近感がわく。
スキュラというのはたぶんさっき放り投げた人狼族の毒見係だろう。
「気に入った、ニーソス。お前が次の毒見係だ」
「ふぇっ?!で、ですが俺は人狼族の最下層で上層のものでは……」
「さっきの誠意の雷で毒見係が全滅したからな。人狼族は毒物検知能力が高いし、お前のように主流派から外れてる奴は好きなんだ」
そう告げるとニーソスはへたり込んで深く頭を下げたあと「ほんとうですか」と問う。
「ああ、何より臆病であればあるほど優しいことをを私は知っている」
人狼族の服従のしるしとして服を開けてお腹を見せた後、じっと私を見た。
「……このニーソスは誠心誠意魔王ノアにお仕えします」
「ああ、頼むよ」
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