第6話

-その頃、アイリスのいる王城内部

「我らの王女を魔王に差し出していいのか?」

「軍を編成し魔族を滅ぼさねばならない!」

「しかし我々を長く守ってきた千年結界を容易く破壊したものを倒せるのか?」

魔王ノアの去った王城の間で喧々諤々の話し合いを繰り広げているが、ノアが完全に敵認定されていることに頭痛がしてきた。

いちおうくぎを刺しておこう。

「静粛に」

そう口を開くと貴族たちはぴたりと口を閉じる。

女の身であっても何とか国が動かせるのは、亡き父母への忠誠心の強い貴族が多く皆が支えようと考えてくれているからだ。

「先に言っておくけれど、私は死んでも結婚を誓う気はなかったわ」

その一言に一気に回りがざわついた。

つまりそれは以前から何かしらの形でノアと面識があったことを気づかせるのは充分であった。

「殿下は魔王と通じていたのですか?!」

激しい動揺のあまり彼にしては乱れた言葉遣いで騎士団長がそう告げる。

亡き父王と同い年の騎士団長であればあの顔には見覚えがあったはずなのに、わからないのは意外だった。

(まあそれぐらい動揺してたってことよね)

普通ならばもう死んでいると考えるのが妥当だろう。

「騎士団長も私の身辺警護時代に会ったことがあるはずよ、王都の孤児院で」

「王都の孤児院……ノア……。もしかして王女殿下がお忍びでお会いになられていたあのいじめられっ子のノアだとおっしゃるのですか?」

「間違いないわ。

事情の知らないものにも説明しておくわね、父……つまり先王殿下は子供好きで孤児院への慰問を積極的に行っていたことは知ってるわよね?特に頻繁に尋ねたのが王都の東にある国内最大の孤児院で、ノアは3年前までそこに暮らしていた孤児で、私の幼馴染。王城内に王族が孤児と頻繁に遊ぶのを嫌がるものが多かったからずっと黙っていただけ」

先王一家は子供好きだったが先立たれることが多かったせいか孤児の支援に積極的で、自分の子供も連れて国内各地の孤児院の慰問を積極的に行った。これはどんな田舎貴族でも知っていることだ。

「つまり、ノアは幼馴染の人間で気心知れた仲。だから問題ないわ」

騎士団長は深く考え込んでから口を開いた。

「確かに魔王ノアは彼女によく似ていました、しかし偽物であるという可能性は?」

「偽物ならわざわざ求婚なんてまだるっこしいことせずに力で押しつぶすでしょう、この王城にいた人間をだれ一人傷つけなかったことが最大の証拠よ」

実際ノアの触手に捕まった騎士が多くいたが、普通の魔族は躊躇なく殺しにかかることを思えば外に投げ出すぐらい穏やかなほうだ。

「だとしても孤児と王族の結婚ですぞ?」

「次期国王はどうなる?向こうも女だぞ?」

「帝国から婿を貰うのとどっちがいいのか……」

ざわざわした空気が落ち着いたのを見計らって「とりあえずこれで納得した?」と問う。

貴族たちは悩みながらも王女アイリスの意向をいちおう受け入れた。

もちろん全員が納得したわけではないが、その辺はしかたない。




(これでようやくノアと一緒になれるわね)


脳裏にノアと白いウエディングドレスを着てバージンロードを歩く姿を思い浮かべながら「きょうはこれまでにしましょうか」と宣言した。

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