後日談1 回り道(ラウンドアバウト)

 今日は朝から出勤、閉店までお仕事。いわゆる通しだ。

 ちょっと憂鬱だけど、昔から無駄に体力だけはあるんだよね。弟と空手やってたおかげかな。


 それに今は、あの子が私に元気をくれる。


「おはようございます、ひろさん」


 休憩室のドアが開いて、黒髪が斜めに揺れた。


「おはよう、りんちゃ……はらさん」


 職場で名前呼びはまずいよね。浮ついてるなぁ、私。

 最近ぐんと仲が深まったせい。とはいえ、いまだ食事にすら誘えてないんだけど。


 そう。食事に誘う――これが私の次なるミッションってわけ。

 お店選びにはまず好きな物から知らないと。

 カツサンドの最後の一切れを食べ終えた私は、ロッカーに向かう凛ちゃんの背中へ声をかける。


「小原さんは食べ物、何が好き?」


 エプロンを着け終えた凛ちゃんがポニーテールを翻す。


「食べ物……もずくが好きです!」

「もずく!?」

「はい! お父さんが仕事帰りにいつも買って来てくれるんです!」


 そんなキラキラした目されたら、今さら「そういうんじゃない」なんて言えない。

 しかも、そこへ昼シフト上がりのいなさんまでやって来て――


「なになに? もずくトーク? あたしも黒酢のやつ、家の冷蔵庫に常備してるよ。小原ちゃん何味が好き?」

「最近は梅酢が」

「お、いいねー。広田さんは?」

「り、リンゴ酢とか……」

「イェ~イ! もずく三姉妹結成~!」


 流れるようにハイタッチを交わす私たち。何だこの展開……。結局うやむやになっちゃったけど、楽しいからいっか。




 数時間後。


「んじゃ、おつかれっしたー」

「はぁい。気をつけてねー」


 ようやく閉店。駐車場には私たち二人。


川上かわかみくんは夜お鍋かぁ。りんちゃんとこは?」

「うちは……今日お父さん出張で。お母さんも『適当に食べて』と」


 そこで私はひらめいた――時は来たれリ! と。


「よかったら一緒にファミレス寄ってかない?」




  *




「私は……海老のトマトクリームリゾットにしよ。凛ちゃんは? 値段とか気にしないで好きなもの頼んでいいよ」

「わたし、この……チーズたっぷりハンバーグが食べたいです!」


 ようし。これで凛ちゃんの好物リサーチ完了。食事誘うときの材料に……


 ……いやいやいや!


 今一緒に食事できてるじゃん!


「どうしたんですか? みどりさん」

「ん……ううん! また凛ちゃんとどっか食べ行けたらいいな、って」

「……わたしも。そう思います」


 結果オーライ……かな?

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