第三十二稿 私のところで一緒に暮らそうよ ★

 買い物に出かけたり、動物園や遊園地で遊んだりしてその合間合間にたくさんの写真を撮る。昼間からお酒を飲んだり夜は遅くまで語り合う。

 遠坂さんの言葉に甘えて、私達家族はこれまでにできなかった事を時間の許す限り楽しんだ。

 そうしてあっという間に2日が過ぎていった。


「なんだか一生分の親孝行してもらっちゃった。ありがとうね。れなが娘で本当によかったわ」

「それにはまだまだ足りないよ。次帰って来た時は号泣させるんだから!」

「楽しみにしてるわ。……さてと、そろそろ時間ね。日向さんの事絶対に手放しちゃダメよ」

「うん。近いうちにいい報告ができると思うから……待っててね」


 空港のロビーで抱きしめあったあと、私の背中を何度か叩くと母はいつもどおり元気いっぱいに去っていった。

 そのあと展望デッキで遠坂さんと合流して、2人で母の乗る飛行機が飛び立つのを見届ける。


「涼子さんとの2日間はどうだった?」

 空を眺めていた遠坂さんが私に顔を向ける。


「すっごく楽しかった! 日向のおかげでいい思い出がたくさんできたよ」

「え、別に私は何もしてないよ」

「ううん。絶対に日向のおかげなんだから!」


 ちょうど風が止んで余韻に浸っていると、唐突に隣からぐううううと鳴き声が聞こえてきた。


「ちょっとー日向ぁ!」

「おかしいな、朝ちゃんと食べてきたのに。こんな時に雰囲気壊しちゃってごめん……」


 その照れた横顔を1番近くで見られる私は誰よりも幸せだと思う。

 お互い笑いながら、しばらくの間それを噛み締めていた。


「じゃあ帰りにお昼食べていこっか!」


 そう提案するとぎゅるると遠坂さんのお腹は返事をして、彼女の顔はより一層赤くなった。



 そうして私達は近くのサービスエリアに到着するとフードコートへ。

 ラーメンとチャーハンのセットを一気にかきこんで、彼女は幸せと言わんばかりの表情を浮かべている。私がおもむろにから揚げの皿を差し出すと、その目の輝きがキラキラと増した。

 両手で頬杖をついた私はその一部始終に癒される。


「ねえ日向、今後の話をしておきたいんだけどちょっといいかな?」


 私は彼女がコップの水を飲み干すタイミングで切り出した。


「もしかしなくても家の事だよね?」

「うん! でね、私のところで一緒に暮らそうよ」

「でも……家族の思い出がある場所に私が入ってしまっていいの?」

「日向はもう家族以上に親密な人なんだよ。これからあの家は日向の思い出が増えていってさ……そういうの想像しただけでもわくわくするし絶対楽しい。あ、でももし日向がだめって言うなら、そっちの家でも全然構わないんだけど」


 私がそう言い掛けると彼女は首を振った。


「私はれなの思いを尊重したい。あとね……実を言うとれなのところの一員になりたいって思い始めてる。だから、私の方から一緒にってお願いしたいくらいだよ」

「わぁ日向、ありがと!」

「そうなったら、早速準備を進めなくちゃね」



「これはいる? いらない?」

「そこからの一帯は全部処分かな。あとは――」


 彼女の自宅で引っ越しの手伝いをする事になった。

 遠坂さんは驚異的な即決即断を見せている。私はと言えば、いるものいらないものの区別ができずにものが増えていくというのに。

 一緒に暮らすようになったらその辺りの秘訣を教えてもらおう。


 作業を進めながら、そんな事を考えているうちにとても興味を引くものが目に入った。


「ねえ日向、ちょっとこれ見ていい?」

 私は高校のと思しき卒業アルバムを掲げた。


「いいけど面白い事なんてないと思うよ」

「昔の日向も知りたいの。お……この子かな。なんか今と印象違うねぇ」

「あの時は髪も伸ばしてたし、染めてたのもあるからね」


 その言葉を受けて本人とアルバムの彼女を比較してみる。


「言われてみればそうだね! もしかして日向にもやんちゃな時があったの?」

「やんちゃとまではいかないけど、今よりは大分浮かれてた時期ではあるかな。若気の至りと言うか……?」


 手を止めて懐かしむその姿もまた様になる。

 そう思って他のページも読んでいると、


「ねえ、れなはどんな感じだったの?」

 遠坂さんが急接近してきていた。


「染めたりはした事なくて、髪形はツインテで……。多分今とあんまり変わってないかも」

「でも、その頃のれなにも会いたかったな」

「私も同じ事思った! その時出会ってたらどんな話するのかなー」

「ねえれな、少し休憩しようか。おいで?」


 彼女からベッドまで手を引かれると、すぐに押し倒される。

 顔がゆっくりと近づいて荒い息遣いが聞こえてきた。


「あのあの日向さーん、休憩ってそういう……?」

「だって、最近全然2人になれてないし」

「それはそうだけど……今は雰囲気がちょっとさ?」

「わかってるんだけど、ごめんね。でも嫌だったら、れながそう言ってくれればいくらでも我慢するから」


 私が拒めないのをわかっていて優しい言葉を掛けてくる彼女はずるい人だ。

 そう思っているうちに彼女のペースに完全に呑まれ重なり合う。気付けば外はすっかり暗くなっていた。

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