第二十三稿 なんだかちょっと同棲みたいな話だよね ★

「おぉ、見れば見るほど想像どおりのクール。そしてビューティーですね!」


 打ち合わせや打ち上げの場になりつつある近場のファミレスで、正面に座るアニエスは感嘆の声をあげた。

 その様子に周りの人達は何事かと視線を向けている。


「ちょっと、うるさいから。ほら皆見てるから!」

「ついついです、先輩スミマセン。でもでも、まさか本当にお会いできるとは思いませんでしたので!」


 興奮気味にまくし立てるアニエスはさておき。


「ごめんね、この子いつもこうなんだ。言ってたとおりうるさいでしょ?」


 私は隣に座る遠坂さんにひそひそと声を向けた。


「え、でも。元気なところはれなとそっくりだと思うよ」

「うそ、私も同類!?」


 と叫んだ時にはもう遅い。私達はまたもや周囲の人々からの注目を浴び、店員さんから注意をされてしまった。


「何をいまさらです! それにしても……会わせたい人がいるって言われた時はアタシ、先輩のパパになってしまったのかと思いました~」


 アニエスはご飯のようにガツガツとストロベリーパフェをかきこんでいる。


「何やらかしても大らかな心で許してくれそう」

「もちろんですとも! アタシは後輩でありの父でもあるのですよ。ほぉら甘えてごらぁん?」

「その変な顔やめーい」


 などと、普段の調子でやり取りをする。


「いつもれながお世話になっているそうで。仲良くして頂きありがとうございます」


 遠坂さんがうやうやしく頭を下げれば、


「そこまで硬くならなくても大丈夫ですよー。れな先輩のコト、時々襲いたくなりますけどそれはそれ。安心してください、キチンとわきまえてますから!」


 アニエスはむっふふーと返した。


「なんでそういう事言うかなー。日向はアニエスと違って真に受けやすいんだからやめてよね?」

「大丈夫だよ。私はもう何があってもれなの事信じるから」

「ひ、日向ぁ……!」


 きらりと王子様のような笑みを浮かべた彼女に私はドキドキとする。


Chaudあつい! 本当にお熱いですこと! あ、ところで月末のイベントなんですけどねー」


 そうアニエスから切り出され、詳細についてあれこれと言葉を交わしていたそんな中だった。


「私も行ってみたいな」

 遠坂さんがそう呟いたのだ。


「ほうほう、せっかくだしコスデビューでもしちゃいます? ビューティーの長身からしますと、ちょうどいいキャラクターがいますよ!」

 遠坂さんへのその呼び方はどうかと思うのだけど、アニエスはとにかくノリノリだ。


「いえ、私はどちらかと言えば撮りたいです」

「おお、カメコさん志望ですか? それはそれで大歓迎です~!」

「旧式ですが一眼レフを所持しております。やはり、デジカメなどでなければいけないものでしょうか?」

「い~え、むしろそっちの方がありがたいです! ぜひぜひ参加してください! あ、連絡先もらえますか?」


 遠坂さんが意外と乗り気なのに驚きつつ、私は2人の会話を黙って聞いていた。



 今日は私の家に遠坂さんが泊まっていく日だ。

 肉じゃがのお返しにと彼女が作ってくれた夕飯をご馳走になる。

 そうして、お風呂からあがりテレビを見ているとちょうどいい時間になっていた。

 私は遠坂さんのおかげで、夜が寂しいものから待ち遠しいものに変わってきているように思う。


 間接照明だけが点いた寝室。そのベッドに私達は隣り合い横になった。


「ねえ、昼間の話なんだけどさ。日向はコスプレに興味があったの?」

「ないけど」

「だったらどうして?」

「普段とは違うれなをどうしても写真に収めたくて」


 彼女は言いながら、指でフレームの形を作って私を見つめた。


「じゃあ頑張らないとなぁ。そういえば写真は趣味だったりするの?」

「大学の頃に少しね。懐かしいな、その時は風景ばっかり撮ってたよ」

「それでカメラを持ってたわけねー」

「あ、うん。父親から譲ってもらったものなんだけどね。聞いた話だと確か――」


 そこから家庭の話になった。

 遠坂さんの実家は都心から遠く離れた場所にあり、仕事の都合上頻繁には帰れていないらしい。

 ちょうどいい機会だと思って私も両親について切り出した。


「まあそんな感じかなー。あ、でも関係は普通に良好だから心配しないでね!」

「高校から1人で寂しかっただろうに、れなはずっと頑張ってきたんだね。これまで以上に一緒にいたくなっちゃった」


 誰かに掛けて欲しかった言葉とともに、彼女から優しく頭を撫でられると心がじんわりと暖かくなっていくように感じて、鼻がつまったようになった。


「それでね、次からお泊りセットをお互いの家に作ろうよ。歯ブラシとか替えの下着とか、色々不便だなって思ってたんだ」

「なんだかちょっと同棲みたいな話だよね」

「ねえ、本当にしちゃうっていうのは……? あ、でも日向にも都合あるしすぐには無理だとは思ってるんだけどさ」

「今の仕事が落ち着いてくればかな。でもいずれは必ずしたいね」


 その会話の後、よほど疲れていたのか遠坂さんはすぐに眠りに入っていった。

 時刻は12時を回ったところだ。

 私達はどんな事があってもいつまでもお互いを好きでい続けるだろう。

 すうすうと寝息を立てる彼女の唇を指でなぞった後、何度もキスをする。


 たまにはこんな夜もいいものだ。そう思いながら、照明を落とし彼女の手をしっかりと握った。

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