精霊の森 "魔王国横断"編(9 / 12)

「さて、当然だけど騒がしくなってきたな──」


テツトに続き壁の消失した場所から中央都市へと足を踏み入れると、さっそく付近に居たと思われるモンスターや魔族たちが集まってきているところだった。

しかし、


「えぇっ!?」


テツトが黄金の剣を振るうや否や、集まった敵は瞬く間にバラバラに斬り刻まれた。

ポカン、と。

エリムは口を開けるしかない。

……いったい、なにが──


「エリムは俺といっしょに来い。シバとロジャは2人で組んでこの都市の敵の掃討を頼む」


「ひゃっいっ!」


唐突に呼ばれて声が裏返る。


「エリム? 大丈夫か?」


「は、はいっ! すみません、大丈夫です!」


なんとかそう応答をするが、しかし直後背筋が冷たくなる。

とっさに後ろを振り返ると、


「……」ジー


「……っ!?」


……ロ、ロジャさんに睨まれている……?


返事をしくじったからだろうか?

エリムは息を飲む。

ロジャはエリムと目が合うと、プイっと顔を背けて、


「……シショー、シショーはどうするの……?」


「俺はさっき言った通り、モグラとかいうヤツを倒す。エリムはモグラの顔が分かるっていうし……」


「……私も、シショーといっしょに……」


「ロジャ、スマンな。今回はいっしょに回るには時間が厳しい。また今度な」


「……」コクリ


ロジャは渋々といった風に頷くとシバへと飛び乗った。


「あ、そうだ。もし途中で人を見かけたら公爵家周辺に集まるように言っておいてくれ。俺はそこで戦っているだろうし、一箇所に集まってくれた方が守りやすいしな」


〔うん、わかったよっ! じゃあ行ってくるねっ!〕


そう言い残すやいなや、シバたちは風にさらわれるように姿を消した。


……まるで目に負えない、速すぎる。私、あの速度でここまで来たのかっ?


「さてエリム、俺たちも向かうとしよう」


「はっ……はいっ!」


公爵家への道のりは覚えている。

ここからだとまず、大通りを左折して──


「じゃあしっかりと掴まっておいてくれな」


「へっ?」


「口は閉じて。舌噛むし」


ガシリ、と。

エリムは脇を抱えられていた。

その直後、空を飛んだ。


「──っ!?!?!?」


唐突に高くなった視点に目が回る。


……え、なに? 私……どうしたっ!?


視点はフワリと高くなったかと思うと沈み、そしてまた高くなる。

それが飛んでいるのではなく、跳んでいることに気が付くのに10秒近くを要した。

トーン、トーンと。

建物の屋根を伝って、1回で20メートル近い跳躍をし、公爵家を目指して進んでいるのだ。

後ろを振り返れば、テツトが跳んだ軌跡をなぞるように光の粒子が後を残している。


……なんて超人的で、神秘的な。


私たちはあっという間に公爵家の手前までたどり着く。

町に足を踏み入れてから5分と経っていない。

テツトが公爵家手前の最後の家屋の屋根を踏みしめようとした、その時だった。


──ぐにゃり。


建物の外観が粘土細工のように歪む。

そしてテツトの足を完全に絡めとっていた。


「これは……なるほど。最後の家屋は"罠"か」


「罠……!?」


ハッと辺りを見渡せば、公爵家手前の家屋が軒並みその外観を崩してドロドロに変形していた。

これってまさか……!


「──ずいぶんと派手に暴れてくれるな」


地響きと共に、くぐもった声が辺りに響く。

その声の主を、エリムは知っていた。


「モグラ……!」


「いかにも。このオレが大将軍オロチ殿から小国を任されし【将軍モグラ】である」


その声は、下から。

公爵家の敷地、その大地が縦に割れる。

かと思えばその底から隆起する地面に乗って男が現れた。

モグラ──その顔は決して土竜もぐら顔というわけではない。

顔の下半分を大きく隠すマスクをした魔人だ。

6年前に見かけたものとなんら変わりない。


「さて、お前たちはオレを知っていたようだが、オレはお前らゴミ虫なぞ知らんな。いったいお前たちはなんだ? どこから湧いた?」


「……っ!」


「答えよ、弱者なる人間よ」


モグラが手を振るうと地面が揺れる。

それと共にせり上がって壁となり、そして前後左右から凍った津波のようにエリムらを囲んだ。


……モグラめ、侵入者がどこから来てもいいように備えていたのか! 私たちは完全に、その術中に嵌まってしまったのだ。


「テツト様っ……!」


思わず、エリムはテツトの服の袖を掴んでしまう。

テツトはそれをそっと外した。

そして顔色ひとつ変えず、


「エリム、アレがモグラで合ってるんだな?」


そう訊ねてくる。

エリムは何度も頷いた。

そんなことよりも、今はこの死地をどうするか考えなくては──


「──絶技、【つじ斬り】」


テツトはいつの間にか黄金の剣を抜いていた。

エリムがそれを視認したその直後、

バラバラと。

テツトを絡めとっていた罠、辺りを囲んでいた壁が斬り刻まれた。


「「へ?」」


間抜けた声が2つ。

エリムと、モグラのものだった。


「エリムはここで待っていてくれ」


降り立った先で、テツトはこれまで抱えるようにしていたエリムを放した。


「さて、やるか」


テツトは黄金の剣を地面に水平に構えると、隆起した地面に乗るモグラ目掛けて跳び上がった。

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