精霊の森 "魔王国横断"編(2 / 12)
──第一魔王国リュウノスミカ。
首都はリュウノスミカの南に位置している。
「やっぱ誰が
首都にある南の居城、その廊下を闊歩する大男が問いかけた。
隣の細身の【Ⅵ】という文字が右目の下に刻まれた女はそれに対して淡白に、
「魔界には暑いも寒いもありませんので」
「ああ、そう聞くなぁ。オレぁ行ったことがないから分からんが、つまらなそうな場所だぜ」
「……魔界に無駄はありませんので。この城のような趣向も、いっさい」
「ああ? オレの城が無駄だと言いたいんか、セクスタ」
セクスタと呼ばれた細身の女は辺りを見渡し……肩を竦めた。
城は木造だった。
屋根には瓦、壁には漆喰。
中庭には純白の玉砂利が敷き詰められ、無骨だがどこか
細部にこだわり抜いたのはこの城の主に他ならない。
「この国じゃあオレがルールだ。オレが美しいと思ったものが唯一の美の基準であり、オレが有用だと思うもの以外の全てが無駄だ。そこを分からねぇようならここで殺すぞ?」
「……私はここに戦いに来たわけではありません。それは私の"役割"ではありませんので。それよりも早く本題に入りたい」
「フン……【魔王教執行部隊】の御役目か。くっだらねぇ、自分の意思を持たず与えられた役割を果たすだけの一生なんぞ」
「それが魔王教ですので」
「侮辱されて怒りもしないのか。ハッ、たいそうな信仰だ」
「いま憤るのも私の"役割"ではありませんので……ただし、」
セクスタは大男を指さして、
「貴様の第一魔王国領主という立場という"役割"が無くなった瞬間にブチ殺してやりますよ、オロチ。魔界の中じゃ貴様なんぞ並だということを教えて差し上げましょうか?」
「ギャハハハッ、本性を表しやがったな女狐!」
リュウノスミカ領主の大男、オロチは豪快に笑う。
「この魔王国を大陸全土に広げた後にゃあ魔王教とやり合うってのも楽しいかもなぁッ!」
「……後半のは聞かなかったことにしておきましょう。まずはサッサと大陸全土を魔王国の国土とする、それを成し遂げてもらいたいものです」
セクスタは懐から禍々しい魔力の塊を取り出して、オロチへと渡す。
「んだこりゃ……
「それは最終兵器。周囲一帯の生命エネルギーを消し去り魔力の海へと沈める【
「……オイ、テメェ、」
オロチは殺気ほとばしる眼で、
「テメェ、俺の部下どもに自爆させる気でいやがるな?」
「……」
「
「……ほう、貴様のことは脳筋と聞いていましたが、案外頭が回るじゃないですか」
「フン……全部ヤツの差し金か。ヌルト元帥、あのクソッタレの魔王狂信者め。オレに首輪を付けられないからと陰湿なマネをしやがって」
オロチは鼻息荒く
そして、
「GAAAAAAH──!!!」
大きく開いたその口から、辺りに紫電を走らせる高圧力の光線が放たれた。
それは
「……アレを1つ作るのにどれだけの時間がかかるとお思いで?」
「知ったことか。あんなもんあるだけ"害"だ」
「こちらの魔族の多くはそう言いますね。こちらが人の棲める環境じゃなくなるがそんなに嫌ですか?」
「他のヤツは知らんが、俺には別の目的がある。生命エネルギーには俺たち魔族にとっても使い道があるのさ」
「ヌルト元帥が聞いたら卒倒しそうですね。……それで? あなた1人の力で本当に
「オレを誰だと思っている? 【最強の
「そうですか……まあ、精々足元を掬われないようにすることです。それではご武運を」
セクスタはそう言い残すと、靄が風によって吹き飛ばされるかのように立ち消えた。
「フン、足元を掬われるなんてのは自らの強さにあぐらをかいた連中の言い訳よ。俺は最強であり続けることに固執した逸脱者だぜ……?」
オロチは低く笑い、自ら手を入れて整えた中庭を眺める。
そこには僅かに精霊の残滓……光の粒子が舞っていた。
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