黄金の剣の名を決めよ
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ここまでのあらすじ
(更新が久々過ぎてごめんなさい)
第二魔王国チェスボードを人類の手に奪い返したテツトたち。
束の間の休息の日々で、デートしたり、ロリ脱却しようとしたり、帰郷したり、やっぱりデートしたりとゆっくりしていた。
そんな中で出会ったのは長いヒゲを蓄えた小男、【鍛冶の精霊】のカジ。
彼は精霊の森が魔王軍に攻められピンチであるとテツトに助けを求める。
もちろんと了承するテツトに、カジは融合しひとつの力を与えた。
それは未完成の剣を鍛える力だと説明し、カジはテツトに告げる。
「お前の持つ【黄金の剣】はまだ完成しておらん」
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剣を鍛えるとなればなるべく広い場所がいいだろうと、訪れたのはオグローム領主邸の中庭の中心だ。
「なあカジ、黄金の剣を鍛えるってどうやるんだ?」
俺は内なる心に語り掛ける……なんていうと中二病臭いけど。実際に語り掛ける相手、鍛冶の精霊カジが俺の内側にいるんだから仕方ない。
『テツト、イメージをするのだ。右手に持つ金槌のイメージを』
「……こうか?」
俺は何も持ってない右手に、金槌を持っているイメージをした。すると、
「おおっ? なんか光が……!?」
『いいぞ、そのままだ。後はワシが形をまとめる』
だんだんと右手の光は形を成し、そうして金槌へとその姿を変えた。それは白金に見紛うほどに透き通った輝きをした見事な金槌だった。
「おお……さすがはテツト神、後光が差して見えますぅ……!」
「むむむぅ~、なんだか私以外の精霊がテツトさんの中に入ってると思うとなんかこう胸が、なんかこう胸が! なのですよぉ……!」
後ろの方でギャラリーと化していたジャンヌは俺を拝み、一方でマヌゥはなにか対抗意識を燃やしているようだった。
「それでカジ、俺はこの金槌を黄金の剣に振るえばいいのか?」
『なぁ~にを言っとるか、1000年早いわ! そんな大事なこと素人に任せられるハズがなかろう。それはお前の腕を借りてワシがやることだ』
「……じゃあ俺は何をすればいいのさ」
『イメージだ。お前がこの黄金の剣に求める完成のイメージを固めてみせよ』
「またイメージか」
……そうは言われても困るんだがな。なんだろうイメージって。
「ヒントくれ」
『ヒントもなにもな……ワシが見るに、この黄金の剣には
「俺が、この剣に……?」
「そうだ。もっと切れ味がよくなってほしいとか、もっと格好のいい見た目になってほしいとか、あるいは剣ではなくハンマーになってほしいでも構わない。黄金の剣をもっと自分の求める形・性質に変換したいという、そういった願望のイメージを固めろと言っているのだ』
「……なるほど、そういうことか」
俺は黄金の剣を見て、考える。この剣と出会ったのは獣王国。ミーニャより授かり、それから約2カ月か。共に戦場をかけてきた、今や俺の相棒だ。
……そんな相棒に対し俺が求めることといえば、そうだな。
「俺はもっと、この剣と仲良くなりたいな」
『……はぁ?』
カジは不思議そうな声を出した。
『仲良く? いったい何を言っておる』
「変か? でも俺は本当にそう思ってるんだけど」
本心だ。カジに『この剣はまだ完成していない』と言われたときは何のことだと思ったけど、でも……確かにある意味で未完成だというのはあっていた。
「この剣はさ、なんだかまだ俺に心を開いてくれてない気がするんだよな。ただ俺が振るうままに従ってはくれるけど、それ以上の答えは返ってこない……そんな感覚がする」
『……テツト、お前にとっての剣はなんだというのだ?』
「なんだろうな。家族、友達、恋人……たぶんそういう分類上にはないんじゃないかな。よもやま話ができるわけでもなければ、意思の疎通もできない。でも普段から大切に扱いたいと思っているし、いざ戦いになったら俺はコイツに命を預けもする……剣ってなんなんだろうな。不思議じゃないか?」
『……ふむ。そこまで深くワシは考えたことがなかったが……確かに、一考に値する不思議な関係性ではあるな』
「うん。だからこそさ、そんな関係を1歩縮めて、仲良くなれたらきっとそれは素晴らしいことなんじゃないかって思ったんだ」
『……わかった。良いだろう。仲良く、か。そんなイメージを元に剣を鍛えるなど初めてのことではあるが、』
金槌を持つ俺の右腕が勝手に上へと上がった。
『イメージしろ、テツト。黄金の剣の心を開くイメージをだ』
「ああ、わかった。ありがとうな」
左手に持つ黄金の剣。俺はそれに意識を集中させる。
……なあ、俺と少し話をしないか。
金槌が振り下ろされる。キィン! と高い音を響かせた。
……俺はテツト。分かるだろ? 戦場で2カ月も俺という人間を見せてきたもんな。だから、今度はお前のことが知りたいんだ。
金槌が振り下ろされる。キィン! と辺りに反発音。
……やっぱりまだ心を開く気にはなれないのかな。でも、やっぱり少しでもその距離を縮めたい。どうか呼びかけてに応えてほしい……って、もしかして俺の心の声には気付いてないか?
金槌が振り下ろされる。キィン! とやはり音色は変わらない。いったいどうすれば……と考えて、ハッとする。
……そっか。そういえば俺、お前に名前をあげていなかった。俺がお前を呼ぶ名前も呼ばれる名前もなかったのか。
「そりゃ、分からないよな。本当に遅くなってごめん。今からでも遅くないのなら俺にチャンスをくれ」
金槌が振り上げられつつ、俺はこれしかないという名前を思いつく。
「コガネだ。お前の名前はこれからコガネ。改めてよろしく頼むよ、相棒」
──コォォォンッ!
石つぶを投げ込まれた湖面のように、音の波紋が広がった。その直後、
「っ!?」
ガタガタガタと、俺の左手に持つ黄金の剣──コガネが暴れ出す。
『変化だっ! 変化が起こったぞ!』
「変化っ!? なんだそれ!」
『お前の望みに応えようとして、剣が自らの変革をうながしておる。もしかすれば、こんなことはワシも初めてだが、これは剣の自我の目覚めなのかもしれん!』
「俺はどうすればいいっ?」
『絶対に手放すな。今お前の手に握られているのはお前の願いなのだから』
「!」
黄金の剣はなおも暴れる。このままじゃ、数秒もしないで剣はすっ飛んでいってしまう!
「──マヌゥっ! 力を貸してくれっ!」
「はっ、はいぃっ!」
俺の声を聴くや否や、マヌゥは地面に沼を作って俺の隣に瞬間移動をしてくる。
「私は何をすれば、」
「簡易・精霊融合だっ!」
「……! ま、まっかせてくださいなのですぅっ! 格の違いを見せつけてやるのですぅっ!」
マヌゥはきらきらとした眼差しで応じてくれる。なんだ、もしかしてオッサン精霊に嫉妬でもしているのだろうか、と思っている間に。
「……ぷちゅっ」
マヌゥの柔らかな唇が俺の唇へと触れた。
「ん……ちゅぱっ、れろ……」
精霊融合に必要なのは体液の譲渡。そして契約内容の確認と互いの了承だ。体液の譲渡は今済んで、そして契約内容の確認は──省く。いや、省ける。俺とマヌゥの関係ならば。
……すでに俺とマヌゥは契約など比べるべくもない【信頼】で互いを深く受け入れているからだ。
精霊融合、完了っ!
「ぅぉぉぉおおお──ッ!」
ピタリ、と。コガネの暴走が止まる。実際のところは止まってなどいない。しかし、マヌゥの生命エネルギーによって強化された俺の腕が、圧倒的膂力を持ってしてその動きを止めたのだ。
『……よしっ、お前の黄金の剣……いやコガネが鍛え終わったぞ』
「本当かっ?」
恐る恐る俺はコガネを放してみる……確かに、もう暴れたりはしないみたいだ。
「コガネ? 聞こえるか……?」
『休んでいるところだろう、そっとしておいてやれ……とは言っても、本当に剣にお前と仲良くなる自我か意思が目覚めるなんていうのは、ワシには想像できんがなぁ』
「そっか……」
俺はコガネを、なんとなしにゆっくりと鞘へと戻した。休んでいるのであれば、安らかに。
『テツトさんっ、やっぱり融合するなら私がいいと思うのですよねっ? ねぇっ?』
『なんじゃこの原初。狭いから早く出て行ってほしいのだが』
『がるるぅー! テツトさんの中は私の特等席なのですよぉっ! 出ていくのはあなたなのですぅ!』
『ワシはもう契約したからそれが切れるまでは出れんのだ。諦めろ原初』
『ふぬぬぅぅぅっ! この居候になんとか言ってやってほしいのですよぉ、テツトさぁんっ!』
「う、うるさいな……」
俺の心の中でケンカをする2人に、さすがに頭がくらくらしてくる。
……どうか俺の心にも安らぎあれ。
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更新を待ってくださっている読者のみなさま、お久しぶりです。
今回もお読みいただきありがとうございます。
現在はまだカクヨムコンテスト(2/8まで)にかかりきりで、こちらの作品を更新できないでおります。
改めまして申し訳ございません。
3月中には前回までの、そして今回の話に続く新しい章を更新できるようにして近況ノートで報告できればと思っておりますのでご承知おきください。
それでは、次回のお話もよろしくお願いいたします。
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