マヌゥと剣( 2 / 2 )

「それで、マヌゥはどうして剣を模倣しようとしてたんだ?」


「ええとですねぇ……」


武器屋を後にして、俺とマヌゥはオグロームの市場を歩いていた。俺が訊くと、隣のマヌゥは少し頬を赤らめた。


「テツトさんに、褒めてもらいたくってぇ……」


「え、俺に?」


「はいぃ。色んな種類の剣を作り出せたら、もっとテツトさんの役に立てるかなって思ったのですぅ」


「そっか。俺が剣が好きだから、か」


俺はマヌゥの頭に手を載せる。


「ありがとな、俺のために。めちゃくちゃすごいよ。本物瓜二つの物を創り出せるんだから」


「え、えへへぇ」


ひいき目無しでも凄まじいことだ。5年前までは剣を創り出そうとして沼から出てきたのは大きな鉄くずだった。そこから剣を観察するだけでその完全な模倣を創り出せるまでになるなんてさすがは精霊……いや、さすがマヌゥだ。


「がんばってくれてるマヌゥに何かお礼をしたいところだけど、何がいいかな? アクセサリーとか興味あるか?」


「そ、そんなっ! お礼だなんてぇ……嬉しいのですけど、でもぉ……」


「遠慮するなって」


「剣を創るのはもう私の趣味みたいなところもありますからぁ」


俺は何だかんだと遠慮するマヌゥをなんとか押し切って欲しい物を聞き出す。マヌゥはモジモジとしつつ、


「で、ではぁ……短剣の実物が欲しいのですぅ」


とのことだった。


「短剣は長剣と違って刀身が半分以上短くなりますがぁ、かといって握る柄が大きく縮むことはありません。いちから生み出そうとするとそのバランス調整が難しくってぇ……」


「模倣のレベルにするには実物が常に近くにあった方がいいってことか」


「はいぃ」


それは結局、巡り巡ってまた俺のためにもなってしまうような気がしたけど……でもマヌゥが望むものだし、ということで俺たちはふたり、市場で短剣を探すことにした。


「この短剣はどうだ? 魔剣っぽいけど」


「性能は良さそうですがぁ……ちょっとゴテゴテし過ぎていて応用が効かなそうなのですぅ」


「こっちはどうだろう? シンプルながら迫力のあるデザインだけど」


「えぇと……確かに見た目は良いですが、あまり性能は良さそうではないですねぇ」


「マジか。値段はそこそこするみたいだけど……」


店員に聞いてみる。すると俺の選んだその剣は80年前に活躍した冒険者の剣士が実際に使っていたという剣の模造品レプリカらしい。それでもそこそこの性能はあるみたいだけれど、どちらかといえば好事家向けの商品だとのこと。


「すごいな、マヌゥ。何の説明もなしに見抜くなんて」


「えへへぇ、それほどでもなのですぅ」


剣を創り出す側になったマヌゥの目は相当に肥えているらしい。正直、剣選びという点についてならもう10年以上も剣士をやってきていた俺よりも上なのだろう。


「じゃあマヌゥ、この店で一番良さそうな短剣ってどれなんだ?」


「そうですねぇ、このお店だとぉ……」


マヌゥはキョロキョロとあたりを見渡して、それから床のシートの上に並べてあるうちのひとつに視点を止めると、手を伸ばした。


「あっ、私としてはこれが──」




「──これが一番だな」




ヒョイッと。被せられるように発せられたその言葉と共に、短剣はマヌゥが手を触れる前に横からかっ攫われた。


「ふむ。柄が古く刀身の手入れもされていないようだが、これの鍛冶師はなかなかの腕前とみえる」


短剣をしげしげと眺めていたのは長いヒゲを蓄えた男だった。体躯は小さく幼児ほど。しかしそれにしては不釣り合いなほどに太く筋肉の張った腕と、岩のようにガッチリとした肉体がただ者ではない雰囲気を醸している。そして何より、その体からは僅かではあるが、マヌゥと同じ光の粒子が発せられていた。


「あんたは……?」


「ワシは鍛冶の精霊だ。とびきり強い剣士を頼って来てみたのだが……まさかこんなところで【原初】に巡り会えるとはな」


自らを精霊と名乗った男、その視線の先にいたのはマヌゥだった。

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