マヌゥと剣( 1 / 2 )
帝国北端の町であり、表向きは俺が領主を務める町オグローム。この町で一番出店が多い店の種類とは何か。宿屋ではなく、飯屋でもなく……それは武器・装備店だ。
国境沿いの土地であるという理由に加え、一度は魔王軍に奪われたという町だけあって帝国軍兵士たちが多く配備されているので、需要が他の町に比べて著しく高いのである。
最新の武器・装備、名工が腕を振るった傑作、定番のシリーズなどなど何でもござれ。今では上位冒険者たち
「さて、なんか新しい武器でも置いてないかな~」
平日の昼、オグロームへと帰ってきた俺は屋敷へ戻る前に武器屋や装備屋の並ぶ市場を見ていくことにした。シバはお昼寝がしたいと先に帰っているので、今の俺は久しぶりにひとりきり。そんな時間を楽しむのもたまにはいいだろう。
「最近はそんな時間も滅多になかったしな」
おかげさまで近頃で一新した装備といえば剣くらいのものだ。とはいってもそれは貰い物。今も俺の背に掛けられている獣王国から贈り物である黄金の剣だ。かつてこの世界に存在したという金の精霊がこしらえた、魔の物に対しての威力が倍加する黄金の刀身を持つ剣である。
もちろん、それはこれ以上は無いというくらいの業物であるし、使用するのに不足はない。新しく他の剣に買い替える気なんて毛頭ないけれど……それでも、武器屋巡りは止められない。
……剣士になって実際に剣を振るうと、どうしても他の剣のデザインとか持ち心地とかも気になっちゃうものなんだよなぁ。なんだか、前世の世界でゴルフに興じるリッチなオジサマたちが同じ種類のゴルフクラブをいくつも持ちたがる理由も今なら分かるような気がするよ。
「さて、ここはどんな武器が置いてるか……」
いろいろ武器屋をハシゴして、今度は最近また新しく出店してきた武器屋へと入ってみる。やはりここもまたズラリと剣や鎧が置いていて、非番であろう兵士たちの姿もチラホラと。そんな中にひとり、
「──う~ん、これでしょうかぁ。それともこっち……?」
店の中でひと際異彩を放つスタイル抜群の美人。キラキラと輝く粒子のようなものを辺りに散りばめながらしゃがみ込み、床に整然と並べられた剣を見比べているのはマヌゥだった。
「マヌゥ? どうしてこんなところに?」
「わぁっ? テツトさんっ?」
マヌゥはこちらを振り返ったかと思えば、大きな目を丸くする。
「シバさんとふたりで出かけていたのではなかったですかぁ?」
「うん。今朝帰ってきたとこ。屋敷に戻る前に少しブラっとしようと思ってさ」
「そうでしたかぁ。おかえりなさいなのですぅ」
マヌゥは立ち上がると、満面の笑みで俺のすぐ隣までやってくる。
「テツトさん、このお店は仕入れをゾロイメイコの町でしているそうでぇ、とっても珍しい武器が多いみたいですよぉ」
「へぇ……というか、ところでマヌゥは武器屋で何をしているんだ?」
「もちろん、眺めているのですよぉ。ちゃーんと模倣ができるように」
「模倣?」
「はいぃ」
頷くやいなや、マヌゥの立っている床が僅かにトプリと波打った。沼と化した地面、そこから現れたのは先ほどマヌゥが眺めている中にあった宝飾付きの剣だった。
「どうでしょうかぁ? 上手くできていると思いますかぁ?」
「す、すごいな……あそこに置いてるのと瓜二つだよ」
「えへへぇ、よかったのですぅ!」
マヌゥはニヘ~っと幼さの差す表情で微笑んだ。
……しかし本当に似ている。というか、見る限りにおいて売り場にあるものと見た目も性能もまったく同じように感じる。マヌゥが沼から剣を生み出せることは知っていたけど、まさかこんな風に他の剣をマネて作り出せるとは。
「──ちょ、ちょっとちょっとお客さぁん! 売り物を勝手に持たれちゃ困りますよ!」
そこに、焦った店の従業員と思しき男が割って入ってきた。
「それに抜き身の剣なんですから危ないったら。さあお嬢さん、お渡しなさい」
「え、えぇっ?」
「ホラ早く。ケガする前に!」
従業員の男はマヌゥの手からサッと剣を取り上げてしまう。
「次から剣を手に取ってジックリ見たい時は私にお声がけしてくださいね」
「あっ、あのぅ、それはですねぇ……」
マヌゥがわたわたと慌てて弁明しようとするも、従業員はそそくさと職務へ戻ってしまう。
「まあいろいろと説明するのも面倒だし、いいんじゃないか?」
「あ、あうぅ」
マヌゥは俺と従業員を交互に見つつ、目を回す。
「い、良いのでしょうか? 私が勝手に創り出しちゃったものなのにぃ……」
「1本プレゼント、ってことで」
「あぅ……」
「これ以上面倒なことになる前に店を出ようか」
俺たちが店を後にする直前、さっきの従業員の『あれぇっ!? この剣もうあるじゃん! なんでぇっ!?』という声が後ろの方で響いていた。
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