シバと帰郷( 2 / 3 )
俺たちは町はずれにある拠点の小屋へと向かう。すっかり埃を被ってしまっていた家財を処分したり、まだ使えそうな物に関しては町の住民に譲ったりした。町へ着いてから数時間が経ち、辺りはすでに暗くなってしまっている。
……しまったな。先に冒険者組合に顔を出しておくんだった。
とりあえず俺たちは宿を取り、翌朝に受付嬢のサラサへ会いに行くことに決めた。
「お待ちしておりましたテツトさん!」
翌日、冒険者組合に顔を出すやいなや、サラサが元気よく俺を出迎えた。まるで俺が来るのを前もって知っていたかのように。
「町の方たちから聞きましたから。テツトさんとシバさんが来てるって。だからここにもきっと立ち寄ってくれるだろうと思っていたんです」
「なるほど」
サラサは事前に取っておいたのであろう来客用の部屋に俺とシバを通すと、それから明らかにもてなし用の高級そうなお茶を出し、ニコニコ顔で俺の対面に腰かけた。
「いやぁ、それにしてもおめでたいことですねぇ」
「はい? おめでたい?」
「え? シバさんとのご結婚のご報告に来てくれたのでしょう?」
「……はいっ?」
俺が素っ頓狂な声を上げるとサラサは目を丸くする。
「違うんですか? 町中その話題で持ち切りですけど」
「いや、単純に身辺整理に来ただけというか……なんでそんな話に?」
「だって……」
サラサが部屋の外へと視線を向けると、ばんっとドアを開けて男たちが顔を覗かせた。
「テツトさんっ、アンタがシバさんとふたりで帰ってきて家財の処分をしてるもんだから、俺たちゃてっきりっ!」
「長いこと女日照りに苦しんだテツトさんに奥方ができるもんだとばかり!」
「町を挙げて祝わなきゃと思っちまって話して回っちまった!」
そこにいた男たちはこの町の冒険者たちであり、俺の後輩たちだった。
「そんなとこで何してるんだ、お前ら」
「サプライズで驚かせようと……」
見れば彼らの身なりは整っており、なんなら花束まで用意しており、本気で俺とシバの結婚を信じていたようだ。
「俺たちゃここで結婚のご報告が聞けるやいなや、この部屋に突入して踊って祝う準備もしてたんです。斬新でしょう?」
「フラッシュモブかよ」
「ふらっしゅ……?」
思わず前世知識でツッコんでしまった。
「まあとにかくそういう話ではなくて、俺はサラサさんにお礼にしにきただけです」
「お礼?」
俺はジャンヌがこの町に訪れたとき、俺宛てに手紙を出してくれて助かったことを伝える。すると思い出したかのようにサラサは手を打った。
「ああ、あの件ですね。ぜんぜん気にしてくださらなくていいのに。それにもうお礼の返事はいただいていたと思いますけど」
「確かに手紙では出しましたけど、何か依頼関係とかで困っていることがあったら手伝ってからオグロームへ戻ろうかな、と」
「あら、本当ですか? ではご厚意に甘える形で申し訳ございませんが……今少し、近辺で厄介な問題が起こっていまして」
そう言ってサラサはどこからか依頼の資料を取り出した。
……ああ、なるほど。たぶん昨日の内に俺がこの町に戻ってきているという話は掴んでいて、あわよくば依頼をこなしてくれないかと考えていたのだろう。何だかんだ言って抜け目の無い人だな。
まあもちろん受けるけど。
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