シバと帰郷( 1 / 3 )

「うわぁ~、懐かしいね~!」


「そうだな……って言っても、3カ月くらいしか経ってないんだけどさ」


感嘆の声を上げるシバの手を引いて、俺はその町──俺がこの世界へと転生してきて一番最初に足を踏み入れた【故郷】とも呼べる町へと帰ってきていた。この町は、俺とシバが10年越しに再会して初めて訪れた町でもある。


「そっかぁ、あれからまだ3カ月だったんだ……なんだかご主人とはもっといっぱい過ごしてると思っちゃってたよ」


「まあ、濃い日々だったから」


本当に怒涛の日々だった。数々の少女たちと再会し、数多の強力な敵たちと刃を交え……気が付けばいつの間にか俺は帝国の辺境伯にまで上り詰めていたしな。


「ふたりだけっていうのも久しぶりだよね~」


「確かにそうだな。みんなと出会ってからはどこへ行くにも基本的には団体行動だったし」


しかし今日はシバの言う通り違う。俺の個人的な所用だったというこということもあり、付き合ってもらうのはシバだけにしたのだ。


「ねぇご主人、今日はこの町まで何をしに来たの?」


「前にジャンヌについての封書を送ってくれた受付嬢のサラサさんって居ただろ? その時のお礼がちゃんとできてなかったから挨拶と……あとは小屋の引き払いかな」


「小屋の引き払い?」


「ああ。俺の拠点としてた小屋があったろ? そこを売っちゃおうと思ってな」


首を傾げるシバの頭をヨシヨシと撫でつつ、俺は答える。


「この町も前よりずっと活気づいているみたいだし、なかなか帰ってこない俺が持っておくよりも使いたい人に使ってもらった方がいいだろうから」


「え~? そうなんだ……でも、あの場所が無くなるっていうのは、なんだかちょっと寂しいね……」


シバはキュゥンと鼻を鳴らして寂しそうにする。そういえばシバと掃除をしたこともあったっけな。そう考えるとやはり惜しい気もする。だけど、


「シバ、思い出の場所は大事だよな。分かるよ。でも1番大切なのは俺たちがこれからもずっといっしょに居ることだ。ずっといっしょに居られれば、思い出も消えない。だろ?」


「うん。そうだね」


シバはひとつ頷いて、それから俺の腕にギュっとしがみついてきた。


「ずっと、いっしょに居ようね」


シバは笑顔だったけど、でもその裏には少し物憂げな感情が透けて見えた。


……分かるよ、シバが何を考えてしまったのか。


『ずっといっしょに』


それがどれだけ難しいことか、俺たちはみんな知っていて、でも無意識になるべく考えないようにしている。でもときおり会話の中で、こうやって頭をよぎる時があるのだ。




──寿命。それが唯一、俺が人間のままでいたら越えられない壁であり、俺と他のみんなを区分する大きな溝だった。




シバはフェンリルで人間や他の生物よりも遥かに長命だ。そしてエルフであるジャンヌ、精霊であるマヌゥ、キョンシーであるメイスもまた然り。


このままでは俺は、先にこの世を発つことになる。


……俺のことを、何よりも好いてくれている彼女たちを置いて。


それは何だか、とても嫌だ。


「しっかりと考えないとな」


「ご主人? なにを?」


「ん、いや……」


シバからの問いに、今は答えるわけにはいかなかった。


……俺はできることなら【不死】あるいは【不老長寿】を手に入れたい。そうして、無限にも近い時の中でシバたちと過ごしていたい。そう思っている。


でも、身近な人、特にチームメンバーへの相談は今は避けたい。余計な気持たせをすることになるかもしれないし、もうちょっとその方法論が確立してから明かす。


……それに【不死】あるいは【不老長寿】についてのことなら、詳しい人物に心当たりはあるからな。クロガネイバラのネオンとか。


だから、今は。


「早いとこ、魔王軍を潰さないとなって思ってさ。どうすればヤツらを止められるのか考えないと」


「そっか。そうだね! アイツらのせいでボクたち何かと忙しいもんね~」


「ああ。平穏な生活はヤツらに人類への侵攻を止めさせてからじゃないと望めない」


まずは目先のことを片付けるのが先決。俺は、俺がモテて愛されるこの世界を死守しなければならない。魔王の打倒、それは俺のこの世界への転生の条件であり、そして俺がこの世界で幸せで穏やかに過ごすための絶対条件なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る