ジャンヌと初デート(2 / 3)
そうだったそうだった……思い出した。俺は前世、非モテだったんだっけ。
「テツト様とデート……! 嬉しいっ! 私、今日死んでも未練はありませんっ!」
俺の左手に超密着で抱き着いてくるジャンヌと共に歩きながら、俺は冷や汗をかくと共に過去を振り返っていた。
……そう、俺は非モテ……いや、【元】非モテだ。さすがに「今も非モテです」なんて言ったら元の世界の男共に張り倒されるだろう。
美少女ぞろいのイッキトウセンのジャンヌたちメンバーに、これでもかと愛情を注いでもらって俺はようやくモテの花を咲かすことができているのだから。
とはいえ、俺はモテ始めてまだ間もない。俗にいう【モテ初心者】なのだ。非モテ期間の方が圧倒的に長く、モテ男としての経験は浅く、モテる男がいかにしてモテるのかなどのロジックはまるで理解していない。いわばモテ男レベル1。ゆえに、
「ではテツト様? ランチはどこへ参りましょう?」
「う、うん……」
──女性とのデートの際、ランチはどこへ行くのがベストなんだ……!?
友達以上恋人未満の甘酸っぱい距離感や度重ねる逢瀬、ドキドキの告白イベントなどなど。そういったものをことごとくかっ飛ばしてベッドインまで行っている俺には女性とふたりきりでのデートに関する知識があるはずもなかった。
「どこ……どこがいいかな……」
キョロキョロと、若干テンパりながら辺りを見渡す。オグロームには逗留する兵士や商人たちが楽しめるようにと、すでにそれなりの数の飲食店が戻ってきており、ランチ候補はいくつかあった。
「……おっ」
これは! と思う立て看板を見つけた。そこには色とりどりの
【
……じゅるりっ。おお、なんとも美味そうじゃないか……!
ホカホカのライスの上にドッカリと乗った味付け肉とニンニク、そこから染み出した肉の旨みがライスを金色に染め上げているそのイラストは、腹ペコの俺の胃をキュルッと締め上げてくる……。
「なあっ、ジャンヌ、ここに──」
言いかけて、俺はハッと我に帰る。
……デートでランチにここを選ぶのは、あまりにもナンセンスなのでは……?
そうだ、ここはしかもゆっくりとくつろげそうな店じゃない。黙々と出されたものを食べて、食べ終わったら早々に帰る客層をターゲットにしている系のお店だ。
……あっぶねぇ。危うく食欲に負けてデートを失敗に終わらせるところだった。
それにひとりでくるならまだしも、女の子はこんな脂ギトギトのニンニクがガツンと効いた丼物はやめておきたいと思うものだろうし(前世ラブコメマンガ知識並感)。
「テツトさん? どうかしましたか? 先ほど何かを言いかけてらっしゃいましたが……」
「い、いや、なんでもないよ……!」
ひとまず最悪な初デートプランは回避できた……とはいえ、これからどこへ行こう……?
「あっ」
そこで俺は思い出した。
そういえばこの前、オグロームに帰還した日の夜。俺はヴルバトラと夜の所用(精力供給だ)でこの町を歩いたのだ。その際、ラヴなホテルにしけ込む前に、オシャレなレストランでディナーをしたんだった。
……そこがもし、ランチもやっているのなら!
「ジャンヌ、ランチの場所にアテがあるから、ちょっとそこに行ってみていいか?」
「はい、もちろんですっ!」
そんなわけで俺はジャンヌを連れて町の通りを歩く。この前はヴルバトラの後ろをついて歩いていたからあまり道順を覚えておらず、何度か曲がるべき道を通り過ぎたりしてしまう。
「あれ? こっちは違うか? あっちの道だったっけ……?」
「テツト様、急がずとも大丈夫ですよ」
「そ、そうだな。すまん」
とはいえ、あまりのグダグダっぷりに気は急いでしまう。再度気を引き締めてしっかりと道を思い出し、そしてとうとう、何とか目的の店までは辿り着くことができた。
「……ごめんな? たくさん歩かせちゃって……」
「いえいえ、そんなことは。それにしてもオシャレなレストランですね」
「ああ、そうだよな。食事もすごく美味しかったんだよ。確か……【フェデラー産アニョー? のじっくりローストがホタテのソースとなんちゃらかんちゃら仕立て】みたいなやつ」
「料理もオシャレな名前なんですね」
「うん。シャレ過ぎてて、実は俺もあまり覚えてないんだけどさ……」
料理名をがんばって思い出しつつ、レストランの扉を開く。すると、身なりの綺麗なウェイターが出迎えてくれる。
「ようこそお越しくださいました。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「えっと……名前?」
「はい、ご予約の確認をさせていただきますので」
「え゛っ」
……もしかしてこのレストラン……予約が必要なところだったのか……!?
そういえば、と思い出す。この前ヴルバトラと来た時は確か、ヴルバトラが自分の名前をウェイターへ告げて席に案内してもらっていたっけ……。
「あの、お客様?」
「あっ、はい。その……予約はしてないです……」
「あ……そ、そうでしたか。申し訳ございませんが、当店はその、予約制となっておりまして……」
「な、なるほど……」
……めっちゃくちゃ恥ずかしい。
顔に血が上るのが分かる。そして気まずい。ウェイターもまた気まずげに苦笑いをし、遠回しに俺たちへと退店を促そうとして、しかし。
「──ああっ、もしやテツト様でいらっしゃいますかっ!?」
店内の奥から顔を覗かせた男がそう声を上げた。俺のことを知ってるみたいだけど、誰だろうと記憶を漁る。
「……あっ!」
……そうだ、その人は確か、前回ヴルバトラといっしょに店に来た時に俺たちのテーブルに付いて接客をしてくれた男性だった。
「またご来店いただいたのですねっ? ありがとうございます!」
その男はニコニコ顔で俺たちの前までやってくる。とはいえ、
「すみません、実は今日は席を予約していなくて……」
「ああっ、そうだったんですね。全然いいんですよぉ、予約なんてそんなのは!」
「えっ?」
その男はレストランの受付(?)のような場所まで歩いていくと、ノートを取り出して眺めると、
「ああやっぱり。今日はVIP席が空いておりますから。そちらにご案内いたします」
「えっ……いいんですか?」
「もちろんですよっ!」
俺とその男性の会話に、ウェイターはあぜんとした様子で、
「えっ、オーナー? そこはもしかしたらいま帝都にご逗留されている他国のご訪問者が気まぐれにいらっしゃるかもしれないから空けておこうと言ってた席……」
「ちょ、おま──バッカ! ちょっとこっち来いっ!」
どうやらその男はこのレストランのオーナーだったらしい。彼はウェイターの男の肩を掴んで寄せると耳打ちをし始めた。ときおりそのヒソヒソ話から「知らんのか、あの方はこの町を奪還してくれた英雄で」だとか、「この街一番のVIPだと頭に刻んでおけ」だとか漏れ聞こえてくる。
「──さっ、先ほどは大変失礼いたしましたァっ! オグローム領主テツト辺境伯様ぁっ!」
オーナーの耳打ちから解放された男性ウェイターの対応があからさまに変わる。めちゃくちゃ姿勢よく、動きがカチコチになっていた。
「あの、予約なしで来た俺が100%悪いので、そうかしこまらずに……」
「いえ、当方の配慮がなっておりませんでしたっ! 申し訳ございませんっ!!!」
「……こちらこそ」
……なんだかすごく申し訳ない気分だ。本当にすみません。
俺は心に誓う。ご迷惑をおかけした分チップはたくさんお支払いしますので、と。
とりあえず、俺たちはなんとかレストランに入ることができたのだった。
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