ジャンヌと初デート(1 / 3)
※前回の閑話の3週間前、ネオン復活前のお話です
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俺が魔王軍幹部モーフィーを倒し、南東と南西の戦線が落ち着きを取り戻して3日が経った。いま、俺たちイッキトウセンのメンバーはみんな帝国最北端の街オグロームへと帰還して久々にゆっくりとしている。
なんでもこれから帝国はモーフィーが不在となった第二魔王国チェスボードへ攻め入るための攻勢計画を立てている段階らしく、軍は忙しくしているがそこに俺の出番はない。
……そんなわけで。
「平日の午前中から喫茶店で飲む紅茶のなんと美味いことよ……」
「まったくですねぇ……美味しい……」
俺の正面には俺と同じくほっこりと表情を緩ませたジャンヌ。他の面々はそれぞれの用事があったり、昼まで寝たり、思い思いに時間を使っているようだ。
「テツト神とふたりきりの時を過ごせるとは、本当になんて美味しい
「紅茶じゃなくてそっちの美味しいかよ。あと俺は神じゃないから」
「今日の経験を後で聖書に書き込まなくては……『第4章14節 神はダージリンがお好き……あと女性給仕の制服に興味アリ……夜に着てみる価値あり、っと』」
「書くな書くな……っていうかそれただのメモになってないっ!?」
「そんなことはございませんとも。全ては我が主、テツト様を想うことであふれ出す聖なる言葉なのです」
両手の指を組んで俺に祈りを捧げるジャンヌに、毎度のごとくツッコミを入れておく。ジャンヌに慕われるのは心地良いことでもあるが、しかし勝手に神格化されて宗教でも作られたらたまったもんじゃない。
……とまあ、そんなやりとりもいつものこと。慣れっこだ。
「さて、ジャンヌ。まずはシバといっしょに帝国各地での浄化作業お疲れさま」
「いえ、その程度のこと」
「いやいや。ジャンヌたちのおかげで瘴気が薄くなったって報告があったらしいよ。モンスターの出現頻度も下がったし、農作物も元気を取り戻したんだとか。さっきヴルバトラからの遣いが来て教えてくれた」
「テツト様のご期待に応えられたのであれば幸いでした」
「ああ、すごい活躍だな。ジャンヌたちに任せてよかった。本当にありがとう」
「ふふっ」
ジャンヌはわずかに頬を染めて微笑むと、それから紅茶をひと口飲んだ。
「それでテツト様、休日に申し訳ないのですが……」
「ああ、そうだな。その作業中になんだかおかしな出来事があったとか」
今日ふたりで外に出てきたのは気分転換のためだけではない。むしろ主な目的は報告を受けるためだった。
……なんでも、ジャンヌが浄化作業中に目撃した不思議な現象──それについて、俺に手がかりがあるのではないかと考えているらしい。
「確か、幻影の女の子……だっけ?」
「はい。浄化作業中に一度、目撃したのです。それがもしかしたら以前テツト様がメイスさんを救う際に出会ったという少女と同一人物ではないか、と思いまして」
「あの子か……!」
メイスを取り込もうとした呪術神、そいつを倒した後にわずかに開けた白い世界で……俺は少女に出会ったのだ。
「私の遭遇したその少女は美しい白銀の髪に、山羊のような黒い角を持ち……」
「……敵意はなく、その瞳は紅かったか?」
「! はい。ということは……」
「ああ、ほぼ間違いないだろう」
俺は確信と共に頷いた。
「そんな特徴的な子が何人もいるとは思えないし、普段から行動を共にしている俺とジャンヌたちの前に現れたんだ。きっと偶然じゃない」
「私たちに、何かメッセージでもあったのでしょうか……?」
「分からない……だけど、何か意味はあったはずだ。それで、その女の子はジャンヌたちの前に現れて何をしたんだ?」
「彼女は瘴気の原因となっていた魔力の塊の元を指差してくれたんです」
「
「いえ……いや、もしかしたらそうだったのでしょうか? しかし、
「異様な瘴気……」
「はい。まるで魔力の中でも最も悪意に満ちたものだけを集めて固めたかのような……今にも破裂しそうな、そんな危うい代物です。なので持ち帰ることもできず、その場で全て浄化してしまいました」
「破裂……もしかして、それが【ボム】なのか……?」
「ボム? テツト様、ボムとは……?」
ボム──それはモーフィーが死に際に俺へと残していった言葉の中にあったものだ。モーフィーは確か『ボムに気をつけろ、ここを死の世界にしたくなければ』と、そんなことを言っていた気がする。
「……つまり、魔王軍の新しい兵器、ということでしょうか」
俺の説明に、ジャンヌはアゴに手をやって考える。
「なぜ帝国内にそんなものが……それに、なぜ少女は私たちにその場所を……?」
「俺たちの味方、ってことかもな?」
「彼女の見た目は私たちエルフのような亜人種にも見えましたが、しかし魔族にも見えました。簡単に判断するのは危険です」
「まあそうだけどな」
……でもなぜだか、彼女が敵って感じはしないんだよな。不思議と。
「まあ、なんにせよ情報が足りないな。いま深く考えすぎてもきっと泥沼だ」
「……そうですね」
俺たちはそこで話を切り上げると、喫茶店を後にすることにした。
「まだ午前か。この後はどうしようかな……ジャンヌは何か予定ある?」
「いえ、私は特に」
「じゃあどこかでお昼ごはんでも食べようか。お腹空いてるだろ? 今日はジャンヌから内々での話を聞くためとはいえ、朝ごはんもそこそこに宿を出てきたからな」
「えっ……」
ジャンヌがポカンと口を開けた。
「テ、テツト様と、ふたりでランチ……?」
「えっ、嫌?」
「まっ、まままさかっ! そんなワケないですぅっ!」
ジャンヌは食い気味に俺に詰め寄って、両手で俺の手を握りしめる。
「つまりそれは、俗世でよく聞く【デート】というモノですねっ!?」
「えっ、いやただご飯に──」
「──嬉しいですっ! テツト様とふたりきりでデート……! それもまさかテツト様から誘っていただけるなんてっ!」
「あ、その……」
「テツト様のことだからきっと休日は鍛錬か武器屋を巡って過ごされるのかと思っていましたから、ちょっと寂しいなと思っていたのですが……うふふっ、なんだかとても良い1日になりそうですっ」
「……そ、そうだね」
ぺかーっ! とヒマワリのごとく喜びを体現するジャンヌに、いまさらランチするだけのつもりだったとは口に出せない。こうなったらデートするしかないようだ。
「デートっ、デートっ、テツト様とデート~♪」
「わかったわかった。ちょっと落ち着けって……」
デート、ね。まあでもきっと良い息抜きになるし、ジャンヌが喜んでくれるなら全然いいか。
……しかし、それにしてもデートか。
デート。
……。
……。
……ん? デート?
あれ、俺そういえばこれまで1度もデートをしたことが無いんだが──?
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