夜を過ごす(with クロガネイバラ)(1 / 2)

──怒涛の1日が過ぎた。


結界内で起こった諸々の説明を果たし、また帝国の状況を聞いた。俺たちがモーフィーと戦っているときにはすでに、第二魔王国チェスボードから10万の軍勢が帝国南東へと侵攻してきていたらしい。


『だが南東にはロジャやマヌゥが加勢に向かってくれたところだから心配はない。テツトとクロガネイバラはコウランの町で体を休めつつ、再び南西方面で何かあったときのために待機しておいてくれ』


魔術を使用した緊急通信で繋がった先のヴルバトラからそのように指示を受け、俺たちはコウランの町に残ることに。10万の魔王軍……相当な数だが、しかしロジャが居さえすれば大した問題じゃないというのは確かだろう。


そんなわけで夜。俺たちはクタクタになってクロガネイバラの別荘まで帰ってきたわけだったのだが、




「──さあっ! 祝勝会よっ!!!」


「「イェーイッ!!!」」




ノリノリのクロガネイバラの面子のノリに巻き込まれ、飲み会が始まってしまった。


「魔王軍幹部モーフィーを倒したこと、そしてテツトくん、イオちゃん、メイスちゃんの活躍、最後にクロガネイバラの復活を祝い、かんぱ~~~いっ!!!」


「「「かんぱ~~~い!」」」


クロガネイバラの3名は浴びるように酒を口に流し込んでいく。


「あの……みなさん? いちおう俺ら待機組なんで、いつでも動けるようにしとかなきゃダメなんですよ?」


そう、待機とは休みという意味ではないのだ。むしろいつ何が起こっても即応できるように備えていなくてはならない。


……ちなみにイオリテとメイスは不参加を表明した。


『我は先に寝とる。酒臭いのは好かんのじゃ、幼女ゆえ』


わらわもお酒はパスさせてもらいます。前酔ったときは酔拳で暴れてしもたからなぁ……』


そんなわけで俺に普段味方してくれるふたりはすでに2階に上がっていってしまっているわけだ。ゆえにこの1階リビングの勢力図は俺が圧倒的に不利。


「……テツトくんったら、お堅いわねぇ」


ベルーナがわざとらしいため息を吐いた。


「いいかしら。戦場において適量の酒・タバコの類はむしろ推奨されているのよ? 兵士にだって休息・リラックスは必要なんだから」


「ええ、まあ……【適量】ならそうかもですね」


俺たちの半径1メートル周囲の床を埋め尽くすこの酒瓶の量が、果たして適量と呼べるのかはなはだ疑問なところだ。


「おいおいおい、テツトくん。私たちは戦場で何度も飲んだ仲じゃないか。酒程度で私たちが失敗しないことくらい知ってるだろ?」


「そうですよ、テツトさん。それに酔いなら私のアルコール中和魔術で解消できると知っているでしょう? さあ、しゅのお導きに従うのです」


ナーベが肩を組んできて俺にグラスを持たせる。そのグラスに即座にマリアが酒を注いでくる……さすがはクロガネイバラ、流れるようなチームプレイだった。これには負ける。


……ホントにこの人たち酒好きだよなぁ……。


まあ、軽く飲む程度なら別にいいかと、仕方ないので酒に口をつける。


「……お、美味い」


「でっしょぉう?」


何故だかベルーナがドヤ顔して、ナーベとマリアとハイタッチを交わした。


「そう言ってくれると思ったわ。前からテツトくんと私たちは酒の趣味が合うと思ってたのよね」


「まあ、そうですね。コレどこのです?」


マリアが手に持っていた酒瓶のラベルを見せてくれる。酒呑みが誰でも通る銘酒であり、その中でも史上最高に美味い年代として有名なレア物だった。


「いいんですかっ? こんな良いもの開けて」


「ええ。本当はネオンが復活して、私たちがクロガネイバラを取り戻せたら開けようかと思ってたんだけどね」


「えっ、じゃあ今飲んだら良くないんじゃ……」


「いいのよ。私たちがクロガネイバラの意志を取り戻せたのは今日なんだもの」


ベルーナがグラスをカツンと、俺のモノへと合わせてくる。


「強敵に怯え屍のように生きているチームはクロガネイバラじゃない、常にどんな敵とも戦う意志を持ってこそのクロガネイバラなの。その意志を取り戻してくれたのはあなたよ、テツトくん。だから私たちはあなたと祝いたい」


「そういうワケだ」


「ええ。ですね」


カツン、カツン、と。ナーベとマリアもまたグラスを寄せて鳴らす。俺の元に、4つのグラスが合わさった。


「ネオンが復活したら、それはまたその時に飲めばいいのよ。だからテツトくん、今はあなたと私たちとで」


「……そう言ってもらえるなら、飲むしかないですね」


俺たちはグラスを掲げた。


「じゃあ、改めて……みなさん、おかえりなさいっ! 乾杯!」


「「「かんぱ~~~いっ!!!」」」


うまい事のせられた気がしないでもないが、そんなわけで飲み会は始まってしまった。




* * *




──飲み会が始まって、2時間後。


「ウェーイ、テツトきゅん、飲んでうぅ~~~?」


飲み会覚えたての大学生みたいな軽いノリで、べろんべろんになったベルーナが肩を組んでもたれかかってくる。


「そうだぞぉ、テッツン、飲めよぉ、飲まないとぉ、酒は飲めないんだぞぉ」


ナーベは人に勝手なあだ名をつけて支離滅裂なことを言い始めたかと思うと、こちらに倒れ込んで太ももに抱き着いてくる。


「キャハハッ! 出たぁナーベの抱き着きグセ! モテモテッ! テツトさんモテまくっててウケるっ! キャハハハハっ!」


そんな俺たちを見て、床をバンバン叩いて喜んでるのがマリア。酒を飲むと一気に陽気になる性質だ。


「みんな悪酔いし過ぎでしょ……」


元々酒癖が悪いことは知っていたけど、ひとりで素面しらふのまま巻き込まれるのは中々に辛い。


「こうなったら俺もサッサと酔うか……」


俺は酒に強い。ものすごく。とはいえ、生物学的に一定量以上のアルコールをぶち込まれれば当然酔いはする。


……どこかに、俺を一発で酔わせてくれるハンパない度数の酒は無いか……?


散乱する酒瓶の中に、真っ白な色をしたひとつを見つける。その酒瓶には見覚えがあった。確か、アルコール度数98%の帝国産最強の酔うためだけに存在する酒だ。


……これを飲めば、いくら俺だって酔っぱらえるはず!


「あっ、テツトきゅん、そりゃりゃ……!」


「問題ないっす。前にもこれ飲んだことあるけど大丈夫だったんで!」


呂律の回らないベルーナの制止を聞かず、俺がその酒をグビグビとあおった──そのときだった。


「……んぐっ!?」




──ドクンッ!




唐突に、心臓の鼓動が速くなった。体が急速に火照る……それだけじゃない。アルコールで喉の焼ける感覚の代わりに、雷が奔るかのような感覚が俺の身体中を襲った。


……なんだ、これ? 酒じゃ、無い……っ?


ドクドクドクと心臓の音がどんどん加速していく。


「ああ~、テツトきゅん大丈夫らぁ? もぉ、わらひ、飲んじゃダメらっていったのにぃ……」


ベルーナがガックリと肩を落として言う。


「その瓶に入ってるのわぁ……お酒じゃなくて【精力剤】なんらよぉ?」

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