止まぬ災害の歩み

──テツトたちがモーフィーを倒して結界内の世界から帰還したのと同時刻、帝国領最南東の地へと向かう道のりで。


「……ム」ピーン


ロジャは南西を振り返った。そして常に無表情だったその表情に、笑顔をたたえる。


「……シショー、シショーはやっぱり……スゴイ」


大剣を右肩に担ぎ、ロジャは喜びで満ちる胸に手を当てた。ロジャは知っていたし、信じていた。テツトがいつか必ず自分と同じ域に上がって来てくれるということを。




「──ゲハハァッ! スキありだ、このバケモノ女剣士めッ!!!」




そっぽを向いていたロジャへと、いつの間にか魔の手が迫っていた。それはキング・オーガ。ゴブリン族の最終進化系であり、フィジカルのみを考慮すればモンスターの中で最強の一角である。その適正討伐ランクは単体で超S級にもなると言われている──だが、そんな評価はこの【ふたり】の前には関係ない。


「ゲバッ!?」


突如として、キング・オーガが吐血し、その動きを止めた。その体は地面から伸びてきた無数の杭によって刺し貫かれていた。




「──あぅ、ロジャさん、いったいどうしたのですぅ?」




ヌプリ、と。ロジャの手前、地面から顔を出したのは沼の精霊──マヌゥ。


「何やらボーっとしていたので思わず手を出してしまいましたぁ……」


「……ゴメン、マヌゥ。ありがとう……でもダイジョウブ」


「あれぇ?」


マヌゥは気が付いた。いつの間にか、ロジャの右肩に背負われていたはずの大剣が左持ちになっていたことを。


「近づいてきたの、分かってたから……刻んでおいた」


「あららぁ~」


時間差で、キング・オーガの体が地面ごと爆散した。


「やっぱり私の出番は無かったみたいなのですぅ……でもぉ、【襲撃中】によそ見は良くないのですよぉ?」


「……うん」


ロジャとマヌゥ、ふたりは襲撃を受けている真っ最中だった。


──ロジャの意見がトーカー伯爵の後押しもあり採用されて、ロジャとマヌゥのふたりで南東の10万の魔王軍の元へと向かおうとしたところ、帝国軍のクロットとかいう幹部の男(※モーフィーが帝国内部へと放ったスパイのドッペルゲンガー)にはめられて、キング級のモンスターたちの待ち伏せ場所へと誘い込まれたのだ。


とはいえ、そんな事態に動じるふたりではない。


「ロジャさん、モンスターは今ので最後ですかぁ?」


「……うん。マヌゥ、犯人は?」


「はいぃ。犯人は捕まえて沼の中に仕舞っているので、後で帝国軍に引き渡すのですぅ」


クロットは、このふたりの足止めがしたかったのだ。せめてモーフィーがクロガネイバラを屠ったことが明らかになるまで粘れば、ロジャを南西へと方向転換させることができるかもしれないと、そんな淡い望みに命運を託して。


しかし、およそ30秒。それがロジャたちが全ての事態の解決に要した時間だった。


ロジャは馬車の御者や馬を守りつつ10体のキング級モンスターを瞬殺しており、マヌゥはその間に逃げに徹していたクロットを捕獲した。


──クロットの望みは、あまりに淡過ぎた。


「それにしても、向こうの方を見て何を考えていたのですかぁ?」


マヌゥの問いに、ロジャは鼻を膨らませた。


「シショーが、結界から出てきた」ムフー


「わぁ、さすがテツトさん! やっぱりテツトさんはすごいのですぅ!」


「……うん。しかも、さっきの魔力の波動……私が前に見せた技と同じ。シショーが私の技を使ってくれた……」ムフフ…


ロジャが紅潮した頬に手を当てて体をくねくねとさせる。


「……ウレシイ。シショー、私の技覚えてた……好き、大好き。すぐ会いに行きたい……今すぐイク……!」フンスフンスッ


「だっ、ダメですよロジャさん! 私たちは南東で10万の魔王軍を迎え撃たなければならないのですからぁ!」


マヌゥはロジャの手を引いて馬車へと乗せる。ソワソワしっぱなしのロジャから目を離してしまえば、ひとりで走って南西へと向かいかねない。


「とにかくぅ、全ては自分たちの役割を果たしてからなのですよぉ?」


「……わかった。着いたら1分で蹴散らす……」プンスカプン


「ホ、ホントにやってしまいそうで魔王軍がちょっと可哀想なのですぅ……」




──この1日後、南東の戦場に着いたロジャは鬼神のごとき暴れっぷりを見せ、魔王軍10万はおよそ10分で壊滅した。

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