チェスボード 後編(7 / 15)
俺たちの陣地、2×8のマス目の誰も立っていないマスに白色の人形たちが出現した。それらの姿形はモーフィーの周りを囲う黒色のものたちと同じ。つまり俺たちの仲間駒というわけだろう。
……くそっ、完全にモーフィーのペースだな。
どうにかして抜け出したい戦いではあったが、どうやら試合はもう開始されているらしい。俺たちの陣の横の空間に【01:59:13】という赤色の時間表記が浮かび上がっていた。先ほどのルール説明によると持ち時間が切れたら敗けというルールだった、
「……ひとまずはやるしかないか」
とすると、まずは俺たちの状況を確かめないと。みんなの方を改めて振り返る。
「俺とメイスの立ち位置は前列……ポーンか」
ポーン……つまり、歩兵。それは基本的に前に進むことしかできず、斜め前の相手駒を取るしかできない最弱の駒だ。
あとの位置的にはベルーナが
……今はとにかく、どうプレイしていくかを考えよう。
「……ちなみに、ベルーナさんはチェスの経験は?」
「……」
「ベルーナさんっ?」
「えっ──」
ベルーナはハッと我に返ったような反応を見せる。
「なっ、なにかしら?」
「ベルーナさんにチェスの経験があるか聞きたかったんです。今回の指示出し役はベルーナさんのようだったから。でもその前に……大丈夫ですか?」
ベルーナの顔は青いままだ。その横のマリア、ナーベたちも同様に恐怖を堪えるかのように静かに唇を噛み締めていた。
……それも仕方ない。世界の創造、そんなケタ外れの力を振るうモーフィーは恐らく……いや、確実に
トラウマの傷口が開いている今、そんなバケモノを相手取れなんていうのは酷が過ぎるというものだ。しかし、
「ええ、ごめんなさい。でも、私は大丈夫よ……」
ベルーナは深く呼吸をする。
「マリア、ナーベ! 顔を上げなさい!」
ベルーナの声に、ふたりが反応する。
「逃れられないのであればやるしかないわ。武器を持ち立って死ぬか、膝を屈して死ぬか……クロガネイバラならどちらを選ぶか! 分かるでしょうっ!?」
「リーダー……」
「それに、戦いがチェスを基本にするものなら……私に任せなさい。頭を使うものなら私は得意よ、知ってるでしょう?」
ベルーナがふたりを鼓舞するように強気な微笑みを浮かべる。それは強張っているようにも見えたが、しかしナーベとマリアもまた力強く頷いた。
その様子に、ベルーナはホッとしたようにひと息ついた。
「テツトくん、私たちは大丈夫。テツトくんたちの方は?」
「俺たちの方は……」
イオリテ、メイスの様子は平常。この世界に飛ばされた直後こそ混乱していたようだったが、特に怯えている様子も無い。
「まあテツトと居るとあらゆるトラブルに巻き込まれるからのぅ……もう慣れたのじゃ」
イオリテはため息交じりに言う。
「それに、最後は結局お主がなんとかしてくれるじゃろ?」
「俺もずいぶんと信頼されたもんだなぁ……」
「まあ10年と、その先の実績があるからのぅ」
イオリテが笑う。託される身としては気軽に笑い返していいものかわからないが、それでもシリアスになり過ぎるよりかはいい。
「イオちゃんは大丈夫そうね。メイスちゃんは……」
「はよアイツの鼻っ柱叩き折ってやりたいわぁ」ウズウズ
「……メイスちゃんも大丈夫そうね」
とにかくサッサとモーフィーをぶちのめしたい、そんな様子が透けて見えるメイスにベルーナは感心したような、あるいは呆れたような表情を作った。
「ベルーナさん、それで指示は……」
「分かってるわ。いったん
ベルーナが首を傾げつつ言うと、白のクイーンの前のポーンが前に自動で2マス進む。どうやらそこが【d4】とか言う位置らしい……俺には何がなんやらだが。
それと同時、俺たちの横に浮かび上がっていた時間が【01:57:24】で動きを止めた。
「ようやく始まったね。全力で楽しもうじゃないか」
モーフィーは犬歯をむき出しにした笑顔を向けてきた。
「d5」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます