チェスボード 後編(6 / 15)
──【魔導結界・
モーフィーが両手を広げるやいなや、コウランの町の冒険者組合に居る俺たちを真っ白な光が包み込んだ。かと思えば、次の瞬間に俺が立っていたのは別世界。
「なんだ、ここは……!?」
「なっ、なんじゃあっ? 一面が真っ白じゃぞっ!?」
「あー、
その真っ白な世界で、イオリテ、メイスもまた俺の隣に立っていた。俺たちの後ろにはクロガネイバラの面々。
「……っ」
「ベルーナさん、ナーベさん、マリアさん、大丈夫ですかっ?」
「……え、えぇっ!」
みんな顔を青ざめさせてはいるものの、ケガなどは無いようだった。はぐれた人もいないようだしそれは安心だったけど……
「しかし、本当になんだここ……?」
辺りを見渡しても上も横も、念入りに白のペンキで塗りつぶされたような世界が広がっている……ただ、唯一足元だけが色づいていた。俺たちは、何かの舞台の上にいるのだろうか?
「──ようこそ、僕の世界へ」
突然、その空間に声が響く。正面を見れば、いつの間にかこの空間の奥の方にモーフィーが立っていた。
「チェスの経験はあるかい、テツト?」
「……チェス?」
……そういえば俺たちの立っているこの舞台らしきもの──薄いクリーム色とこげ茶色の2色で交互に塗りつぶされた約3メートル四方の正方形のマス目が連なっている地面は、見ようによってはチェスの駒を置くボードに見えなくもない。
「お気づきの通り、ここはチェスボード。僕の愛すべき決戦の舞台であり、魔導結界の内側さ」
「魔導、結界……?」
「おや、知らない? 人間側に使える者はいないのか……まあ、100年足らずしか生きられない弱小種族では仕方ないね」
モーフィーは小さくため息を吐く。
「魔導結界……それは僕のような魔導を極めし天才が
「0から世界を創り上げただと……!?」
「ああそうだ。見たまえ……この美しい光景を。無駄なものなど一切ない、ただチェスに浸るだけの空間。少々手狭な空間ではあるが……狭いくらいが集中できるというものだろ?」
モーフィーは、足元のチェスボードの舞台以外すべて真っ白な世界を見渡して言う。
「この魔導結界には、僕を中心にして半径3メートル以内の【
「……そんな空間に俺たちを引き込んでどうするつもりだよ」
「もちろん、これから君たちにはここで僕と試合をしてもらう」
モーフィーの左右1列と正面1列に、どこからともなく黒い武装人形たちが出現した。正面の一列の兵は剣を、後ろには城壁を想起させる盾持ちの兵が2体、聖杖を持つ聖職者が2体、馬に乗った
それらに囲まれるように、モーフィーは立っていた。
「こいつらはキングの指示を受けてチェスのルール通りに動く人形の駒たちだ。これから僕たちがどのように仕合うかは……もう分かるだろう?」
「まさか、俺たちに駒代わりになってチェスをしろとでも……?」
「フフ……その通り。いざ尋常に戦おうじゃないか、テツト。チェスのルールに
モーフィーは髪をかき上げて、絶対の自信を感じさせる笑みを浮かべる。
「
「……誰がわざわざお前の土俵で戦うもんか」
俺はチェスなんて最低限のルールしか知らないし、だったらわざわざ相手の有利な条件に乗っかってやる必要なんてない。
「君にとっては残念なことにね、テツト。君たちがこの結界を
「……!」
俺はこの舞台、チェスボードから降りようとしてみる。しかし、
「なっ……!?」
舞台の端に行く……それすらできなかった。
「なんだこれ、壁……?」
そもそも、自分が今いるマス目からも動けない。見えない透明な壁に押し戻されるようにして、それ以上進めなかった。
「クソッ……」
「避けようのない戦いだと実感できたかい? それじゃあこの世界について説明しよう──」
モーフィーはそれからこの世界のルールの説明を始めた。要点をまとめると以下だった。
==========
・この世界の終了条件は試合が終了すること
・試合の勝利条件・制約事項はチェスのルールに則る
・この世界においてチェスのルールに
・互いの持ち時間は2時間
・プレイヤーたちが担当する駒は
・
・駒を動かす決定権はキングにある
・プレイヤーのうち最低ひとりはキングとなる
・戦闘によってプレイヤーが担当する駒が破壊された場合、プレイヤーは死亡する
・敗北した側に所属する者は全て死亡する
==========
「次に、チェスのルールについて。知ってる人もいるだろうけど簡単に説明するよ──」
モーフィーは手番について、駒の動かし方について、勝利条件と引き分け条件についての説明をひと通り行った。特別なことはない。まあ、それくらいなら俺も知っていることだ。
「──とまあ、【基本的な】ルールはこんな感じかな」
「……ふん、ずいぶんと丁寧に教えてくれじゃねーか」
「ルールの開示が試合開始の条件だからね」
モーフィーがその深紅の眼を光らせ、指を鳴らす。すると俺の横と後ろに白い駒が出現し、それぞれの武器を構えた。
「さあ、さっそくやろうか。君たちの手番からだよ」
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