チェスボード 前編(10 / 10)
──テツトたちがコウランの町で超S級の
チェスボードの領主である
「【
早々に用件に入ったその男の正体は、魔王軍幹部会議でいつも進行役を務めている魔族の男──ファシリだ。どこか落ち着き無く焦っているような様子で、出された茶に手も付けていない。
「【上の連中】は成果を……いや、確実な
「【魔界】の連中か。僕が向こうにいた頃と変わらず、せっかちな老人どもだねぇ……まあでも安心しなよファシリ。こちらの世界の魔王軍もやるものだと思わせてやるさ」
「頼んだぞ。このままではヤツら、痺れを切らして【アレ】を使おうとするかもしれん。そうなればこの世界は魔王様によって染め上げられる前に死の世界と化すだろう」
「まあ任せなって。もう充分に策は巡らせてあるし、それに……帝国にも毒を放っているからね」
重々しい口調のファシリに対して、モーフィーはウィンクをしてみせる。
「第二魔王国は帝国に対して攻勢に入る。僕の次席指揮官が帝国にも
「モーフィー、お前は出ないのか?」
「ははっ、そっちの10万は釣り餌だよ。僕はひとり帝国南西から攻め入って帝国の脅威となり、2正面での戦いを強いる。そして、
「……そんなに上手く
「いいや、ほぼ確実に僕の元へくるだろう。なぜならまだ帝国には2正面で戦争ができるほどの力は戻ってはいない。であれば南西には【最小限かつ確実に魔王軍幹部を撃滅できる戦力】を送り込む他ないからだ」
「……なるほど、我々の一手で敵の選択肢を奪ってしまうというわけか。さすがは魔王軍きっての
「フフ……よしてくれよ、照れるじゃないか。まあすべて本当のことだが」
称賛の言葉に対し、モーフィーは満足げに金の長髪をかき上げる。
「帝国軍の行動を確定させるためにも、
「先ほど言っていた毒とはそのことか」
「そうさ。彼には帝国の戦略をこちらの都合がよいものへと誘導してもらう。あとはもうチェックメイトに持っていくための単純作業だ」
「そうか……それならいいんだが」
ファシリはひとつ息を吐き出すと、ようやく出されたお茶に口をつけた。
「だが、くれぐれも油断はするなよ? 帝国の強者は何も災害人形だけではない……それに、まだ発見されていない脅威もあるかもしれないのだから」
「そのあたりも調査済だ。帝国南西に僕の脅威になり得る存在はいない。密偵の報告によればせいぜいクロガネイバラの一部のメンバーが逗留しているくらいだと」
「……クロガネイバラは
「知っている。だからこそクロガネイバラを屠れば僕の脅威が帝国に伝わるワケだ」
「油断は──」
「していない。心配のし過ぎだぞファシリ。僕を誰だと思ってる?」
「……」
モーフィーのその固有の能力は一度に最大16人の人間であれば【ほぼ確実に】死に至らしめることができ、かつてこの地で栄えた大国を守護していた魔力波レベル大の人間の
「とにかくファシリは僕が
「ああ、そうだな……」
「頼むぞ? 僕は戦略に回せる頭はあっても世界を動かす頭は無いんだから。この世界を僕たち魔族が羽を伸ばして暮らすことのできる世界に染め上げるためには、君みたいな文官に頑張ってもらわなきゃあ」
「分かってるさ。俺たちはそれぞれ自分自身の役割を全うしよう……そういうことだろ」
ファシリは頷いたが、しかしその胸中にはどうしても微かな不安が残り続けたままだった。
……何かを、見落としている……? いや、そんなわけはない。災害人形、この世全てのエルフを束ねる者、そして勇者やクロガネイバラの存在、すべて勘定に入っているはずだ。
「……では、任せたぞモーフィー。私はいったん魔王城へと戻る」
「ああ。吉報を待っていておくれよ」
ファシリは結局、それ以上は何も伝えずに第二魔王国チェスボードを後にした。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
後編は現在執筆中で9月入ってからになりますが、来週は1つどこかで書かなくてはいけない別行動中のメンバーのお話を上げようかと考えております。
それではっ!
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