チェスボード 前編(3 / 10)
顔から赤さの引いたヴルバトラと共に、俺はシバたちをオグロームへと残して帝都の宮廷までやってきていた。皇帝陛下への拝謁のためだ。
「ぃよくやってくれたッ!!!」
皇帝陛下はだいぶテンションが高めだった。その喜びようから察するに、獣王国を始めとする4か国との同盟関係の構築は順調に進んでいるようだった。
ちなみにまた1か月前と同じで褒賞についての話があった。望みの物があれば何でも取らせると再度言われてしまったが……やはりまだ特別なものは思いつかない。何かあればお伝えしますとその場は濁したが、
「そうか……本当に褒美は何でも取らせるつもりなのだがなぁ……」
チラチラと、陛下は皇族の血筋なのであろう女性の方へと目配せをしていた。その女性も顔を赤くしていて、まんざらでもない様子。
……陛下は陛下で、俺を皇族に婿養子で迎えようとか考えてそうだね?
「ぅオホンッ! 陛下、テツトは長旅の疲れもあり、本日はこの辺りで……」
「う、うむ……それもそうだな。しばらく体を休めるとよい、テツト辺境伯」
ヴルバトラが無理やり話を終わらせようとしてくれたので、俺の前に突如として出現した【帝国で玉の
陛下は少し残念そうにしたあとで、
「ああそうだ。ところでヴルバトラ嬢よ、その後どうであるかな……クロガネイバラは」
「……はっ。そちらについては、私に少し考えが」
「うむ、そうか。彼女らもまたこの帝国にとって大きな宝。よろしく頼むぞ」
……なんだ? クロガネイバラのみんなが、どうかしたのか?
気になったとはいえ皇帝陛下とヴルバトラの話にその場で口を挟むわけにもいかず、拝謁を終えた俺たちは玉座の間を後にした。
* * *
拝謁が終わって、俺たちは宮廷にある喫茶室へと入っていた。宮廷への訪問者を紅茶でもてなす部屋で普通はそう簡単に入れる場所でもないのだが、ヴルバトラといっしょだと顔パスだった。
バルコニーの席に座り、紅茶が運ばれてくると、
「さて……テツト、折り入って相談があるんだ」
ヴルバトラが切り出した。
「もう勘づいているとは思うが、クロガネイバラのことだ」
「……みんな命に別状はないって聞いてたけど」
クロガネイバラは約1か月前、
……とはいえそれも俺が帝国から旅立つ前日には回復し意識を取り戻したと聞いていたんだが。
「もちろん、命に別状はない。それどころか全員もう戦闘を行えるまでに回復している」
「さすが帝国一の超S級冒険者チームだな」
「ああ。全員鍛え方が違うからな。だが……そんな彼女らに、肉体とは別な部分で障害が生じている」
「障害……?」
「
ヴルバトラはベルーナから、トラウマを抱え
「ジルアラドとの戦闘で自分たちの力がまるで通用しなかったことが堪えているらしくてな。『メンバーたちに自信を取り戻させるには実戦が一番』だと、私と合同で超S級依頼をいくつかこなせないかと頼まれているんだ」
「なるほど。それは確かに効果的だろうな。ジルアラドに対して力が通用しなかったからといって、それはクロガネイバラが弱いってことじゃない。通常依頼をこなしていれば一時的に失っている自信も取り戻せるはず……」
「ああ。だがな、肝心の私の体に空きがない」
ヴルバトラは深いため息を吐いた。
「今日もこの後はルール法国の使者殿との会談に出席する予定で、引き続きジルアラドの調査もしなければならない……そこで、だ。私は思ったわけだ。クロガネイバラのサポートならば私より適任がいるではないか、と」
「そういうことか、俺に相談っていうのは」
……つまり、俺にサポートに向かってほしいということだ。
「どうだろう? テツトも忙しいことに違いないだろうが……」
「もちろん行くよ。クロガネイバラにはロジャの時の件で借りがあるし、それが無くてもあの5年を共に戦った戦友だからな」
「ありがとう、テツト。貴君になら安心して任せられる」
紅茶を飲み干し、今夜のヴルバトラとの予定を調整し、クロガネイバラの元への出立は明日の昼ごろと決める。シバの脚であれば2時間と掛からない距離だったが、
「……そうだ、テツト。貴君らに負担をかけてばかりですまないのだが、シバとジャンヌの力を貸してもらうことはできるか? 実は最近、国内各地で魔力の濁りの報告がされていてな」
「魔力の濁り? そりゃ危ないな。放っておけばモンスターの発生源になる」
「ああ。だからシバとジャンヌの力を借りたいのだ。彼女たちであれば瞬く間に帝国中の濁りを浄化できるだろう?」
「わかった。話しておくよ」
そうなると、クロガネイバラの元へは馬車での旅になりそうだ。
……まあ、たまにはそういうゆったりとした移動もよい。
「さて、問題はクロガネイバラの元に誰を連れていくかだな……」
今回立てるべきはクロガネイバラのメンバーたちだ。俺たちのメンバー全員を連れていって無双させるわけにはいかない。人選でひと悶着ありそうな気がした。
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