ロジャのストーカー被害

──俺たちが獣王国を救い、そして元・魔王軍幹部のメイス・ガーキーを仲間にしてから1カ月弱が経った。




「よし……これでこの国の戦線も勝利だな」


俺の剣の一閃が黄金の軌跡を描く。


ここはルール法国の対魔王戦線の最前線。あらかたモンスターたちを排し、ふたりいた魔王軍幹部たちの最後のひとり、スキンヘッドにサングラスをかけたいかにもな魔族、アウ・トローは塵にかえる。


〔ウォンウォンっ! 敵モンスターは皆殺しだよぉ~~~!〕


「くはははっ、モンスターたちがゴミのようじゃっ! ゴッド・バァァァストッ!」


司令塔を失って混乱状態の敵魔王軍をシバやイオリテたちが追い回し、殲滅戦へと移行する。ここまで来るとこれまで侵略に耐えるしかなかったルール法国軍も勢いを取り戻して、前線は戦勝モードだ。


「テツ兄さん、ようやりましたなぁ」


そんな中、メイスがウーンと運動不足を嘆くような伸びをしながらやってきた。


「今の幹部のアウ・トローは他のに比べれば弱いとはいえ、それでも逸脱者アウトサイダーやったんよ? それを、まさか【マヌゥさん抜き】で戦い抜いてまうなんて」


「あうぅ~~~、出番が無くて寂しいのですよぉ……」


戦場では珍しく実体化しているマヌゥが、地面に作った沼からヒョコッと顔を出していた。


「わ、私はお払い箱なのですかぁ……?」


「まさか。んなわけないだろ」


俺はマヌゥの頭をちょっと乱暴にワシワシ撫でる。


「それにこれは俺の力だけじゃないよ。この獣王国に貰った黄金の剣……これが破格の性能なんだ」


俺は手に握るその刀身が全て黄金でできた剣を見せる。鏡のように磨かれたそれが反射させる光に、メイスはウッと身を退いた。


「やっぱりわらわ、それ苦手やわぁ……見てるとなんだか、引き込まれてしまいそうになるんよ」


「ミーニャによれば、これには黄金の精霊が残していった力の一部が宿っているんだと。黄金には魔を引き付ける力があるらしいから……負の魔力を持つ魔族やモンスターに対して攻撃の威力が倍増するみたいだ」


「ふぅん。だとしても普通、ただ強いだけの戦士が逸脱者アウトサイダーに敵うもんでもないんやけど……まあ、そういうことなんでしょなぁ」


「? そういうこと?」


「テツ兄さんが特別、いうことや。みなまで言わせんといてぇなぁ。ホント、理解力ざこざこお兄さんやねぇ」


「そりゃスマンな……。ところで、例の【アレ】は見つけたか?」


俺が話題を変えると、メイスはコクリと頷いた。


「もうひとりの魔王軍幹部、バンデッドが大事そうに抱えとったで? 手早くわらわがザッコザコにして奪い取っておいたさかいに、これ以上向こうさんの戦力は増えんと思うわ」


「おっ、さすがはメイス。ありがとな」


「ふふっ、お礼は夜にベッドの上でしてくれてもええんよぉ?」


「いくら100年生きてるメイスが相手でも、見た目がロリだと難しいんだって……」


「えぇん、いけずぅ~~~」


メイスがわざとらしく泣き真似をする。まったく口ではよく言ったものだ。キョンシーであるメイスに性欲は芽生えない。この1か月、俺はときおりこうして困らされて遊ばれていた。


「とにかく、ソッチの事は置いておいて……」


「はいはい、せっかちさんやなぁ……はい、これや。【魔力塊タマゴ】やで」


メイスが俺に手渡してきたのは手のひらに収まるサイズのガラス玉が3つ。その中に、黒と極彩色の濃い赤や紫の魔力が互いに混じり合いながら渦巻いている。


魔力塊タマゴ……負の魔力の濃縮体、か。いつ見ても禍々しいな……」


「そこからモンスターが何千体と産まれてくるわけやし、それを丸々3つ消費すれば凶悪な逸脱者アウトサイダーの魔族も産み出せるほどやさかいに、禍々しくない方がおかしいわ」




──元・魔王軍幹部であるメイスに聞けた魔王軍の情報のうち、最も有益なもののひとつがこの魔力塊タマゴと呼ばれるガラス玉のことだった。


『魔王様……この世に満ちる負の魔力の源は、この世界に溢れる生命エネルギーと同等の負の魔力を産み出すんよ。それは本来、温泉の源泉のように垂れ流しになっておって、そこから魔族やモンスターは自然発生するんやけど……それを魔王城に居る魔族の幹部の能力でガラス玉に封じ込めることができるんや』


そうしてパッケージ化された負の魔力の塊──魔力塊タマゴは各戦線の魔王軍幹部たちに預けられる。幹部たちはそれを使い、封じられた魔力の展開儀式(1日から数日程度かかるらしい)を行うことで、モンスターの大群や自らの右腕にできる魔族を産み出すことができるようになるわけだ。




「……兵站もなく大量のモンスターを戦線に展開できるわけだよな」


「そうやね、そうして産み出されたモンスターはガッツリ消耗品や。維持するにはコストがかかるから、敵に向けて死ぬまで特攻させるだけ……超効率的な兵の運用やろ? まあわらわの性には合わんけど」


「確かに効率的だけど仲間を仲間とも思ってないのは反吐が出るな。まあ、似たような人類国家もあるけどさ」


「魔族やモンスターはその辺ドライやからなぁ。強ければ生き残る、弱ければ死ぬ。将も兵もそれだけやさかいに」


「……まあ、環境が変われば考え方も変わるもんか」


なあなあに言葉を濁して、俺は肩を竦めた。イデオロギーの違いに、どっちが正しいかなんて議論することに意味はない。


「とりあえずこの魔力塊タマゴは例のごとくジャンヌに任せよう」


これまで獣王国を出立してからの1カ月で旅をしてきたドドスコスコ小皇国、ジャスティス共和国においてもこの魔力塊タマゴを解消してはジャンヌの聖女の力で浄化してもらってきたのだ。


「……って、シバといっしょに殲滅戦に行っちゃってるか。じゃあ後でになるかな」


辺りを見渡せばもう周囲に敵の姿はなく、遠くに土煙が舞っているのが見える。俺たちも追撃に出向くべきだろうか……なんて思っていると、スタッ、と。俺の隣に大剣を持った美少女──ロジャがどこからともなく着地した。


「……ただいま」スンッ


「ああ、おかえり……どうした? そんな興ざめみたいな顔して」


「……また、ストーカーが居た……」ムスッ


「えぇっ? またか……!? 大丈夫だったか……?」


ロジャはコクリと頷いた。俺はひとまず安堵の息を吐くものの、


「どうしたもんかな……そろそろ警吏に相談した方がいいのかな……いやでもここは帝国の外だし、この場合はどこの警吏に……?」


ひとしきり頭を悩ませる。なにせ、ロジャがストーカー被害に遭うのはこれが初めてではない。なんとこれで5回目なのだ。


最初のストーカーは帝国の都市イース。イオリテが仲間になった場所だ。俺たちが謎の巨大ゴーレムを相手にしている中で、ロジャは謎のストーカーを【追っ払って】いた。


2回目のストーカーは獣王国。なんでも【遠くの方】から見られていたらしく、その時は『勘違いかも?』と思って逃がしてしまったのだそうだけど、3回目のドドスコスコ小皇国で同じストーカーがやってきていたらしく、やはりロジャが【追い払った】らしい。


4回目はジャスティス共和国で、そして今日が5回目のストーカー被害だ。いずれも複数犯らしく、タチが悪い。


……不甲斐ないことに、いずれの時も俺は側にいられなかった。もちろんロジャは強い子だし、ストーカーたち相手にも毅然きぜんとした対応を取ったのだろうけど……。せめて俺もその場に居られたなら、無口なロジャに代わって強く物申すこともできたというのに。


「はぁ。にしても本当に困ったもんだな……」


「……うん、わずらわしい」ハァ…


「そうだな。それに、いくらロジャが強くったって心配だよ、俺は」


「……」キラキラ


ロジャは俺に大股で近づくと、ムギュッと抱き着いてくる。


「……心配してくれて、嬉しい」フンスフンス


「そりゃそうだよ。ロジャは大事な女の子だ」


「……シショ~!」ブチュ~~~


ほっぺに吸い付いてくるロジャを撫でながら、俺はストーカーたちをどうしたものかなと頭を悩ませる。ロジャはたびたび追い払っているけれど、なんとかして捕まえて見せしめに逮捕とかしてしまった方がいいんじゃないだろうか?


「……ヴルバトラとかに相談してみようかな。帝国の内部情勢も気になるし、いったん帰ってみるか」


今後の方針が決まった。久しぶりに帝国の地を踏むとしよう。






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今回は短いですがここまでです。


いつもお読みいただきありがとうございます。


次回から【チェスボード編】が始まります。

更新日決まりましたらまた近況ノートでお知らせいたします。


ここまでのお話を楽しんでいただけましたら、ぜひぜひ☆評価やフォローなどよろしくお願いいたします。


それでは次回もよろしくお願いいたしますっ!

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