獣王国 後編(8 / 8)

魔王軍幹部であるメイス・ガーキーを無害化し、そして残りの魔王軍も殲滅して獣王国を救った俺たちは、その翌日に正式に国を挙げての感謝を獣王国の王・ミーニャから貰うことになった。


……とはいえ。


「いやいやいや、こんなに貰えないってっ!」


「なんでにゃ? 人間は黄金コレ、好きなんじゃないのかにゃ?」


獣王国の城の広間で俺の目の前に積み上げられたのは黄金……およそ数トン。


「確かに好きではあるけど、俺たちは帝国との同盟の取り継ぎでもあるし、勝手にこんなすごい報酬を貰うのはな……」


「それでも国を救ってくれた恩人を手ぶらで返すわけにはいかないにゃっ!」


「手ぶらで……とは言ってもね。獣王国が俺たち帝国と協力関係を結んでくれただけで充分なんだけど」


その答え自体は昨晩、魔王軍との戦いが終わって早々にミーニャから貰えていた。獣王国に攻め込もうとする魔王軍を倒し、獣王国と協力関係を結ぶことができた時点で俺たちのミッションは完了なのだ。


「いや、やっぱり形あるものでもちゃんと返したいにゃあ……」


「その気持ちは嬉しいけどさ……ちなみにこの金の量、価値分かってる?」


「ん? お肉1年分くらいじゃないのかにゃ?」


「ぜんぜん分かってなかったねぇっ!?」


金数トンだよ??? 一生遊んで暮らせるぞ???


「みぃたちは黄金なんて無くても、黄金郷さえ残ればそれで充分なんだにゃ」


「とはいえ、身の丈に合わない財産を貰ってもどう扱えばいいやらで俺も困るんだよな」


「むぅ~、そういうことなら仕方ないにゃあ。じゃあ……テツにゃんは剣士なわけだし、こっちの剣だけでもどうかにゃ?」


ミーニャがそう言うと、後ろに控えていた三獣士のひとりが俺に見事なあしらいのされた鞘に収まった剣を差し出してくれた。


「これ……刀身が金でできてるのかっ?」


「そうだにゃ。それは金の精霊がこの地に残したもので、その加護が宿っているからか少しも欠けたりしない超大業物なんだにゃ」


「え……いいのかよ? そんな大事なものを俺に渡して……」


「テツにゃんはこの王国の恩人にゃんだから、全然かまわないにゃ。それに、己の牙と爪を武器とするみぃたち獣王国の戦士に剣を扱う文化はないからにゃあ」


「そうか……?」


「そうにゃ。どうか、感謝の気持ちを受け取ってほしいにゃ」


「……分かった。それじゃあ、ありがたく」


それ以上固辞するのもそれはそれで失礼な気がしたので、気持ちといっしょにその黄金の剣を受け取ることにした。鞘のベルトを肩にたすき掛けにして背負ってみる。精霊の加護が宿っているからか、何だか刀身の当たる背中に温かみがある気がした。


「……さて、ちゃんとお礼も済んだところで、にゃ」


「な、なんだ?」


ミーニャが俺の側に来て肩を軽く当てるようにすり寄って、ゴロゴロと喉を鳴らしてくる。


「にゃーにゃー、テツにゃん。今夜みぃと一発どうにゃ? ぜひテツにゃんの強い子種を獣王国に残してほしいにゃ」


「へぇっ!?」


「三獣士ともヤッたし、もう獣人相手には慣れてるにゃん? みぃは結構上手いし、きっとテツにゃんを満足させられるにゃ」


甘え声を出しながら腕に抱き着いてくるミーニャだったが、しかし。すぐに耳をピン! と立てると俺の横から跳び退いた。




「──ぐるるるる……!」




俺の後ろ、シバが犬歯を剥いて威嚇していた。


「にゃははは、やっぱりダメだったかにゃ。テツにゃんも、優秀な番犬が居るとオチオチ他のメスと寝れなくて大変だにゃあ?」


「ボクはご主人を縛ってるわけじゃないもん! 子種目的の擦り寄りを許さないだけ!」


シバは強く言い放つ。


「だって……1番最初にご主人の奥さんになって子供を作るのはボクたちの中の誰かだもんっ!」


その言葉に、俺の後ろの仲間たちはウンウンと頷いた。


「その通りです。シバ、よく言ってくれました。やはり神の寵愛はその信徒たる私たちが最優先で得られるべきなのです」


「……子沢山で、幸せな家庭、築く」コクリ


「えへへぇ、何だか今から楽しみなのですぅ!」


「まあ、あと10年経てば我もなんとか……」


「せやねぇ。でもわらわ、子供作れるんやろか。それが心配やわぁ」


それぞれ思い思いに各々が思い描く未来予想図を述べ合って──




「「「「んっ?」」」」




──その視線が一斉に一ケ所に集まった。




「えっ、なんやの?」




シバを始め、ミーニャたち獣王国の面々も含めた全員がその元・魔王軍幹部のメイス・ガーキーを凝視した。


「……あの、メイス? 今、なんと? 聞き間違いでなければ、まるで私たちの仲間になったような口ぶりでテツト様と子供を作る……だなんて言っていたように聞こえたのですが……?」


ジャンヌが恐る恐る聞くと、メイスはキョトンとした表情で首を傾げて当然のように、


「えぇ? そんなん、だってもうわらわは旅の仲間やん?」


「はいぃっ!?」


「魔王軍もやめて行く宛ても無いんやし、仕方ないやん?」


「いや……でもあなた、人間にデフォルトで敵意を持つ魔族ですしアンデッドじゃないですか!」


「そんなん……愛の前には関係ないし、むしろ障害があるだけ燃えるもんやないのぉ」


メイスはそう言って、「せやよなぁ?」と俺に同意を求めた。


「いや、俺も仲間になるっていうのは初耳だけど……まあ、いいんじゃないか? 魔王軍の情報に精通しているっていうのも貴重だし、強いし」


「あは、ほな決まりやなぁ?」


メイスは改めてジャンヌたちを振り返ると、丈の短いチャイナ服の裾を掴み、恭しく礼をする。


「元・魔王軍幹部のメイス・ガーキー申します、お世話になります。近接戦ならお任せや、どんな怪物もザッコザコにしてやりますさかいに」




こうして、俺たちにまた新たな仲間がひとりできたのだった。




* * *




獣王国から北に100キロ以上離れた山の上で。


「──しかし、えげつなかったな」


巨大な望遠鏡やテントなどを仕舞う集団の中で、その男はひとり呟いた。


──魔王軍魔力偵察部隊隊長、エルデン。


その男もまた魔王軍幹部のひとりであった。とはいえ、その実力に目を見張るだけのものはない。むしろC級モンスターとすら渡り合えない……力で言えば魔王軍の中で下の下だ。


ゆえに、彼の役割は非戦闘的な偵察。昨日の獣王国の北方戦線における戦場の光景を観察していた。すべて、とある人間の女を注視するがためだ。


「一瞬で幹部級のアーザードが、そして数千規模のモンスターたちが葬られていくあの様はまさに災害……あれが帝国の【災害人形マドネス・オートマタ】か。魔力波警戒レベル超級なだけある」


そして、それだけではない。メイス・ガーキーが戦闘中に放っていた負の魔力も観測できなくなっていることから、恐らく彼女もまた、あの見通しの悪い密林のどこかで殺されているのだろうことは容易く想像できる。


「近接戦最強のメイスまでもが敗けるとは……やはり、我らが総司令官ドグマルフズ様を葬ったのは災害人形で間違いないらしい」


恐るべき強敵だ。


だが、しかし。




「強かったが──それだけだったな」




偵察部隊の面々の帰り支度が済むと、エルデンは通信魔術を起動させる。


「これから魔王城へと帰還する。ところで作戦本部の様子は? 昨日俺が提案した、あの災害人形を【第二魔王国チェスボード】へと誘導する計画の状況はどうだ……? ……。……。……。そうか、順調か。了解した。帰還後、作戦本部と打ち合わせをしたい。調整しておいてくれ」


エルデンの本領は暴力ではなく、観察力にあった。


「災害人形の戦力はだいたい分かった。まともにやって勝てないなら搦め手だ。あの仲間のフェンリルも合わせて、チェスボードに居る幹部の【あの能力】で動きを封じてしまえばいい」


エルデンは先日あった魔王軍幹部会議で配られた人相書き──災害人形のものと、フェンリルとそれに乗る女エルフの顔にチェックを付けた。


「他に注視すべきはもう1枚の人相書きにある帝国の勇者ヴルバトラくらいだが……ヤツは今帝国内で忙しかろう。他に注目すべき戦士もいない──まあ、フェンリルの背に乗る幼女が1匹増えていた気もするが、それだけだ。なら問題ない……よしよし、勝ち筋は見えてきた」


エルデンは通信術式を切ると、獣王国の方角を見てほくそ笑む。


災害人形マドネス・オートマタ……お前の墓標はチェスボードに立つだろうよ」


エルデンは含み笑いをしながら、その場を立ち去った。






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ここまでお読みいただきありがとうございました。


更新の時間が空いて申し訳ないですが、ゆるゆると連載続けてまいります。

よろしくお願いいたします。


楽しんでいただけたら、ぜひぜひ☆評価などもよろしくお願いいたします!


それではっ!

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