獣王国 後編(7 / 8)
──呪術神との戦いの勝利の果てに。
俺たちを覆っていた闇は晴れ、俺は元居た獣王国黄金郷の遺跡の空間へと戻って来ていた。やはりあの闇の空間は特殊な領域であったらしく、そこで負ったケガはいつの間にか治っている。
「んん……あれ、
「お、目が覚めたか?」
俺にお姫様抱っこで抱えられていたメイスがうっすらと目を開ける。
「え、どないして……ざこざこお兄さんが……」
「そりゃ俺が助けたからだな」
「
「そうだな。で、その闇の根源の呪術神らしき存在は俺が倒した」
「お兄さんがっ……?」
メイスがその目をまん丸に見開いて俺を見る。
「
「まあ、相性の問題だろうな。あの呪術神は精神攻撃に特化してたから。俺の精神は図太いもんで、あまり効かなかったんだ」
最後に呪術神から【精神の異形】扱いされてしまう程度には、かなり特別な精神構造をしているのだと思う……まあ、この異世界にチート無しで放り出され、何年も過酷な戦争を経験し、体感上で何十年も迷宮に閉じ込められていれば、多少は精神が捻じれようというものだ。
「おおきに、お兄さん。
「いいさ。メイスのためだけじゃない。俺にとってもメイスは魔王軍に関する情報を持つ重要な存在だからな」
「ツンデレやねぇ……まあ、よろしおす」
メイスは自分の足で立つと、胸に手を当てる。
「呪術神、か。呪いごと縁も消えてしもたようで少し寂しいけれど……でも今なら魔王様について話しても邪魔は入らんやろ」
「ん? さっきの呪いに心当たりがあったのか?」
「心当たり……ってゆうもんでもないんやけどね。でも、そもそも
メイスは自分の胸に手を当てる。
「お兄さんの方に付くいうんは
「……ん?」
なにか、おかしい気がする……『魔王様から生み出された』?
「ちょっと待て、魔王から生み出されたってどういうことだ? メイスたち魔族やモンスターたちは……自然発生したものじゃないっていうのか?」
魔王という存在がこの世界で恐れられ始めたのは10年ほど前からだったはず。しかし、メイスは自分で言っていた。自分はこんな
……時系列があべこべじゃないか?
「あらあら、せやったね。まだ魔王様についての誤解を解いておらんかったものなぁ」
メイスはコロコロと笑うと、
「──ちゃうねん、魔王様はずっと居る。100年前とか1000年前とか、そんな話とも違うて……それこそ原初から存在するひとつの概念で、この世界が持つ【能力】ともいえるモノや。魔族やモンスターが発生する魔力、その源が【魔王様】と呼ばれる存在なんよ」
種明かしでもするように、両手を広げてそう話す。
「そやから、お兄さんが言う自然発生……っていう解釈も間違いではないなぁ。ただ、
「……おいおい……それじゃ魔王って……!」
「そうや。魔王なんて個体は居らへんよ、この世界のどこにも」
メイスは当然のごとく頷いた。
「いわばひとつの信仰、宗教みたいなものやなぁ」
「そんなことが……いや、でも」
俺はこの世界に転生するための条件として【魔王を討伐すること】を提示されていた。ならば……魔王はひとつの個体として居るはずじゃないか? それに、
「なあメイス、魔王って……銀髪で角の生えた女の子じゃないのかよ……?」
「はぁ? 銀髪の……女の子? なんですのん、それ?」
「いや、だって……俺はさっき見たぞ?」
かくかくしかじか、と。俺はさっきの呪いの闇の空間の中で見た、その少女のことを話す。しかし、メイスは首を傾げるばかり。
「
「……じゃあ、あの子はいったい……」
もっと追求したいことはあった、しかし。
「──ご主人~~~!」
マヌゥたちを連れたシバが俺たちの元について、メイスとの話はそこまでで途切れた。
「ご主人っ! 無事でよかったぁぁぁ!!!」
俺の無事を確認するなり大喜びしてくれたシバたちと、獣王国が魔王軍に攻め込まれているという状況を知らされて、悠長に話をしている場合ではなくなってしまったのだ。
──それから俺とメイスはフェンリル形態になったシバの背に乗って獣王国へと戻ると、東から攻めてくる魔王軍の殲滅を手伝った。
「えぇっ!? メイス様ぁっ!? なぜ獣王国側にッ!?」
「堪忍やでぇ、でももう魔王軍に居る意味も無くなってしもうたさかいに」
北の魔王軍がロジャによってあらかた滅ぼされ、さらには元・魔王軍幹部という戦力まで加わった俺たちが攻め込んでくる魔王軍たちに負けるはずもなく、獣王国はこの日、侵略してきた魔王軍に完全勝利するに至った。
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