獣王国 前編(3 / 5)

「──じゃ、とりあえずこの国の中に入れてもらっていい?」


「くっ……」


俺が剣を仕舞うと、剣の腹でこれでもかと叩かれてボコボコになり地面に突っ伏していたオス獣人どもが歯を食いしばりながら首肯した。


「ついてこい。ここじゃ強者が正義だ……」


オス獣人ふたりは渋々と俺たちを先導して王国内へと足を踏み入れる。


……獣人の戦士たちは確かにウワサに聞いていた通り強かった。S級上位くらいはあっただろうか? それでも今の俺には問題にならなかった。もしかして俺また少し強くなったのかも?


「我らが王の居城へ案内する……が、我々はいま客人に構ってる場合じゃないんだ。面会を断られてもオレたちは知らんからな」


「知ってるさ。魔王軍に手を焼いているんだろ? だから俺たちはその相手を手伝いにきたんだ。ここの王様にそう伝えてくれればきっと……」


「フン……それどころの話じゃない」


「え?」


その獣人たちは渋い顔でそれきり何も答えず、そのまま城までやってくる。そこらにある岩を削り取って組み上げたようなおおざっぱな造りの城だった。獣人たちは石造りの門の前で俺たちを待たせて中に入ると……しばらくして出てきて、


「王が面会を受けるそうだ。入れ」


そう指示してきた。


獣人たちについて城内の石階段を上っていくと、そこは扉も無い広間。そして玉座と思しき幅広の椅子にスレンダーな体型でしま模様の髪をした猫耳猫目の美少女が座っていた。


「にゃーにゃー、人間のご客人とは。珍事は重なるもんだにゃ」


「あなたが……王様ですか?」


「如何にもそうだにゃ。この獣王国を統べる王──ミーニャにゃ」


意外なことだった。王、というからてっきり男(オス?)だと思っていたのだが……目の前にいるのはまだ10代に見える少女だ。


「客人、名は?」


「あ、すみません。私はテツトと申します。それで後ろの面々が──」


「──にゃるほど。テツにゃんの囲ってる愛人たちなんだにゃ?」


「えっ!?」


俺の反応に、ミーニャはフフンと笑って見せる。


「ニオイで分かるにゃ。テツにゃんがみぃと話し始めてから、そこのメスたちの身にまとうニオイが明らかに主張しているんだにゃ……『それは私たちのオスだぞ』、とにゃ」


「……!」


俺が振り返ると、シバやジャンヌたちがみんな一斉に視線を逸らした。


「ボ、ボクたちは別にねぇ? ご主人のことを独占するようなことは、ねぇ?」


「そうですよ、テツト様を縛るようなマネなど……神はみんなの神ですもの」


「……とはいえ、渡すつもりは無い、けど……」ムスーッ


「どちらかといえば私たちがテツトさんのものなのですぅ~!」


「うんうん、そうじゃなぁ…………って、いやっ!? 言っとくけど我はテツトのことをどう思ってるワケでもないからなっ!?」


そんなみんなの反応を見てミーニャがニャハニャハと笑う。


「すごいにゃあ、みんなテツにゃんにゾッコンにゃ。ここまでメスに好かれるということは……よっぽど【アッチ】の具合がいいんだろうにゃあ?」


「アッチって……」


唐突にぶち込まれる下ネタにどう反応すべきか迷い辺りを見渡すが……ミーニャの近衛にも俺たちをここまで案内してきた獣人たちにも、特別な反応は無い。それどころかむしろそれを言った当人、ミーニャの眼は真剣そのものだった。


「手を貸してくれると言ってくれたそうだにゃあ? ありがたい限りだにゃ……もしもテツにゃんにそれだけの器量があったら、の話だけどにゃ?」


「なに……?」


「この獣王国においては【強さ】だけが絶対的正義で権力の指標だにゃ。でもにゃ、実力を測るためとはいえ客人を傷つけるのは忍びにゃい」


ミーニャが指をパチン! と鳴らすと、玉座の後ろに控えていた近衛と思しき3人のメス獣人たちがミーニャの前へとやってきた。


「この者たちは我が獣王国が誇る最強の護り手たる【三獣士】。戦闘力もさることながら……夜の実力もこの獣王国指折りにゃ」


「夜の実力って、まさか……!?」


「そうにゃ、強さを測る指標はなにも暴力だけじゃにゃい……精力。それでオスの力の程度は分かるというものにゃ。テツにゃん、みぃへと力を示したければ──この三獣士たちに一夜の満足を与えてみせるにゃっ!!!」


「……!」


ミーニャのその提案に……俺は混乱した。


……いや、ぶっちゃけ意味が分からないんだが。普通に力を貸すのじゃダメな理由あるか? 一夜の満足って……なんでそういうことになるのっ!?


「おいおいおい、死んだぜアイツ……!」


「やめとけっ! 三獣士が相手だなんて……玉がいくつあっても足らねぇぞ!」


俺たちをここまで案内してきたふたりのオス獣人たちがゴクリと恐れに唾を飲む音が聞こえる。


「調子に乗ってたあの日の夜のことを、オレは生涯忘れねぇ……」


「あたぼうよ、オレもさ。オレたちふたり掛かりで、たったひとりの三獣士に搾り尽くされて……『これ以上腰を動かさないでください』って泣いて許しを請うたもんな……」


オス獣人たちは恐怖の記憶がよみがえったのか、身を震わせて抱き合っていた。


「どうしたのかにゃ、テツにゃん? もしかして……怖気づいたかにゃ? まあたかだか人間のオス一匹に手に負える相手ではないからにゃあ、それも仕方ないにゃ」


……いや、怖気づくもなにも。なんて思っていると、




「『怖気づく』ですって? 聞き捨てなりませんね……」


「『たかだか人間のオス一匹』とも言ってたね……ボクもちょっと今のには怒っちゃうかも」




ジャンヌとシバが、殺気を放ちながらミィニャを見返していた。


「いいでしょう、その勝負受けて立とうではありませんか! 神の御業をとくとご堪能し、テツト様の前にひれ伏させてあげましょう!」


「ご主人のテクで昇天しちゃわないといいねっ? 人間より体力のある獣人だからってこっちの足元見てると1発アウトだよっ!」


「にゃははっ! それは夜が楽しみというものにゃ!」


俺の意思が介在する間もなく、ジャンヌ&シバとミーニャの間で、俺と三獣士の対戦が決定していた。


「ちょ、ちょっと待って? 俺まだやるなんてひと言も──」


「ご安心を、力を示すだけの行為に愛など無いことは存じておりますゆえ。存分に普段の獣欲リビドーを発揮していただければと」


「いや、そうではなく──」


「大丈夫だよっ! ボクたちがついて側で応援してるからっ!」


ねっ? とセコンドを買って出てくれる宣言をしたシバに、ロジャは渋々といった様子で頷いた。


「……でも、粗相をする獣は、斬る……」ムスー


「私も沼の中でしっかりお見守りするのですぅ!」


俺が三獣士とヤり合うことを完全確定させている4人から離れたところで、イオリテだけは呆れたように俺の方を見て、


「……まったく、誰とでもまぐわるとは、節操ないのじゃ」


「いや、俺の意思では……」


「まあ力を示さぬとオチオチ話も聞けぬようじゃし、せいぜいケモ美少女たち相手に溜まったものを発散させてくるんじゃな」


諦めを促すように俺を諭すのだった。

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