獣王国 前編(2 / 5)

〔クンクンクン……ん~、こっちだ!〕


シバが匂いを頼りに、俺たちを背に乗せたままスルスルっと風のようにジャングルのような森の木々の間を抜けて行く。瞬く間に俺たちは獣王国の入り口と思しき、石門の前までやってきていた。


「なっ……!? 何奴っ!?」


「国の中心まで悟られずに侵入してくるとは……新たな魔王軍の手先かっ!」


その門の前に立ちはだかっていた門番と思しき筋骨隆々なトラ顔の【獣人】の男がふたり、突然現れた俺たちに驚きおののきながら、威嚇の唸り声をあげる。


「しかも、フェンリル……!? まさか神話の獣が、魔王軍の手先になり下がったとでもいうのか……!?」


〔ムッ、失礼なッ! ボクは魔王軍なんかの手先じゃないよ!〕


俺たちがシバの背中から降りると、シバはたちまちにその姿を獣耳女の子の姿へと変えた。


「ボクはシバ。魔王軍なんかと比べものにならないくらい強くて優しくてカッコよくてたくましい──このご主人、テツト様のモノだもんっ!」


ねぇっ? とシバが純粋な笑顔で俺の方を向いてくる。いや、そこまで持ち上げられて紹介されてしまうとウンと頷き辛い。とても自信過剰なような気がして。


「……!」


獣人の門番たちはそんな俺とシバの様子を見て、目を細める。どうやら警戒を強めさせてしまったみたいだ。


……そりゃそうだよね。さすがに突然現れてこの紹介じゃ、結局俺たちが誰なのかも分からない。


「おい……」


グルルルッと、獣人たちは喉を鳴らしながら俺──ではなくシバを見ると、




「オレと交尾してくれ……」




鼻息荒くそんなことを言い始めた。


「なんて凛々しくも可憐な姿なんだ……ぜひオレの仔を孕んでくれ」


「おい抜け駆けするな、オレの仔が先だ」


……ん? アレ?


どうやら、俺の心配は明後日の方向だったらしい。その男の獣人ふたりの目は、シバへと釘付けになっているようだった。


「……まあ、目に毒だわな。ほれシバ、早く服を着なさい」


「あ、うん」


俺は預かっていた服をシバへと渡す。なにせ今のシバは巨大なオオカミの姿から獣耳姿の女の子にスタイルチェンジしたばかりで全裸なのだ。


「ああっ、クソ! 人間の男ふぜいが余計なことを! 彼女のその美しい体を隠す必要なんてどこにもないのにっ!」


「そうだそうだ!」


獣人ふたりが抗議の声を上げる。何言ってんだコイツら。自分らだって服着てるクセに。


「だいいち、なんで人間がここに居る! それに何をどうやったのかは知らないが、神獣フェンリルに自分のことを『ご主人』などと呼ばせるなんて不遜ふそんにもほどがある!」


「身の程をわきまえろ人間ふぜいが!」


散々な言われようだ。だいいち、シバは勝手にそう呼んでくれてるだけで別に俺がそう呼べと言ったわけでは──


「ムッ、なんてこと言うんだキミたちは!」


シバが怒ったように頬を膨らます。


「ご主人は毎晩ボクのことを優しくナデナデしながら抱いてくれるんだっ! そんな優しいご主人を人間ふぜい呼ばわりだなんて許さないよッ!」


シバのその言葉に、




「「……こンの……スケコマシ野郎がぁぁぁぁぁッ!!!」」




オス獣人2名はブチ切れた。ギラリと鋭い爪を見せて、トラを凌駕りょうがする跳躍力で俺へと飛びかかってくる。


「いきなりバイオレンス過ぎるってっ!」


俺は腰の剣を抜かざるを得なかった。

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