獣王国 前編(1 / 5)
──帝国から数百キロ離れた北西方面にある草原にて。
「まったくメイス様は……いったいどこへ居座っているのやら」
そこに陣を敷く魔王軍たちを臨時で取りまとめているその魔王軍幹部候補の魔族は、大きなため息を吐いた。
「あの
獣王国は草原の先にある森の中にある。森は広く深く、軍の物量で押し切るのは難しい。なにせこちらにとっては見通しが悪いその森は、獣王国の獣人たちにとってはホーム。ゲリラ戦術で容易くこちらの陣形を崩してくる。
それに加え獣王国の戦士はひとりひとりが強く、冒険者が指標とするランクで例えれば討伐適正Sランク上位級のモンスターに匹敵するのだ。
「とはいえ、こんな
魔族は、クックック、と悪い笑みを浮かべる。
「そうすれば次はこの私がメイス様に代わって魔王軍幹部だ。ドグマルフズ総司令官殿が討ち死に、対帝国の幹部ワーモング・デュラハンも葬られた今、きっと獣王国を滅ぼした私は重用されることだろう……よし、そうと決まれば──」
そんな時だった──突風が彼の横を通り過ぎて行ったのは。
「なんだ……? 近くに山もないのに珍しい」
ミシ……ミシ……。
「……? なんの音だ……?」
ミシ……ミシミシミシ……。
「……!?」
その魔族が何か猛烈な違和感に気付き自分の胴体を見下ろせば、胴体が何かで殴られたように凹んでいた。そして、
──ミシリッ!
体が最後にそのようにひと鳴きしたかと思うと、時間差で衝撃が襲う。魔族の体は宙へと高く打ち上げられた──その体を爆散四散とさせながら。
「……! いったい、なに、が……!」
今わの
薄れゆく意識の中で周りを見れば、魔王軍の他の者たちもみな、その体を宙へと舞わせ絶命していた。
──獣王国から見ての南側の草原に陣取っていた魔王軍1万は、こうして全滅した。
* * *
「お~、飛んでる飛んでる!」
少し減速しつつ草原を走り続けるのは巨大なオオカミ──神獣フェンリルの形態となったシバ。俺たちがその背に乗りながら後ろを見れば、魔王軍たちがコバエのように空高くを舞う姿が目に映った。
「アイツら、自分の身に何が起こったかも分からないだろうな。さすがはシバの速さとロジャの火力だ。時間さえ置き去りにしてきてしまうとは……」
〔えへへぇ~? そお? そうでもあるかも~~~!〕
「~♪」フンス フンスッ
俺の言葉に、シバと大剣を担ぐロジャがそれぞれご機嫌な様子で応じた。
「しかし魔王軍……数だけはウジャウジャと多いのぅ。これだけのモンスターどこから調達してきているのやら」
「ええ、それが全くもって不可解です。あれだけの規模であれば食料や装備などの
俺を転生させた元女神で現魔女っ子幼女のイオリテの言葉に、エルフであり聖女のジャンヌは顎に手を当てて考え込むようにする。
「この数年でこれだけの勢力となった魔王軍とは、いったい……? テツト様はどう思われますか? 神の視点的に」
「俺? いや……頭の良いジャンヌが考えて分からないことなら俺にも分からんよ……っていうか、だから俺は神じゃないからさ」
相変わらず冗談か本気か分からない信仰を俺に対して抱くジャンヌに、逐一否定を入れつつ応じる。
「ただ……もしそれがこの世の理に合わないっていうなら、魔王もまた何かしらの
「あ、あう~~~? わ、私なのですかぁ?」
精霊のマヌゥはビクビクした様子でずっとシバの背中にしがみついている。シバに揺られての超高速移動がちょっと怖かったらしい。
「でもぉ、私は魔王なんて存在、長年生きてきて聞いた覚えがないのですよぉ」
「そっか。それじゃやっぱり
……まあ、なんにせよそれを考えるのは今じゃない。
「まずは獣王国の助けに入りに行くとしよう。魔王軍が強力なのは確かなんだ……対魔王軍の同盟を色んな国と結んで、もっと仲間を作らないと」
シバは俺たちを乗せたまま草原を駆け抜けて、そのまま森へと突入していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます