夜を過ごす(with ヴルバトラ)※性描写あり

俺たちが帝都へと戻ると、情報が錯そうしていてそれはもう慌ただしい有様だった。


「ひゃっ、百万の魔王軍が攻めてきたとは本当かねっ!?」


「突然竜巻のような魔力嵐が起きて帝国軍が壊滅したとかいうウワサが!!!」


「爆音と共に数万のモンスターが空を飛んでいたという報告が上がっているぞ!? 何が起こっている!?」


……まあ、そのほとんどがロジャ絡みの話のようだったけど。


そりゃ帝都へ迫る魔王軍5万をこの短時間でちぎっては投げをしていれば目立つだろう。それをいま周りのパニクってる人たちに説明したところで、きっと騒ぎはしばらく収まらないだろう。というわけで、


「とりあえず作戦は無事成功です。オグロームを支配する魔王軍幹部はヴルバトラが倒しましたから」


この作戦の総指揮を執っていた帝国軍の司令にだけそう伝えて、俺は帝都宮廷へと引き返すことにした。


「テ、テツト……貴君らの貢献について司令に伝えておかなければ……」


「そんなの別に後でいいって。今は体を休ませなよ」


戦場にはまだシバたちが残っているし、魔王軍残党の索敵にロジャも動いてくれている。特に心配することもない。


「……感謝する」


宮廷にまで戻るころにはようやく勇者の責務という荷物が肩から降りたのか、いくぶん柔らかな声が背中から返ってきた。




* * *




ヴルバトラの自室へと着いた。手早く灯りを点ける。


「えっと……とりあえず鎧だけは外しておくか?」


「ああ、すまん。頼む……」


ヴルバトラは蠱惑の精霊の力を使った反動で体にまったく力が入らない状態だ。鎧の着脱は自分じゃできない。


「じゃあとりあえずベッドに寝かせるぞ?」


「う、うむ……」


背負うにあたって胸当ては外していたけど、手足のものは着けたままだったのでそれらを外し、部屋の隅へと置くことにする。


「さて、後は服の着替えとかだけど……」


「……!」


「さすがに俺じゃできないし、ここでおいとましないとな。深夜で悪いけど、あとは女中の人を呼んできて任せよう」


「そ、そうだな……」


一瞬、ヴルバトラがシュンとした表情を浮かべた気がした。


「ははっ、なんだよ、俺が出てくのが寂しいのか?」


「むっ……そ、そういうわけでは──いや……もしかしたら、そうなのかもしれんな」


「えっ?」


「そうかもしれんと……寂しいのかもしれんと言ったのだ」


ヴルバトラは、顔を少し赤らめた。


「作戦は成功した……しばらくは魔王軍の侵攻は無いだろう。となれば、テツト。貴君とはまたしばらくの別れになるだろう」


「あ……」


確かに、言われてみたらそうだ。俺とヴルバトラはもちろん友人だけど……でも、あくまでそれは魔王軍に対抗するための同志として、肩を並べて戦う戦友としてなのだ。


「……私は、テツトも知っての通り伯爵家の娘だ」


ヴルバトラは、静かに、小さく言葉をこぼす。


「剣の才能にも恵まれて、私の周りに集まるのは私を手中に収めようとする貴族たちや、私の威光を借りようとする者たちばかりだった。テツトのように立場を気にせず接してくれる普通の友人はあまり居なかったんだ」


「ヴルバトラ……」


「不謹慎だが、戦争には楽しい思い出もある。テツトやベルーナたちと肩を並べて戦えたことは、私にとってはとても輝かしい思い出なんだ」


「まあ……分かるよ。俺も『キツい』って口では言いつつも、ヴルバトラたちと力を合わせて困難な状況を乗り越えていったあの日々は……何にも代えがたい時間だったな」


「そうか、貴君も同じことを思ってくれていたのだな……それは大変嬉しいことだ」


ヴルバトラはクスリと笑って……しかし、やはりその表情はどこか哀しげだった。


「でも、こうしてふたりで共に居る時間を過ごすことは、もうなかなか無いだろうな」


「……じゃあ、俺たちといっしょに、冒険者をやらないか?」


俺の誘いに、ヴルバトラは微笑みつつも首を横にした。


「ありがとう。これ以上ないくらい嬉しい誘いだ。だがすまない。私は伯爵家の長女としての使命がある。冒険者になることはできない」


「……そっか。それは残念だ……」


「ああ、とても……」


「……」


「……」


しばらく、俺とヴルバトラの間に沈黙が降りて、それから、


「……テツト、頼みがあるのだが……」


ヴルバトラが少し、意を決したようにして小さく訊いてきた。


「ん? なんだ?」


「服を……着替えさせてくれないか?」


「……えっ!?」


「少し汗をかいてしまったから、このまま横になっているのが気持ち悪くてな」


「わ、わかった……」


女中を呼んでこようか? と言おうかとも思ったけど、そんなこと訊く意味もない。だってヴルバトラにもその選択肢はあったはずだ。でも、それを踏まえてあえて俺に頼んだのは分かり切っているから。


ヴルバトラの服を上下で取ってくる。そして、ベッドに横たわり、体に力の入らないヴルバトラの体を支えながらその服を脱がしていく。


「し、下からか……テツト、貴君はあれか? いつも下から脱ぐ派なのか……?」


「え? あ、いや別に決まってないけど」


「そうか……普通、上から脱がないか?」


「そ、そういうもんか?」


ヴルバトラの上の服の首のホックを外し、背中の紐を緩め、上の服も脱がせ切る。


「……!」


下着姿のヴルバトラ。俺は、音にしては出さないが、生唾を飲む気持ちだった。それほどまでに美しい姿だった。抜群のプロポーションだ。


「……!」


「……」


「…………!」


「……テツト、さすがに露骨に見入り過ぎではないか?」


「……はっ! ご、ゴメン……!」


「構わない。むしろ……その反応を確認できてよかった」


「えっ……?」


「……テツト、本当はもうひとつ、お願いがあるんだ……」


俺の支えるヴルバトラの体が、熱を帯びる。


「私の体に……生命エネルギーを送ってほしい」


「生命エネルギーを……送る?」


「ああ。生命エネルギーさえ溜まれば体が動かせるようになるんだ」


「そうか、分かった。でも送るって、どうやって……?」


「……以前話した私と蟲惑の精霊との契約内容を……代価としているものを覚えていないか?」


「えっと確か……周りの親衛隊から受ける性的な視線を生命エネルギーに変えているとかなんとか……って、まさか──!」


「そうだ……私は蠱惑の精霊との契約により、異性の発情によって発生するエネルギーを生命エネルギーへと変換することができる。だからテツト、もし叶うなら……」


ヴルバトラは先ほどよりも幾分も、蠱惑こわく的な瞳で俺の目を覗き込んだ。


「──私の体を使って、テツトの欲求を発散させてほしい」


「……!」


それは、つまり……ヴルバトラと性行為を行うということに、他ならない。


「こんなこと、テツト以外の男には頼めない……いや、頼みたくない」


「そ、その……俺は、いいぞ……。動けないと不便だもんな……?」


「あ、ありがとう。確かに不便なのもあるが、でも1番は……テツトの温もりを、この体に覚えておきたくて、な」


「……!」


そんなことを言われてしまうと……クラッときてしまう。ヴルバトラ自身も恥ずかしかったのか、頬を朱色に染めていた。


「テツト、それでなんだが……ひとつ申し訳ないことに、私は退魔の精霊との契約上……【処女】である必要があるんだ」


「えっ……?」


「退魔の精霊は概念的な【けがれ】を嫌い【純潔】を好んでいる……ゆえに、直接的な性交や恋人としての交際などはできない」


「じゃあいったい、どうしたら……」


「だから……あくまで生命エネルギーを送る儀式として、テツトには私の体を使って性的快感を得てほしい。交わること以外、何をしてもいい。私の体すべてを使って快楽に浸ってほしい……そのテツトの全てのエネルギーが、私の生命エネルギーとなるんだ」


「つ、つまり……俺はヴルバトラの体を使って……その、自慰的な行為をすればいいってことか……?」


「あ、ああ……やはり、難しいだろうか? すまない、体が動かず、充分な奉仕をしてやることができず……」


「いや……ぜんぜん難しくない……っていうか」


いっさい体の動かない、美少女の友人の体を自由にできるって……いくら合意があろうとも、そんな背徳的なシチュエーション……興奮しないわけがないんだが?


「……テツト? 『っていうか』のあとは、なんだ?」


「いや、なんでもない……それより、ヴルバトラの方の心の準備とか、大丈夫か?」


「……! う、うむ。いつでも大丈夫──あっ! いや、ちょっとだけ待ってくれ!」


ヴルバトラは顔を真っ赤にすると、


「私は今たぶん、いや絶対に汗臭いと思うから……先に体を拭いてくれないか……?」


「……」


……俺、女の子はこういうところが分かっていないと思うんだよな。


「ごめん。ちょっと汗のニオイがするくらいが興奮するから、その願いは聞き届けられないな」


「ちょぉっ! テツト──!?」


そうして俺は陽が昇り始めるまで、ヴルバトラの体を堪能させていただくのだった。

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