帝国救済の果てに
作戦決行の翌日の午後、俺たちは宮廷の広間に招集を受けた。
「こたびの活躍、誠に見事であった」
戦場におけるシバとジャンヌの献身、ロジャの圧倒的な活躍、そして俺とイオリテによるヴルバトラの援護が大きく評価され、俺たちはみんな帝国皇帝より最上級の勲章である【黄金騎士帝国十字章】を授かった。
また、イオリテと出会った都市イースでの功績も正式に認められて、同じ場でSランク冒険者チームの結成が認められた。
チームの命名はみんなから委託されたので、俺はみんなの特徴を取って──【
「イッキトウセンの諸君、お主らには我が帝国の内政が落ち着き次第、望む報酬を与えよう」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
「うむ。また……それとは別にお主たちに頼みたいことがあるのだ」
皇帝から切り出されたそれは──俺たちに魔王軍の調査と討伐の旅に出て欲しい、ということだった。魔王軍については帝国上層部で探っていてなお、明らかになっている点がとても少ないらしい。
「大陸の北の果てから魔王軍がやって来ることは分かっているのだが……」
「つまり、魔王軍の具体的な居所を探しつつ、魔王軍と出会ったらその戦力を削いでいけばいいのですね?」
「うむ。大変な旅になるだろう。手厚い援助を約束する」
「分かりました。できる限りのことはしてみようと思います」
──とまあそういった経緯があり、俺たちはその日のうちに旅立つことに決定した。
「──まったく、もう少しゆっくりしていけばいいものを」
出立の地となるオグロームの北門まで見送りにやってきてくれていたヴルバトラは、そう言って肩を竦めた。ちなみに、その体には【昨晩の
「まあ確かにもう少しゆっくりするのも良かったんだけどさ……クロガネイバラを襲撃したジルアラドの件もあるし、早く魔王軍側の情報を集めるに越したことはないだろ?」
「それはそうだが……」
実は今朝早くに、クロガネイバラのリーダーであるベルーナが意識を取り戻し、復活途中のネオンを除く他のメンバーも帝国内で生きて見つかったという報告が宮廷へと入ってきたのだ。
意識を取り戻したベルーナは『
……もしかしたら80年前に起こったというジルアラド率いるエルフたちと帝国の戦争が再び勃発するかもしれない。その時、魔王軍との戦争が終わっていなければ帝国は2つの戦線を抱えることになってしまう。
「帝国内でのジルアラドの動きはヴルバトラたちが探ってくれるってことになったんだ。その動きに負けないように、俺は魔王軍の調査を進めないとな」
「テツトは本当に……生真面目な男だな」
「はは、どうだろうな。ぶっちゃけ下心も少しあるんだ」
「下心?」
「うん。俺さ、考えてみたらこれまで帝国の外に出たことがなかったんだよな」
「そうだったのか? 同じ人間の国の共和国や、聖王国にもか?」
「ああ。帝国内で冒険者として生きるのに精一杯でさ。だから帝国の外の世界が見られるって思ったら……なんか今、すごいワクワクしてるんだよ」
やはり【冒険者】たるもの、異世界にやってきたのであればこの世界を隅々まで冒険して然るべきだろう。俺はもっともっと、異世界ファンタジーを堪能したいのだ。
「そうか……それならもう、止められないな。分かったよ。道中、気をつけて」
ヴルバトラは小さく笑って送り出してくれようとするが……しかし、寂しそうに目を伏せる。
「……ヴルバトラ、これでお別れってわけじゃないだろ? そんな顔するなよ」
「ああ、そうだな……」
「そうだよ。それに……」
俺はヴルバトラの手を引いて、近づいたヴルバトラにこっそりと、
「また、生命エネルギーが必要になったら呼んでくれ」
「……!」
ヴルバトラはたちまち顔を赤くさせる。
「す、すぐに……呼ぶかも、しれないぞ?」
「そしたらすぐに駆けつけるさ」
「うん……分かった。約束だからな」
「もちろん!」
俺とヴルバトラはいつもふたりでそうするように、拳を軽く突き合わせて、今度こそ心からの笑顔を作る。
「いってらっしゃい、テツト」
「ああ、行ってくる」
ヴルバトラに手を振って、俺たちは帝国オグロームを発つ。
……まず向かう先は帝国から北西にある草原、そこで今も魔王軍と戦っているという獣王国。この国の戦士は強いらしいから、加勢して帝国の仲間になってもらえたなら心強い。
「……いいね。
いったいどんな旅路が待っているのか、これからが楽しみでしょうがない!
* * *
──テツトが帝国を出立したのと同時刻、帝国から北西に位置する草原にて。
「はぁ、かんにんしてほしいわぁ。獣王国ひとつの侵略にいったいどれだけ時間をかけはるの? 今日みたく天気が良いと、ただ待ってるだけでも暑ぅてかなわんのに」
「……も、申し訳ございませんメイス様……獣王国の連中、数はそれほど多くは無いのですが、1体1体がこちらの小隊に匹敵する強さでして……」
「ハァ……あかん、あかんわぁ」
メイスと呼ばれたその深くスリットの入ったチャイナ服のような衣装に身を包んだ11歳程度の少女は、配下の魔族に対して深く深くため息を吐いた。
「そこはアンタ、『メイス様はキョンシーなんやから暑さなんて感じひんでしょ!』ってツッコまなぁ!」
「すっ、すみませんメイス様っ!」
「ったく……あんさん、もう何年ウチの側近やってはるんよっ?」
「えっ? えっと……今日から、ですかね?」
「……だ~か~らぁ~、ツッコミ! 普通に返してどないするんっ!? ハァ、ざっこい上にずっとそんなすっ
「す、すみません……」
「そこは『キョンシーなんやからもう腐っとるやろ!』ってツッコミ入れるとこっ!」
「すっ、すみませんっ! そういえば確かにっ! 腐ってましたねっ!」
「腐ってへんわっ!」
「へぶぅっ!?」
パシンっ! とメイスが手の甲で思わずツッコミを入れるや否や、その配下の魔族は跡形もなく吹き飛んだ。
「……ああ、かなわんわぁ……ざこばっかで。
メイスは肩を落とした。
「こうなったら配下以外でウチの相方になれる存在を探さなアカンなぁ……獣王国は粒ぞろいやて報告も上がってきてはるし……こうなったらウチ自らが乗り込んで見つけるしかない、かぁ……」
魔王軍幹部、【
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