奪還作戦 後編(5 / 5)

オグロームの南、帝都方面の門から俺たちが外へと出ると、そこに広がっていたのは──塵の山。


「こ、これは……?」


「おいおい、マジか……」


俺に背負われているヴルバトラが驚きに目を丸くした。俺もまた、あんぐりと口を開けるしかない。


「モンスターの塵、か? いやしかし、なぜこんな大量に……」


「うーん……俺もまさか、とは思ったんだけど、でも考えられる理由はひとつ──」


そう答えかけて、しかし。俺が言葉にする必要もなかった。


「シショー!」


門を出た先で俺を出迎えてくれたのはロジャだった。


「やっぱりロジャだったか……」


「……?」


ロジャは何のことだか分かっていない様子で首を傾げていた。


「そうか、ロジャもオグロームまで来てくれていたのか。それでこの付近にいたモンスターたちを全て倒してくれていたのだな……」


ヴルバトラはロジャの姿を見て納得げに頷く。


「しかし、他の魔王軍の姿が見えないのはどういうことだ? 事前情報では確か1万だったはず……それらしき戦闘音も聞こえないし……もしかしてロジャの圧倒的な力を前に、残りの部隊などは退却したのだろうか」


「いや、それはどうだろう……俺は違うと思うな……」


俺は半ば確信していた。


「ロジャ……全部倒しちゃったんだろ?」


「……」コクリ


「なっ──なぁっ!?」


頷いたロジャに、ヴルバトラは愕然とする


「バッ、バカなっ! 魔王軍は1万の軍勢だったんだぞっ!? いくらロジャが強いからといって、そんな無茶苦茶な……!」


「あ、ちなみにその事前情報は間違ってて、実際には5万くらいは居たっぽいぞ」


「ごっ、5万っ!?!?!? なおさらあり得んぞっ!!!」


「いやぁ、でも……今回はロジャに【全員消し飛ばすくらいの本気】を出してもいいよって、俺が言っちゃったからさ」テヘッ


「いや、『テヘッ』じゃない! それはあくまで字句じくの上での表現だろうっ? さすがに、そんな人間離れした技……なぁっ?」


ヴルバトラから言葉を求められ、ロジャはコクリと頷いた。


「……1回本気の技を出すと、5千くらい飛んだ……10回本気の技を出したから……5万くらい倒した……と思う……」


「……!!!」


ヴルバトラは驚きを通り越してか、何も言葉が出てこないようだった。しばらく、これまでの凛々しい戦乙女とは思いがたいような、口をあんぐりと開けた間抜けた顔をしていたかと思うと、


「……最初から、ぜんぶロジャに任せておけばよかったのでは……」


そうボソリと呟いた。


……それを言うな、ヴルバトラ。俺もまさかロジャの力がここまで莫大なものだとは思ってなかったんだよ。


ロジャが本気を出せばきっと、たとえ魔王軍のモンスターが5万と居ようとも、俺がヴルバトラを救出するまでの間を持ちこたえてくれるとは思っていたけど……まさか殲滅してしまうとはな。


「ちなみにシバとジャンヌはどうしてるか知ってるか?」


「……あっちで、フェルマックとかいうヤツたちが死んでて、復活させに行った」


「……ああ、なるほど」


おそらく、予想外に大量の魔王軍たちを前に抵抗し切れず死んでしまったのだろう。まあ死んですぐならジャンヌの【聖女の回復セイントヒール】でよみがえることができるから無問題モーマンタイだ。


「じゃあ、とりあえず……結果的には誰も死なずにオグロームを取り戻せたし、作戦は無事成功ということで。お互い、よく頑張ったなヴルバトラ」


「……う、うむ。ほとんどテツトたちの手柄な気もするが……ともあれ、お疲れ様。貴君らに力を貸して貰えて本当によかった」


俺はモンスターの成れの果て、塵の山の合間を小走りで帝都への道を帰った。

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