奪還作戦 後編(4 / 5)

ヴルバトラの愛剣ルナティックにまとわった光の粒子──生命エネルギーは、マヌゥの放つものとは色が違った。


……桜色とでも表現すればいいのだろうか? 淡く、それでいて魅惑的な……匂い立つような空気感。ぶっちゃければエロスを感じた。


「いまさラ、何を仕掛けてこようとも無駄ダ……!」


ワーモング・デュラハンが警戒するように、宙へと浮かぶ3つの頭それぞれでにらみを利かせるが、しかし。




「──無駄なのは貴様の方だよ、デュラハン」




「……ッ!?」


ヴルバトラが薄いピンクに輝く愛剣ルナティックで円を描いた──かと思えば、ワーモング・デュラハンの動きが硬直したように止まる。そして、瞬く間にその全ての表情がとろけ切ったものとなった。


「とく味わうがいい、我が精霊剣技・蠱惑こわく──【満月】をな」


「なん、ダ……! この昂る感情ハ……!」


「アンデッドには欠落していたのだろうが……冥途の土産に覚えていくがいい。それが【欲情】だ。この技で我がとりこにならぬ者はこの世に無い──全て、我がムチを待つばかりの愚者と化す」


ヴルバトラはそして、剣を大きく後ろに振りかぶる。


「契約の元、私にすべての力を与えよ──退魔たいまの精よ!」


ヴルバトラの体から多量の生命エネルギーがほとばしった。


「ワーモング・デュラハン、死にざまを選べると思うな! 精霊たちよ、全ての生命エネルギーを我がルナティックへ注ぎたまえッ!」


ヴルバトラの体を覆っていた生命エネルギーが次第に愛剣ルナティックへと集中し、その輝きは本物の月もかくや、という程になる。




「精霊剣技・退魔──【ピエレ・エクソシズム】ッ!」




「──ッ!!!」


そうして放たれたヴルバトラの突風のような攻撃は、ワーモング・デュラハンを、その体に抱えられた暴発寸前の魔力の塊ごと浄化するように消し去った。その後には塵すら残らない。


「……終わっ、た……」


「ッ!」


フラリ、と。ヴルバトラが揺れて倒れそうになったので、俺は急ぎその場まで跳んでヴルバトラの体を支えた。


「どうした……!? どこをやられたっ!」


「いや、大丈夫だ。さっきの技の反動でな」


ヴルバトラが気まずげに笑う。


「蠱惑の精霊の力のひとつの【相手を強制魅了状態にする】技なんだが、私自身の全精力を捧げなければならず……精霊から供給される生命エネルギーまでもが枯渇すると、途端に動けなくなってしまうんだ」


「奥の手なだけはあってノーリスクではできないってことか」


「ああ。追い詰められたときのための、本当に最後の手だ。使った後は数日、指1本動かせなくなってしまうから困ったものだ」


小さくため息を吐きながら、ヴルバトラが言う。


「……テツトが居てくれて助かった。貴君がいなければ、私はこの技を使ってなお魔族たちを倒し切ることはできなかったろう」


「そうか? 役に立てたようなら何よりだよ」


「フッ。役に立ったどころか、ここにいるほとんどの敵を倒し尽くしたのはテツトではないか」


「でも幹部を倒して、その自爆から街を救ったのはヴルバトラだ」


「……まったく、テツト、貴君はもっと自慢げにしてくれても構わないのだがな」


ヴルバトラが微笑んだ。


「改めて、ありがとう。テツト。救援感謝する」


「あいよ。でも、戦友を助けにくるなんて当然のことさ」


「フフ、では……言葉に甘えてもうひとつ助けをお願いしたいのだが」


「ん? なんだ?」


「私を帝都まで運んで帰ってくれないか……?」


「……あ、そっか。動けないんだもんな?」


「うむ。まったく」


俺に体を預けるがままのヴルバトラはそう言って、困ったように笑いかけてくるのだった。

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